映画最高!(Cinema + Psycho)

映画に関するあれやこれやについて綴っていきます。映画の感想をメインに、映画にまつわるエピソード、そしてワンポイント心理学を紹介していきたいと思います。

映画「マッチング」感想 ―あえてそれを死卍と呼ぼう―

これまで当ブログでは比較的真面目に映画の感想を書いてきたつもりです。
とりわけ考察のしがいのある作品をピックアップして記事にしているのですが、観る側の姿勢としては基本的には食わず嫌いを避けておりまして、要するにタイミングさえ合えばなんでも観るというスタンスです。
そんなわけで選り好みをせずに映画を見ていると、当然ですが中には面白くない作品や意味がわからない作品、もったいない作品などにもたくさん出くわします。
ただそうした映画でも視点を変えればいろいろと楽しむことができると思っていて、今回の記事はそんな作品「マッチング」です。

 

「マッチング」概要と感想

 「ミッドナイトスワン」「異動辞令は音楽隊!」の内田英治監督が、自身で原作・脚本も手掛けたサスペンス・スリラー。マッチングアプリを始めたヒロインがアプリで知り合った男性によって巻き込まれる恐怖を描く。出演は土屋太鳳、佐久間大介金子ノブアキ杉本哲太斉藤由貴、他。
ウェディング・プランナーの輪花(土屋太鳳)は、仕事とは裏腹に自分の恋愛には奥手になっていた。同僚に勧められたマッチングアプリで吐夢(佐久間大介)とデートをするも、粘着されてしまい恐怖を感じる。そこでマッチングアプリの運営スタッフの影山(金子ノブアキ)に助けを求めるが・・・。

 

自分のX(旧Twitter)に投稿した一言感想はこちら。

 ミステリーやサスペンス系の作品で、人を惹きつけるためのキャッチコピーとして「どんでん返し」を謳うものも少なくありませんが、本作もその1本です。ただし、こういう売り方をされようとされまいと、我々の目が肥えてきたというか見慣れてきたというか、構えのようなものができてしまって、斜に構えて素直な気持ちで観られなくなってしまっている気がします。ミステリーやサスペンスが一ジャンルとして確立されて以降多くの作品が世の中に出てきたことで、完全に観ている側を騙す、ということが非常に困難になってきています。

 このあたりは過去の記事、「映画「ある閉ざされた雪の山荘で」感想」にも書いています。該当記事はこちら。

sputnik0107.hatenablog.jp


 その構えによる見方の最たるものが、「いかにも怪しいやつは犯人ではない」ということです。確かに最初から犯人らしい人物がそのまま犯人だったらなんのひねりもなくなってしまうのですが、逆に言えばそれで容疑者があっさり除外されてしまうというのも皮肉なものです。
 本作はそれで終わらせないために一ひねり、二ひねりと仕掛けを用意しているのですが、そこにがんじがらめになりすぎてしまったという印象は否めませんでした。なんらかの事件が起こったときにはやはり動機やアリバイという要素は重要だと自分は思っていて、本作ではそこをないがしろにしてしまっているがために、どんでん返しと言われても・・・という気がしてしまいました。
 新婚のカップルが同じ形で惨殺される事件が連続して起こっている、その流れで輪花がマッチングアプリで出会った不審な男が出てくる、さらに輪花の父親も何か隠し事があって・・・ととっかかりは色々あるのですが結びついていきそうで結びついていかないので、設定としては不十分だったように思います。

 内田英治監督作品と言えば、やはり「ミッドナイトスワン」でしょう。草なぎ剛トランスジェンダー役を演じたことでも話題になった同作は評価、興行成績のどちらも良かったと思いますが、物語や展開という部分では疑問なところも多かった印象です。それでも草なぎ剛はじめキャストの演技、キャラクター、そしてバレエのシーンをはじめ映像的には目を見張るところが数多くありました。
 そして今年「マッチング」に先駆けて公開された「サイレントラブ」では、言葉を発することができない男性と目の見えない女性の儚い恋を描いています。こちらもやはり設定や展開には不可解な部分が散見しますが、やはり主演の二人、山田涼介と浜辺美波が演技も良く絵的にも映えるのと、特に前半のビジュアルの良さは印象的でした。
 本作も含めて、展開や設定には粗がある、だけどキャストの演技と映像や美術に助けられているというのが目下のところ内田英治監督作品の共通点という印象がありますが、確かに映画なので絵的な良さがあれば十分なのかもしれませんが、それならばもう少し物語にも説得力を持たせてくれれば良いのにという気がしてしまいますね。ということで、本作を真面目に観た場合はあまりオススメできる作品とは言えません。

 


粗があるなら突っ込めばいいさ!B級映画の楽しみ方(ネタバレ全開要注意!)

 先にも書きましたが、自分はとにかく食わず嫌いで映画を観まくっているため、世間一般の方と比べて地雷を踏む確率も高くなっているので、そうしたB級、C級、Z級映画の耐性もかなりついていると思います。いやもはや地雷だと分かってても踏みに行くぐらいの勢いもあります。観た映画が期待外れだった場合、ただつまらなかったと吐き捨てるのではなく、どのように観れば面白くなるのかを模索すれば良いのです。設定や展開に粗があるのならば、突っ込めば良いのです。自分がこのような考えに至るきっかけになったのが、映画解説者としてよく知られていた故水野晴郎が初監督だけでなく製作、原作、脚本、主演、主題歌の作詞を務めた作品「シベリア超特急」です。この映画はもう・・・いやこれ長くなるからやめましょう。そういえばシベ超もどんでん返しを謳った(というか映画の冒頭に「どんでん返しありまぁす!と宣言してる」)作品でしたね・・・。

 

 ということで、本作もだいぶ公開から時間も経っていることですし、ネタバレ全開でお送りしたいと思います。未見の方、これから映画を真面目に観ようと考えている方はこの章はスルーをお願いします。

 

 ウェディング・プランナーとして働く輪花(土屋太鳳)は、恩師(大学時代だったか高校時代だったかは失念)の結婚式を手掛けていました。輪花は実はこの恩師に片思いをしていたためどこか心ここにあらずの状態でした。それを見かねてか同僚の尚美(片山萌美)に半ば強引にマッチングアプリ「ウィルウィル」を勧められ、始めて見ることに。しかしそのアプリで尚美に勝手に"マッチング"された相手、吐夢(佐久間大介)は初デートのときに「自分は生まれてすぐにコインロッカーに捨てられた」と暗い生い立ちを話し出してきたので輪花は適当にあしらって立ち去ろうとしますが、さらに「僕とあなたは運命でつながっています」と言われてドン引きします。

 一方その頃、アプリで知り合って結婚したいわゆるアプリ婚カップルを狙った猟奇殺人事件が続発していました。殺された夫婦は手を組んでそこを鎖でがんじがらめにした状態で顔にバツ印をつけられているというのが共通点で、ここは本作の美術、特殊造形の見どころの一つとなっています。このアプリ婚殺人事件が報道され、登録者が激減してしまった「ウィルウィル」は、輪花の働く結婚式場と共同の企画をスタートすることになります。アプリ婚殺人事件なのだからアプリと結婚が結びついてることが問題のような気がするのでこの企画は逆効果だと思いますが、かくして輪花は「ウィルウィル」のプログラマー影山と親しくなったので、吐夢の件で相談をすると、「この吐夢という人物は他のサイトでも問題を起こして逮捕されたこともある」という衝撃の事実が伝えられますが、そこまで把握しておきながら平然と「ウィルウィル」を利用させていることの方が衝撃の事実でした。ちなみにその後「ウィルウィル」の会社でエンジニアの一人が輪花と吐夢のやり取りを平然と見ているシーンもあって、これが本作で一番怖いシーンです。

 輪花は影山と良い感じになってデートを重ねていたある日、吐夢が輪花の自宅にやってきて、「影山とは会わないほうが良い」と忠告をしてきますが、ストーカーされていると思った輪花は「警察を呼びますよ!」と言うといつの間にか吐夢はいなくなり、代わりに警察官がいます。このシーンはおそらく家のドアをドンドン叩いてくる恐怖が実は違う人でしたっていうシーンを作りたかっただけではないかと思われます。

 ほどなくして再びアプリ婚殺人事件が発生します。被害者は冒頭で輪花が担当した元恩師とその妻でした。この件でかつて片思いをしていた輪花が、片思い相手から不倫相手、さらには殺人犯にまで格上げされ、仕事もできなくなってしまう。週刊誌にあることないこと書かれる様も描かれていて、適当にマスコミ批判を取り入れるためだけに元恩師で好きだった人設定にしたのかと勘ぐってしまいます。

 さらに、輪花が母の失踪以来、父親の芳樹(杉本哲太)と2人で暮らしている家のポストに、父親の若かりし頃と知らない女性の2ショット写真が送られてきます。少し前に知らない女性から電話がかかってきたこともあり、これが同一人物だと思った輪花は父親に問いただすと、父親はかつてパソコンチャットで知り合った女性と不倫をしていたことを認めます。芳樹は不倫相手に別れ話を切り出そうとしたら芳樹との子どもを妊娠していることを告げられ、それでも強引に別れようとしたら包丁で刺されたことが分かります。

 次の日、父親が書き置きをして家を出ていたことに気がついた輪花は、父親がかつての不倫相手に会いに行ったのだと思い、影山に相談します。一方その頃、同僚の尚美のところに吐夢が現れます。そのことを電話で聞いた輪花は、尚美のマンションに駆けつけますが、チャイムに応答がないので不在かと思って外に出たら、マンションのベランダから尚美が落ちてきます。密室状態のマンションの部屋から人が転落してきたのならば犯人は部屋にいるだろうと思いますが、同僚の死にショックでそれどころじゃないということにしておきましょう。ちなみにこのシーンはなかなかインパクトがありますので、次の章で詳しくネタバレします。

 その後、芳樹が橋の欄干で首を吊っている状態で発見されます。輪花は自分が不倫のことを責めたせいで自殺したんだと半狂乱になりますが、相次ぐ親しい人の死に取り乱しているのでそっとしておきましょう。父親の葬儀の後、影山から「吐夢について衝撃の事実が分かったので一緒に来てほしい」と言われ、廃墟になったアパートにやってきます。そこはかつて父親の芳樹の不倫相手の女性が住んでいた場所で、その女性は芳樹を刺したことで逮捕されたために、息子が施設に入れられてしまったのだった!そしてその息子こそが、吐夢、ではなく影山だったのだ!そうだったのかー。影山は自分の家庭をめちゃくちゃにした芳樹と輪花を恨んでいました。この件に関して輪花は1ミリも悪くないどころかその事実すら最近まで知らなかったので、恨むなら芳樹を恨むべきなのですが、それだと映画的に映えないので輪花を狙ったのだ!間一髪のところを吐夢がやってきて輪花は救われる。このあと影山に輪花が鉄拳制裁するシーンはなかなかの見ものです。

 影山は逮捕され、吐夢のアカウントで輪花に父親の不倫写真を送っていたことが分かりますが、アポートに連れて行った時点で自白しているようなものなので、この偽装工作は何ら意味をなしておりません。ちなみに影山が輪花を特定したのは、輪花が自分の部屋で適当に撮った「ウィルウィル」のプロフィール画面の後ろに小さい頃に書いた絵があって、そこに赤い服の女性と四つ葉のクローバーが書いてあったからです。影山の母親(芳樹の不倫相手)はいつも四つ葉のクローバーを栽培しているシーンもあり、幼少期の輪花に四つ葉のクローバーをあげているシーンもあるのですが、それだけで特定できます?

 輪花は吐夢に「真相を教える」と言われて山奥の一軒家に連れて行かれます。そこには車椅子にかけた赤い服の女性とその介護の女性と思しき人がいます。車椅子の女性が父親の不倫相手にして今回の事件の首謀者だと思った輪花は彼女を問い詰めますが、なんの反応もありません。そう、実はこの車椅子の女性が輪花の母親で、介護の女性らしき人物こそが父親の不倫相手だったのです!赤い服=不倫相手に違いないと思っていた私たちにここでもまたどんでん返しを見せてくれるのです!ちなみにここまで頑なに不倫相手の女性の名前を書いていないのは、映画の公式サイトに役名が載っているので、知っていると秒でネタバレするからですよ。輪花の母親は不倫相手に拉致されていたことが分かります(車椅子なのは両足が切断されているから!)。そして芳樹を殺したのは、「自分が愛した芳樹が愛していた輪花の母親を愛することは、結局芳樹を愛することになる。だから(本物の)芳樹は必要ない。」という超理論に基づいています。

 輪花は不倫相手にナイフで襲われるも吐夢が身を挺して守ります。その後、輪花の鉄拳制裁!が出たかどうかはわかりませんが、不倫相手は警察に逮捕されます。輪花は自分をかばって刺された吐夢を見舞いに行き、スニーカーとパーカーをプレゼントします。

 吐夢は退院後、逮捕された不倫相手の面会に行き、そこで物心がついたときに唯一持っていたペンダントに四つ葉のクローバーが入っていたことを示し、自分の母親が不倫相手であることを告げます。一方、影山は取り調べで、輪花の元恩師夫婦と尚美の殺害については認めますが、それ以外は自分の犯行ではないと供述します。実は元恩師夫婦を除くアプリ婚殺人事件はすべて吐夢によるものであることが示唆されて映画は終わります。

 

とまあ、ツッコミどころを拾いつつネタバレ全開で書いてみましたが、他にもやはり気になる点が多いんですよね。

1. 吐夢がアプリ婚殺人事件をしているのはなぜか?

 端的に言えば、吐夢の動機がよくわからないんですよね。自分が生まれてすぐに捨てられて不幸な境遇だったことは本人から語られていますが、その逆恨みで片付けられる話なのか。だとしたらアプリ婚に限定する必要はなく結婚した人を片っ端から狙っていけば良い話です。アプリで出会って結婚というのが不純で良くないものと考えた可能性もありますが、そういう考えに至るには、自分の親がパソコンチャットによって知り合った男性のせいで家族ごと不幸になったから、と思っている必要があります。ただ映画を見る限り、吐夢が母親を認識するのは映画の最後なのでこの考え方に至る根拠がありません。ちなみに原作を読まれた方のレビューによれば、吐夢は愛されずに育ったため、真実の愛とは何かを試すために、アプリ婚で結婚した夫婦が真実の愛で結ばれているのかを確かめるために、あのような殺人を行っていたということだそうです。にしても、アプリ婚したカップルをどうやって見つけ出すのかも疑問ですし、真実の愛を探すのであればアプリ婚よりも長い間付き合って結婚したカップルとかのほうが適しているのではないかとも思ってしまうので、原作の顛末を聞いてもなんだかなあという感じですね。ちなみに映画では、吐夢は特殊清掃の仕事をしていて腐乱した死体の指の写真を撮ったり、収集したりという癖を描いていましたが、特に何かに活かされることはありませんでした。

2. 影山の事件の目的は?手段は?
 輪花を狙う犯人は影山だったのですが、影山は輪花の元恩師夫婦と尚美の殺害を認めています。輪花の元恩師はかつて輪花が片思いをしていた人、というだけです。付き合った人ならまだしもそのレベルの人で、しかもすでに他人と結婚している人をわざわざ殺す必要があったのかは甚だ疑問です。この夫婦を殺すことで輪花にあらぬ疑いがかかり仕事ができなくなるので、輪花への嫌がらせとしては有効かもしれませんが、だとしたらアプリ婚殺人事件に似せる意味合いがありません。尚美の件も、吐夢が尚美に何かを忠告してその内容について輪花に伝えたいことがあるからと呼び出されたことが発端となるのですが、この呼び出しの電話の際に影山は輪花と一緒にいました。急いで尚美のところへ向かった輪花より先回りして相手を殺害するなんてできるでしょうか。この時点で尚美が吐夢から影山が真犯人の可能性を聞いていてそれを信じているとしたら影山には警戒をするはずです。そもそもこの段階で輪花は影山に対してなんの疑念も抱いていないので、尚美もそうですが吐夢の話を鵜呑みにするということも考えづらいです。尚美を殺害することで口封じするというのはリスクが大きすぎる印象があります。

3. 不倫相手の行動と時間軸
 今回の事件のきっかけとなった輪花の父芳樹の不倫相手の行動も釈然としません。上記に書いた部分もそうですが、他の気になる点として、なぜ吐夢を捨てたのか、です。吐夢は芳樹との子どもなので芳樹を諦めきれないのであれば、復縁を迫るとしても有効でしょうし、何より愛する人物の子どもなのですから手放すというのは理解ができません。この不倫相手の行動の時系列もよく分かりません。芳樹と別れ話になって刺してしまったとき、すでに妊娠はしていたはずなので、吐夢は獄中出産された子ということになります。傷害事件の懲役は一概には言えませんが、出所してすぐに吐夢をコインロッカーに捨て、その足で輪花の母親を拉致するぐらいのスピーディー展開でないと実現しなくなります。輪花の母親を拉致する際に車を使っていて、さらにその後25年間、輪花の母親を監禁状態で衰弱している印象はあったとはいえ最低限の食事などは与えていたでしょうから、そうなるといよいよ吐夢を捨てた理由がわからなくなります。
 その後、25年の時を経て、輪花の家に電話をしてくるのですが、これも目的がよく分かりません。廃人のようになった輪花の母親を見せつけるため、とかならまあ考えられなくもないのですが、先述した超理論によっていらない人認定されてあっさり殺されてしまっているので、この行為の意味も輪花に気づかせるぐらいにしか意味合いを見出せません。

4. 芳樹は妻の捜索願を出さなかったのか?
 輪花の母親は輪花が4~5歳ぐらいのころに失踪してそれきりになっています。芳樹からすれば自分が不倫をしていたので出ていかれても仕方がないとは思っているのかもしれませんが、それにしてはタイミングがおかしすぎです。不倫騒動の頃ならまだしもその1件で不倫相手が逮捕されてしばらく経っているこのタイミングには違和感を感じざるをえません。また輪花が生まれた後に不倫相手は輪花や家族の周りに姿を見せていたので、もしこのタイミングでなにかあったらこの不倫相手が原因だと思うのが自然ではないでしょうか。出ていったとしても輪花に対して全く愛情がないわけではないでしょうし、母親から何からのアクションがあってしかりだと思うので、やはり25年もの間音沙汰なしというのはありえない気がします。


あえてそれを死卍と呼ぼう。―映画における印象的な死体―

 とまあツッコミどころ満載なので、そういう楽しみ方ができれば本作はすでにお腹いっぱいといったところですが、先述したように内田英治監督作品の美的センスなのか、美術さんの力なのか、なかなか見ごたえのある画作りをしている印象があるのも本作の特徴です。とはいっても本作はサスペンス・スリラーなので、アプリ婚の被害者たちや吐夢の仕事現場など、インパクトはありつつも直視したくないようなそんな造形が随所に散りばめられています。その中でも特にオススメしたいのが、輪花の同僚・尚美の死に様です。彼女は自宅マンションから転落死するのですが、その死体が・・・卍?まるで卍を描いているかのような死体には思わず膝を打ちました。これは卍死・・・いや、あえて死卍と呼びましょう。卍と言えばヒンドゥー教や仏教では吉兆の良い形を表していて縁起の良いものとされています。それをあえて死体という不吉の象徴の造形に用いるとは・・・恐るべし。ぜひこの死卍を観るためだけにも映画館に足を運んでほしいです。

ジュマンジ

ジュマンジ

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 映画における美しい死体と言えば、最初に思い出されるのはやはり「ツイン・ピークス」でしょうか。正確にはTVドラマでしたが映画版も一応ありますからね。デヴィッド・リンチ監督による衝撃のサスペンスでは日本でも空前のヒットを遂げましたが、その中で中心となる事件がローラー・パーマーの殺害事件です。この死体が当時「世界一美しい死体」と呼ばれ、日本でも追悼集会が開かれるほどの話題となりました。

 

 そして「ダ・ヴィンチ・コード」の死体もまた印象的です。ダウ・ブラウンの人気小説をロン・ハワード監督、トム・ハンクス主演で映画化したミステリー・サスペンスです。劇中でルーブル美術館の館長が死体となって発見されるのですが、その死体がレオナルド・ダ・ヴィンチの素描「ウィトルウィウス的人体図」を模していて、そのインパクトは事件そのものよりも大きかったです。

 

 日本映画の「死体の人」は、死体役専門の売れない役者にスポットを当てたドラマで、文字通り様々な死体役を演じるのでそのバリエーションが楽しめます。

 

 昨年「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」でアカデミー賞を受賞した"ダニエルズ"ことダニエル・シャイナートダニエル・クワン監督の出世作スイス・アーミー・マン」では、無人島に流れ着いた死体を利用して過酷なサバイバルの中で人生の意味を見出すという異色作ですが、これはもう世界で一番役に立つ死体ですね。調理器具から浄水器ジェットスキーにもなっていますからね。演じているのがハリー・ポッターことダニエル・ラドクリフなのもすごいですね。

 

 本作の死卍もいつか映画史における死体として語り継がれる・・・かもしれません。

 


ワンポイント心理学 ~クリティカル・シンキング

 今回はクリティカル・シンキングについてです。クリティカル・シンキングとは、課題や事象を捉える際に、その前提条件や状況、受け手のバイアスなどを含めて、考え方に偏りがあったり、間違った判断をしていないかを精査する思考方法のことを意味します。日本語では批判的思考と訳されるのが一般的で、それゆえ物事を批判的、否定的に捉えるというネガティブな意味合いで受け取られることもありますが、必ずしも批判や否定をしなければならないというわけではありません。
 クリティカル・シンキングでは客観的な視点で物事を捉えることを重視します。つまり自分では正しいと思っていることでも他の人の目線では正しくないということが考えられますよね。それによって物事の考え方が多角化、多様化するだけでなく、他の考え方や捉え方があり得るということが理解できることで、自分とは異なる考え方の人が存在することも受け入れやすくなります。
 つまり、たとえ自分の好きな映画を誰かに否定されたとしても、その人なりの視点での評価と考えれば理解できなくもないでしょうし、一見駄作に見える作品でも視点を変えてみれば面白いところがあるかもしれない、そういう発想の転換を実現するのがクリティカル・シンキングです。ほら、もう気がついたらこの映画のレビューだけで1万字近くも書いてしまいました。1万字、いちまんじ、卍・・・。