映画最高!(Cinema + Psycho)

映画に関するあれやこれやについて綴っていきます。映画の感想をメインに、映画にまつわるエピソード、そしてワンポイント心理学を紹介していきたいと思います。

映画「マダム・ウェブ」感想 ―イマイチ話題にならなかった要因と予知能力のウソ・ホント―

 

「マダム・ウェブ」概要と感想

 マーベル・コミックのヒーロー、"マダム・ウェブ"の誕生秘話を映画化。予知能力に目覚めたヒロインが謎の男に命を狙われる3人の少女を救ったことで巻き込まれていく運命を描く。
 監督は、本作が長編映画デビューとなるS・J・クラークソン。「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」のダコタ・ジョンソンが主演を務める。他の出演はシドニー・スウィーニー、イザベラ・メルセド、セレスト・オコナー、タハール・ラヒム、ら。

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 マーベル・コミックの最新作ながら、アメリカの大手批評サイトRotten Tomatoes(ロッテン・トマト)における批評家の評価を集計したトマトメーターでは12%、一般の観客評価のオーディエンススコアでも57%と、批評家、一般客のどちらも芳しい評価とは言えず、興行成績もアメリカで4000万ドル、全世界合わせても8000万ドル程度にとどまっています。いわゆるアメコミ映画が興行成績的に厳しいと言われる日本ではどうか、というところだったのですが、かなり厳しい成績だったようですね。公開館数もすぐに激減して、あっという間に1日1回のみの上映となってしまったので、自分も日程を合わせて見に行くのが大変でした。

 冒頭は1973年、南米ペルーで蜘蛛の調査をしているコンスタンス(エマ・ロバーツ)の姿が捉えられます。この女性は妊娠中で体調も良くない中、研究に従事しているのですが、その苦心の甲斐あって、幻の蜘蛛を発見します。しかし、調査に同行していた男エゼキエル(タハール・ラヒム)に銃で打たれ重傷を負い、蜘蛛もエゼキエルに奪われてしまいます。瀕死のコンスタンスを発見したアラニャス族は、彼女を秘密の洞窟に連れていきます。

 舞台は変わって2003年のニューヨーク。救急救命士のキャシー(ダコタ・ジョンソン)は、ベンとタッグで救命活動を行っていました。キャシーは救命活動の際に川に転落してしまいますが、ベンに助けられます。そのとき、キャシーは不思議なビジョンを目撃します。自分のバイタルを確認するベンの姿を、まるでビデオを巻き戻したかのように繰り返し見たのです。

 一方、エゼキエルは自分が3人の若い女性に殺される夢を毎晩のように見ています。彼は予知能力を持っているようで、そう遠くない未来に自分が殺されると考えた彼は、この3人の女性について調べます。NSAの捜査官を騙して監視システムが使えるようになったエゼキエルは、ついにこの3人を発見します。

 3人の少女は偶然同じ電車に乗るところでした。そこにはキャシーの姿もあります。ここでキャシーの予知能力が発動し、この3人の少女が謎の男に殺されてしまうビジョンが見えます。すんでのところで少女たちを助けることに成功しますが、少女たちを狙ったエゼキエルの姿は誰にも見えておらず、キャシーは誘拐の容疑をかけられてしまいます・・・。

 というのが前半部分の流れで、テンポもよく後半も期待させる作りだったと思います。そうだったのですが、思いの外盛り上がらずに終わってしまうというのが正直な感想です。
 その要因として、1点目は、アクションシーンが少ないことです。これは事前にわかっていた部分でもあるのですが、キャシーはまだ完全に能力に目覚めているわけではないため、エゼキエルとのガチンコバトルということはできなかったのでしょう。その割には五分の戦いを展開はするんですけどね・・・。日本では苦肉の策なのか、マーベル史上初のミステリーというコピーで売り出しましたが、正直ミステリーという印象は全く無いので、そちらの方面で期待した人たちも裏切る結果となってしまっています。
 2点目は、他作品とのリンクを感じにくいことです。本作は当然「スパイダーマン」に絡んでいくはずで、それを意識した作りにはなっているのですが、マーベルの、とりわけスパイダーマンの世界ではマルチバースが当たり前になってしまっているため、この「マダム・ウェブ」の世界がリンクしていくスパイダーマンも、どこかの並行世界のスパイダーマンであって、トビー・マグワイアでもアンドリュー・ガーフィールドでもトム・ホランドでもない人物になっている可能性があるわけです。そうなると感情移入やエモさを感じることは難しくなってしまいます。
 そして3点目、ヴィランであるエゼキエルの能力が不可解なことです。この点については次の章で書いていきたいと思います。

 


ヴィランのキャラクター・設定のブレ。エゼキエルとは何なのか?(ネタバレあり)

 冒頭のペルーのシーンで、エゼキエルはコンスタンスの発見した奇跡の蜘蛛を奪い去ります。そのときに「自分は昔から貧乏で見下されてきた」というような捨てゼリフを吐いています。このセリフから察するに、この貴重な蜘蛛を売り飛ばすことでお金にしようとしているのではないか、と思ったのですが、2003年のニューヨークのシーンでも大切に保管していることが分かります。それでも豪華なマンションに住んでいるのでお金持ちにはなったようですが、一体どうやって???
 その後、エゼキエルは毎晩夢に見る自分が殺されるヴィジョンに怯えています。3人の少女(スパイダーウーマン)が自分のマンションに来て、自分を殺すと。それを回避するためにNSAの職員を騙して監視システムを手に入れます。そして一人女性を雇ってこの監視システムで3人の少女を探させます。以降、この女性の情報を得てはエゼキエルが自ら少女たちを始末しようと襲ってくるのですが、マンパワーなさすぎでは?お金持ってそうなのにこの女性以外雇えなかったのか謎な部分になっています。

 そもそもエゼキエルの能力がよく分かりません。分かっている部分としては、毒で人を殺すことができる(NSAの職員を毒殺しているシーンがあります)、屋根や壁などを伝って移動することができる、部分的なステルス能力がある、部分的な予知能力があるといったところでしょうか。特に後者2つについてはいろいろ疑問が残ります。
 ステルス能力に関して、一般人には見えていませんが、スパイダー能力を持っている人には見えているということなのか、キャシーには見えています。ただこの時点で3人の少女にも見えているのはどういうことなのかが分かりません。彼女たちが能力に目覚めるのはもっと後のはずなので。そしてなぜかキャシーの同僚のベンにも見えているようです。
 そして後者の予知能力についてもエゼキエルが明確な予知能力を発揮しているのは上記の自分が殺される予知夢のみです。キャシーは序盤はせいぜい数分後の未来しか予知できず、それも目に強い光を当てられたとき、風船の破裂音などの大きな音がしたときなど、視覚、聴覚に刺激を受けた際のみに発動していたのですが、エゼキエルの方はよく分かりません。予知できる日数が離れていても大丈夫ということなのかもしれませんが、終盤のバトルでもキャシーの仕掛けにことごとくひっかかっている印象で、予知能力を発揮している印象がありませんでした。
 そもそも2人の能力者がどちらも予知能力を持っていることで無理が生じている印象です。キャシーの方はある程度わかりやすく、窓にぶつかってしまうハトを予知能力で救うことができています。数分先の未来のビジョンなので、予知したタイミングの時間軸に戻っていれば、対応が可能なのです。エゼキエルの方は、自分のマンションでスパイダーウーマンたちに突き落とされて死亡するというビジョンだったのですが、本作の最後まで少女たちは能力に目覚めていないので、もし仮に何もしなかったとしても殺されるのはだいぶ先だったはずです。また自分の行動でビジョンが変わっていっているはずなのにそれを見なかったということなのでしょうか。結局予知能力者が複数いることで少なくともどちらか一方がおかしなことになってしまうのが避けられなかったという印象です。このあたり設定が肝となりそうな作品では痛かった部分ですね。


予知能力が関連している映画

「デッド・ゾーン」

 スティーブン・キング原作のSFサスペンス。交通事故によって相手に触れるとその人物の関わる未来が見えるようになった主人公が、ある政治家が世界を破滅に導く未来を予知してしまい・・・。現在公開中の「DUNE 砂の惑星 PART2」にも出演しているクリストファー・ウォーケンが主演で、なまじ能力を持ってしまった男の苦悩を体現しています。これ監督デビッド・クローネンバーグだったんですね・・・。

デッドゾーン

デッドゾーン

  • Christopher Walken
Amazon

 

ファイナル・デスティネーション

 ジェームズ・ウォン監督によるパニック・スリラー。修学旅行で乗るはずの飛行機が爆発してしまう夢を見た主人公はパニックになり、それを聞きつけた友人たちとともに飛行機に搭乗できなくなってしまう。その飛行機は離陸直後、夢で見た通りに爆発してしまう。一命をとりとめたかにみえた主人公たちだったが、次々と不可解な死を遂げる・・・。死の運命の連鎖、法則性などが話題となった作品でシリーズ化もされています。

 

「ギフト」

 サム・ライミ監督によるサスペンス・スリラー。人の運命を見抜く超感覚を持った女性が町で起きた失踪事件の真相を探る。ケイト・ブランシェット主演で、キアヌ・リーブスケイティ・ホームズ、ジョバンニ・リビシ、グレッグ・キニアヒラリー・スワンクととにかく出演陣が豪華。

 

マイノリティ・リポート

 スティーブン・スピルバーグ監督、トム・クルーズ主演のSFアクション。原作は「ブレードランナー」で知られるフィリップ・K・ディックの短編小説。未来に起こる犯罪を事前に予知し、犯人を先んじて逮捕する方策がとられている近未来を舞台に、自分が未来の犯罪者と指定されてしまった捜査官が自分の無実を証明するべく動き出す。展開は読めてしまうがアクションとしては楽しめる。独特な衝撃波の撃てる銃の造形が素晴らしい。

 

「NEXT -ネクスト-」

 フィリップ・K・ディックの短編「ゴールデン・マン」を、ニコラス・ケイジ主演で映画化したアクション。2分先の未来を予知できる能力を持っていた主人公が、FBIに要請され核爆弾テロの阻止に挑む。主人公の身体能力の高さの方が気になるし、2分後の予知能力という設定もだいぶガバガバになっていくけれど、いろいろ突っ込みつつ楽しめる。ちなみに監督のリー・タマホリはこの映画の撮影前に売春容疑で逮捕されていることは映画ファン界隈ではあまりにも有名。

 

ワンポイント心理学 ~予知能力と心理学~

 予知能力のような超能力は心理学とは関係がないでしょう・・・と思われるかもしれませんが、予知能力についての研究が心理学界で話題になったことがあります。コーネル大学のBem教授は、単語の記憶課題において、記憶テストの後にランダムに呈示される単語(未来に呈示される単語)の記憶成績がそれ以外のものよりも良くなっているということを示しました。これは大いに物議を醸し、その後同様の研究を行った人が同じ結果にならなかったということで、再現性の低さでも話題となりました。こうした内容のものは疑似科学などと言われることもあり批判も多いのですが、他の分野の心理学における実験や研究でも再現性があまり高くないことも示されており、結果の再現性の議論にも一役買ったことになります。
 それでも超心理学と呼ばれる分野で今も真剣に研究している方もいるのです。ロマンなのでしょうか、それとも現実なのでしょうか。