映画最高!(Cinema + Psycho)

映画に関するあれやこれやについて綴っていきます。映画の感想をメインに、映画にまつわるエピソード、そしてワンポイント心理学を紹介していきたいと思います。

映画「ゴールデンカムイ」感想― 人気原作の映画化におけるライトスタッフとは

 

ゴールデンカムイ」概要と感想

 

野田サトルの同名コミックの実写映画化。
明治初期の北海道を舞台に、元陸軍兵士で不死身と恐れられた杉元と、アイヌの少女アシㇼパが、それぞれの目的でアイヌ埋蔵金の争奪戦に身を投じていく。

監督は「HiGH&LOW」シリーズの久保茂昭
脚本は「ライアーゲーム」「キングダム」シリーズなどで知られる黒岩勉
主要キャストは、山崎賢人、山田杏奈、矢本悠馬玉木宏舘ひろし

自分のX(旧Twitter)に投稿した一言感想はこちら。

 

原作は累計2700万部を超える大ヒット作で、2014年に連載がスタートし、2022年に単行本31巻で完結しています。
自分は原作のファンで、展覧会、脱出ゲームにも行っています。
ですので原作ファンの目線という形での映画評価になりますが、結論から言えば、実写化としては大成功の部類に入るのではないでしょうか。

まずは全体の構成ですね。
物語の軸となる部分としては、杉元とアシㇼパ、鶴見中尉率いる陸軍第7師団、そして土方歳三の一派の三つ巴によるアイヌ埋蔵金争奪戦なので、映画化ともなるとこのエピソードばかりがピックアップされてしまうのではないかと思っていたのですが、そんなことはありませんでした。

1点目は、冒頭に出てくる日露戦争二百三高地における戦いのシーン。
これは杉元が"不死身の杉元"と呼ばれる所以にもなったエピソードにつながるのですが、映画化に当たっては短いシーンをフラッシュバックのように入れる程度にするのかと思っていたのですが、しっかりと描いていました。

2点目は、杉元がアシㇼパと共にアイヌの里を訪れるシーン。
ここではアシㇼパのルーツに触れるとともに杉元が彼女を血なまぐさい戦いの世界に連れて行くわけにはいかないと決別を考えるところなのですが、しっかり尺を取ってアイヌの他の人々のキャラクターや生活ぶりを描いている印象でした。

3点目は、食事のシーンです。
杉元とアシㇼパはアイヌの料理を食べるシーンが原作でもかなりたくさんあって、一時はグルメ漫画なのか?とすら思うほどだったのですが、それは映画でも健在でした。
チタタプは肉や魚のたたきに当たるアイヌ料理ですが、リスの脳みそなどいわゆるゲテモノ料理系のものもあって、そのシーンも再現していました。
アシㇼパも杉元の持っていた味噌をオソマ(ウンコ)といって敬遠していましたけどね。

こうしたメインストーリーとは別の部分にもしっかり焦点を当てていたのが好印象でした。

もちろんメインとなるアイヌ埋蔵金争奪戦も物語的には序盤部分ではありますがしっかり描かれています。導入の杉元とマキタスポーツ扮する後藤竹千代とのやり取りから網走監獄の脱獄囚の入れ墨に埋蔵金の隠し場所が示されていることが分かる導入からクマの襲撃、雪山や犬ぞりでのバトルとアクションシーンもしっかり盛り込まれていて、このあたりは原作を知らない人でも楽しめるのではないでしょうか。

そしてキャストも原作のイメージを損なわないどころか、より昇華させるようなキャラクターとして演じられています。
杉元役の山崎賢人はとかく漫画原作のキャラクターを演じることが多く、その度にいわれのない批判を受けている節もあり、本作でも同様でしたが、細マッチョな体型にビルドアップしているだけでなく、特に先述した二百三高地での戦闘シーンでは狂気を孕んだ凄みを見せつけてくれて、まさに不死身の杉元でした。
アシㇼパ役の山田杏奈も演じるには年齢が高すぎると言われていましたが、映画としてみて全く違和感はないどころか凛とした雰囲気はまさにアシㇼパそのものですし、何よりあの"変顔"もしっかり再現してくれたところが素晴らしいです。
そして、何と言っても鶴見中尉扮する玉木宏でしょう。原作者の野田先生も唯一リクエストしたキャストだったらしいですが、狂人的なキャラの多いゴールデンカムイでも1,2を争うレベルの鶴見中尉はともすれば漫画チックになりすぎる気がしますが、絶妙なバランスで表現してくれていたと思います。

原作にもかなり忠実で、何より映画製作陣の原作愛やリスペクトが感じられるというのが何よりこの映画の完成度の高さにつながっているのではないでしょうか?

映画をご覧になった方はぜひ原作を読んでほしいです。
そして原作ファンの方も安心して映画を見てみてください。

 

 


人気マンガ・小説の映画化の是非

自分が「ゴールデンカムイ」を鑑賞したのと前後するぐらいの時期に、「セクシー田中さん」の原作者・芦原妃名子さんが自ら命を絶つという悲劇的な事件が起きてしまいました。その背後には、同作品のTVドラマ化に当たって原作者が意図しない、望まない改変があったことが1つの要因とされています。

おそらく原作のファンにとって、自分の好きな作品がTVドラマや映画として映像化されることを手放しで大歓迎するという人はいないのではないかと思っております。
自分は映画が大好きなので映画になってくれること自体は嬉しいですが、やはり自分が好きなマンガや小説の映画化となると原作のイメージを損なうことを恐れてしまいます。
ちなみに自分はすでに原作を読んでいた場合を除いて、映画化が決定した場合は必ず映画→原作の順番で見るようにしています。

1ファンですらそのように思うので、作品を自分の子どものように大切なものだと考えている原作者からすればなおさらでしょう。

TVドラマや映画の製作サイドとしては、人気のマンガや小説が原作となっていることで、作品のイメージを視覚化しやすいだけでなく、物語の骨子がしっかりしている、原作の固定ファンによってある程度の評価が保証されるなどのメリットが多く、0から創作するよりもはるかに楽でリスクも少ないものとなっています。
かつ原作者に支払われる使用料も作品の興行収入から考えるとかなりかなり安価で、有名どころで言えば、興収50億円以上だった「テルマエ・ロマエ」の原作者のヤマザキマリさんが原作使用料が100万円だったことを仰っていましたし、今回の「セクシー田中さん」の件でもまた名前が取り上げられた佐藤秀峰さんは、映画化されたシリーズ4作品で200億近い興収となった「海猿」で200万円程度だったことを吐露しています。
もちろんメディアミックスによって原作の売れ行きが向上することも考えられますが、それ以上に相対的には少しのお金で原作を改変されてしまうことは原作者としてはデメリットが大きくなってしまいます。
「セクシー田中さん」はTVドラマなので映画よりも原作使用料が安いことが推測されますし、こうした思いがなおさら強かったのかもしれません。

 

海猿 完全版 1

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人気原作の映画化におけるライトスタッフ

自分は映画が好きで、映画も原作も両方好きな作品もあれば、残念ながらそうではない作品もあります。
ただ、原作>映画という作品はあっても、原作を超えた映画というのはぱっと思い当たるものがありません。そこで、人気の原作を元に映画化する場合にはどのような点が重要なのかを自分なりにまとめてみたいと思います。

1. 原作にある程度忠実であること

まずはやはりこれでしょう。今回の「セクシー田中さん」の問題でもやはり原作者の意図しない内容での改変があったことが一因でしょうし、原作者、原作のファンとも出来上がった作品に納得ができないとしたら、この点にあると言えます。
ただ個人的には原作を完全忠実に映像化するということまでは必要とは思っておりません。それならば映像化する意味も弱まってしまうと思っています。TVドラマや映画ならではの部分があっても良いと思いますが、それはあくまで原作を尊重できる範囲内でのことに限られます。
例外的だと思うのは、「DEATH NOTE」で、映画では2部構成で製作されていて、原作のL対キラ編を映画化しているのですが、映画オリジナルのラストになっていて、原作とは違いますがこれはこれで一見の価値ありだと思いました。

2. キャストが原作のイメージを極力壊さないこと

キャストもやはり重要です。メディアミックスとして(少なくとも興行的には)うまくいった例としては、最近では「るろうに剣心」シリーズ、「キングダム」シリーズなどが該当すると思いますが、いずれも原作のイメージから大きく離れないキャストになっています。
これまた例外的だと思うのは、「ちはやふる」の主人公・千早を演じた広瀬すずでしょうか。この作品では、他のキャストは比較的原作のイメージ通りなのですが、広瀬すずはそうではありませんでした。公開前のポスターを見たときも"広瀬すず感"が強すぎるのもあってイメージとはだいぶ違っていたのですが、映画として動いている映像を見たときに、動的な姿としてはまさに千早という印象でした。
また、原作からキャラクター、特に性別を変更した例もいくつかありますが、海堂尊原作の「チーム・バチスタの栄光」の映画版がまさにそれです。不定愁訴外来の田口先生と厚生省の破天荒な役人・白鳥のバディものでもある同シリーズで、田口先生は原作では男性ですが、映画版では竹内結子が女性キャラとして演じています。それで特に違和感を感じるわけでもなく、キャラクターとしてもあっていたように思います(TVドラマ版では伊藤淳史が演じていてそれはそれで適役だったとも思いますが)。
東野圭吾原作のガリレオシリーズでも、物理学者の湯川学のバディとなるキャラクターがTVドラマや映画では柴咲コウが演じる内海薫という女性の刑事になっていて、原作でバディだった草薙も出演はしますが薫の上役という形で一歩引いた立ち位置になっています。ちなみに内海薫は当初は原作にはいなかったのですが、映像化を経てシリーズの後半では原作にも登場するようになりました。
このように、映像化にあたって、より良くするためであろう改変がうまくいった例もあるのです。

 

3. 原作ダイジェストにならないこと

これは特に原作がマンガの場合、かつそのマンガが長期連載の作品の場合には、2時間の映画に収めようとするとどうしても無理が出てしまい、結果としてダイジェストのようになってしまうことが懸念されます。
原作のコミック単行本が全27巻ある荒川弘原作の「鋼の錬金術師」は映画では3部作で描こうとした結果、ストーリーの展開が早すぎて原作を読んでいない人には理解できない部分も出てきてしまうなどの問題もありました。
浦沢直樹原作の「20世紀少年」もキャストは概ね原作のイメージ通りで素晴らしかったのですが、通算で単行本23巻の原作をやはり映画で3部作構成としたため、駆け足感は否めませんでした。
対して、「キングダム」は原作と完全一致しているわけではありませんが、基本は忠実に映画化されている印象ですし、「るろうに剣心」シリーズは作品の中でも特定のエピソードに絞っての映画化をしていました。
そして「ゴールデンカムイ」も原作では1~3巻相当の内容を丁寧に描いているのが、原作ファンからしても大いに満足できる要因でしょう。
目下のところ心配なのは最後まで完結するのかですが・・・。

 

キングダム

キングダム

  • 山﨑賢人
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ワンポイント心理学 ~ゲイン・ロス効果~

人気原作の映画化作品を見るに当たって、見る側の注意すべき点としては、「過剰に期待しないこと」でしょう。
原作が好きすぎるとどうしてもハードルを高く設定してしまいますが、それゆえ実際に映画化されたものを見たときに、期待外れと感じてしまうことが多くなってしまいます。
個人的に映画をたくさん見ている方だと思いますが、それでもやはり原作を超える映画というのはぱっと思い当たるものがありません。
反対に、事前の期待がそれほどでなかった場合に、映画化されたものを見たら案外良かったという経験はたくさんあります。
例えば、2022年末に公開され昨年大ヒットとなった「THE FIRST SLUM DUNK」は、公開までに情報が少なかったこともあってか事前評価はあまり高くはありませんでしたが、蓋を開けて見れば評価は総じて高く、ロングラン大ヒットを遂げています。
ゴールデンカムイ」も公開前にキャストが発表されたりビジュアルイメージが先行公開された段階では決して評判はよくありませんでした。それでも試写から公開にかけて評判が向上していき、現在も絶賛公開中となっています。
心理学では、最初に好意的な評価だったものが否定的な評価になることで、相対的に否定的な評価が高まることをロス効果と呼び、それとは反対に最初は否定的な評価だったものが好意的な評価に転じることで、相対的に好意的な評価が高まることをゲイン効果と呼びます。両方をあわせてゲインロス効果と言い、安定した評価よりも評価の変化の方に敏感に反応しやすいことを示しています。元々は対人場面における評価で証明された効果ですが、様々な事象にも当てはまることが知られています。
ですので、人気原作の作品は、あまり過剰な期待はせずに映画を鑑賞することをオススメします。