映画最高!(Cinema + Psycho)

映画に関するあれやこれやについて綴っていきます。映画の感想をメインに、映画にまつわるエピソード、そしてワンポイント心理学を紹介していきたいと思います。

映画「ある閉ざされた雪の山荘で」感想 ―東野圭吾30年前の新境地―

 

「ある閉ざされた雪の山荘で」概要と感想

東野圭吾の同名小説の映画化。
7人の若手役者が次回作のオーディションのため、とある山荘に集められる。大雪で閉ざされた山荘で起こる連続殺人事件というのが次回作の設定で、事件を解決したものが次回作の主役だと告げられた7人は、訳がわからないままオーディション合宿がスタートするが、1人、また1人と姿を消していき・・・。

監督は、「荒川アンダー ザ ブリッジ THE MOVIE」「宇宙人のあいつ」の飯塚健
主要キャストは、重岡大毅間宮祥太朗中条あやみ岡山天音西野七瀬、堀田真由、戸塚純貴、他。

自分のX(旧Twitter)に投稿した一言感想はこちら。

東野圭吾と言えば、探偵ガリレオシリーズを始め、多くの作品が映画化、テレビドラマ化されておりますが、本作でおそらく23本目の映画化作品となります。原作は未読で、読んだ方の感想などをネットでチェックした程度です。
今回は新感覚ミステリーということで、"謎解き"、"全てが伏線"、"驚愕のラスト"などややもすれば誇張しすぎな謳い文句が並んでいることで、良い方面でも悪い方面でも期待をしていたのですが、正直、ミステリー作品としてはイマイチという印象でした。

1つ目の要因として、やはりミステリー作品としては、フーダニット(誰が犯行を行ったか)を軸にしてもらいたいという点です。犯人探しに重きを置いていない作品もたくさんありますし、それでも傑作と言われているものもあることは重々承知しているのですが、本作においては、次回作の主役を勝ち取るための条件ともされているので、やはり「犯人は誰か?」は主軸にしてほしかったという印象でした。

2つ目の要因として、本作の出来事がオーディションにおける演技なのか、それとも実際に起きている殺人なのか、というのがキーになっているのに、そのバランスの緊張感が全くないという点です。
このあたりはネタバレなしで解説するのは難しいのですが、仮に演技だとしても実際に事件が起きているのだとしても、事件を解決しようという動きを見せてほしいところなのですが、せいぜい動くのは語り部でもあり本作では一応の探偵役とも言える久我和幸(重岡大毅)ぐらいで、それでもビデオカメラを仕込んだり、消去法的にアリバイを確認したりする程度です。

3つ目は映画的、視覚的な演出としてのマイナス面です。このオーディションを計画したとされる演出家からのメッセージが、プロジェクション・マッピングよろしく山荘の壁に大々的に映し出され、建物内のどこにいても聞こえそうな音量でナレーションも入ります。正直これは予告編だからわかりやすく映し出しているのだと思っていたら本編にも出てきたのであっけにとられてしまいました。この演出も上記のバランスを考えるとマイナスだった気がします。それ以外にも"視覚的に"分かりやすすぎる表現が多すぎて、見ている側に思考や想像の余地を残していないのが残念でした。

とはいえ、映画として十分鑑賞に値する部分もたくさんあります。
まずはやはりキャストの魅力でしょう。
本作は、重岡大毅間宮祥太朗中条あやみと映画やテレビで活躍中の若手役者がずらりと出演しています。演じているのが役者で、舞台設定も山荘でのオーディションというパーソナルな空間になっていることで、演技というよりは素のキャラクターという雰囲気も感じ取れます。とりわけ中条あやみの美顔体操とかシャドーボクシングとか可愛らしさ満載になっています。自分の好きなキャストに入れ込むことができるのはこうしたアンサンブル作品ならではでしょう。

もう1点、本作を映画化して良かったと断言できる点としては、映画オリジナルのラストです。
原作自体、構成としてはこれまでにない、まさに新感覚のミステリーになっているのですが、映画ではさらに仕掛けを用意しています。原作を読んでいないのでどちらが良いかといった比較はできませんが、未見の方はぜひ映画の方もご覧いただけたらと思います。自分も原作を読んでみようと思っています。

東野圭吾作品と映画化について

先述したように東野圭吾作品は話題作が多いこともありとかく映像化も多い印象です。
本作の宣伝で、「作品の累計発行部数が1億部を突破!」とも書かれていますし、映画に絞ったところで本作で23作を数えるのですから、その人気も頷けるところです。

ただ、昨今の映像作品化における原作の問題が取り上げられていることもあって、奇しくもそのやり取りの中で東野圭吾氏の名前もおそらく不本意な形で出てきていることもあるので、同氏が映像化についてどのように考えているのかは気になるところですが、本作の公式サイトにもコメントを載せていますし、概ね(映像は別物と達観した捉え方をされている場合も含めて)好意的に捉えているのではないでしょうか。

自分も映画・原作どちらとも見ているものもあれば、どちらかのみというのもあるのですが、映画化された東野圭吾作品をいくつかピックアップしてみたいと思います。

 

「秘密」(1999)
滝田洋二郎監督、広末涼子小林薫主演のドラマ。
妻と娘がバス事故に遭い、妻は死亡してしまうが娘は一命を取り留める。しかしそれは娘の体に妻の魂を宿した状態だった。体は娘、心は妻という状態に戸惑いながらも生活をしていくが、ある日、娘の心が出てきて・・・。
東野圭吾出世作にして、初めて映画化された作品です。
ファンタジックなラブストーリーとして非常に良くできていました。
ちなみに「ある閉ざされた雪の山荘で」は1993年の作品で「秘密」よりも前だったんですね。

 

 

レイクサイド マーダーケース」 (2004)
青山真治監督、役所広司薬師丸ひろ子柄本明豊川悦司主演のサスペンス。
子どもの中学受験のための勉強合宿に集まった3組の家族。そのうちの一人俊介は妻・美菜子と別居中だったが渋々合宿に参加することに。その場に俊介の仕事仲間で不倫相手の英里子がやってくる。その夜、英里子が殺され、妻の美菜子は「自分が殺した。」と言うのだが・・・。
すでに殺人が行われ犯人も自供している中で、子どもの受験のために事件を隠蔽するかどうかという形で進行していく異色のミステリーで、当時稀代の青山監督の作品ということで話題にもなったが、謎要素の追加と衝撃のラストシーンで一気に珍作に。

 

「手紙」(2006)
生野慈朗監督、山田孝之玉山鉄二沢尻エリカ主演の感動ドラマ。
直貴はリサイクル工場で人目を避けるように働いていた。というのは、彼の兄・剛志が弟の大学進学の学費のために強盗殺人を犯してしまい現在も服役中だったからだ。兄からの手紙で素性がバレてしまった直貴は工場をやめ、夢だったお笑い芸人の道を目指すのだが・・・。
加害者家族に焦点を当てた作品として印象的だが、今にして思えば色々設定に無理があって、力技で感動ドラマに結びつけた感じはあります。

 

容疑者Xの献身」(2008)
監督西谷弘、福山雅治柴咲コウ堤真一松雪泰子主演のミステリー。
探偵ガリレオシリーズの一作で、TVドラマシリーズを経ての映画版第一弾。
身元不明の死体が上がり、容疑者として弁当屋をしながら子どもを育てていた花岡靖子が浮上する。しかし彼女には完璧なアリバイがあり警察の捜査は手詰まりとなってしまう。内海は物理学者の湯川に相談したところ、湯川は花岡の隣人にして、かつて湯川と並ぶほどの天才数学者だと言われていた石神に注意を向けるが・・・。
ミステリーとしての完成度、ドラマ性、全てにおいて群を抜いている作品。
目下東野圭吾作品で興行収入ナンバーワンというのも大いに頷けますね。

 

白夜行」(2010)
深川栄洋監督、堀北真希高良健吾主演のサスペンス。
容疑者死亡によって幕引きとなった事件の容疑者の娘・雪穂と被害者の息子・亮司。やがて大人になり美しく成長した雪穂だったが、彼女の周りでは不可解な事件が起こり・・・。
綾瀬はるか山田孝之主演で先にTVドラマ化もされているが、文庫本で800ページ超の大作なだけに映画はかなりダイジェスト感が強かった印象なので、ドラマ版の方が良かったですね。

 

祈りの幕が下りる時」(2017)
福澤克雄監督、阿部寛松嶋菜々子溝端淳平主演のミステリー。
日本橋署に赴任してきた"新参者"の刑事、加賀恭一郎の活躍を描いて話題となったTVドラマシリーズの映画化第二弾にして完結編。
東京の下町のアパートで女性の絞殺死体が発見される。アパートの家主は行方不明だったが、捜査線上に加賀の知り合いの舞台演出家・浅居博美が浮上してきて・・・。
東京の下町という舞台設定、2つの事件の交錯、そしてシリーズ通じて謎となっていた加賀のルーツの話も出てきて、まさに映画化作、完結作にふさわしい出来でした。
浅居博美役は松嶋菜々子なのですが、過去の博美役を桜田ひより→飯豊まりえ、と演じているので、やっぱ超きれいだな。

 

「マスカレード・ホテル」(2018)
鈴木雅之監督、木村拓哉長澤まさみ主演の群像劇。
連続殺人事件の舞台として予告された高級ホテルに潜入捜査をすることになった刑事と、彼の指導係となったホテルスタッフのヒロインを中心に、一癖も二癖もある客たちの中から犯人を探そうとする姿を描く。
オールキャストの豪華さもさることながら、木村拓哉の刑事としての立ち位置と長澤まさみのホテルスタッフとしての立ち位置のぶつかり合いが面白くも見応え十分。
続編の「マスカレード・ナイト」も映画化され、探偵ガリレオシリーズと双璧をなすとも言える人気作。

 

他にもあるんですけど、自分としては作品の完成度、評価はかなりマチマチですが、とにかくジャンルの幅広さ、そして今回のレビューの「ある閉ざされた雪の山荘で」もそうですが新境地へのチャレンジが感じられる作品が多いのが印象ですね。
確か「g@me」の原作「ゲームの名は誘拐」のあとがきだったと思うのですが、原作では「○○は流暢な英語を話し・・・」と書けば良いだけなのに、それを実践してみせる俳優さんがすごいというような内容
だったので、やはり映像化に関しては好意的に捉えられているのでしょう。
今後の作品にも期待したいところです。


ワンポイント心理学 ~現状維持バイアス

自分がよく行くレストランで定番のメニューがあるといつもそれを頼んでしまうことはありませんか?
人は、選択や意思決定の場面において、自分が未経験のものやしたことがないこと、全く新しいものなどを受け入れることを恐れ、いつもどおりの定番のものを選択したり、今の状況を継続したりする方を好む傾向のことを、現状維持バイアスと言います。
このような傾向が見られる要因としては、未知なもの、新規なものを選択することで、どういう結果を生じるか分からないというリスクが生じることが上げられます。もちろん思わぬ良い結果を生む可能性も大いにあるのですが、人はリスクを恐れる傾向があるため、少なくともどのような結果になるかが分かっている現状維持の選択を好むということになります。とりわけ安定志向の強いとされる日本人の多くは、この傾向に囚われがちです。

現状維持バイアスは、この傾向を知ってもなお、影響を受けやすく現状維持の方を好みやすいという頑強さを持っています。それゆえ克服するのは非常に難しいのですが、現在は非常に多くの他者の情報、感想、意見をインターネットを通じて入手しやすくなっていて、これを利用することで自分とは異なる視点で物事を捉えることが可能になります。たとえば上記のレストランの例でも、飲食店評価のサイトなどで様々なレビューを簡単に見ることが可能で、もしかしたら自分がよく行っているレストランの隠れた美味しいメニューを見つけることができるかもしれません。

映画の感想でも、東野圭吾作品に限っても自分の評価はすごく面白いものから微妙ものまで多岐に渡っていますが、見る人が変わればまた評価も一変するかもしれません。

当の東野圭吾氏はこれだけ果敢に他ジャンルにかつこれまでにない新境地を切り開こうと尽力されているので、こうした現状維持バイアスには囚われていないのかもしれません。
これは多様性の認識が求められている現代においては非常に重要なことだと思います。

自分もリスクを恐れず、これからも色々な映画を見ていく所存です!