映画最高!(Cinema + Psycho)

映画に関するあれやこれやについて綴っていきます。映画の感想をメインに、映画にまつわるエピソード、そしてワンポイント心理学を紹介していきたいと思います。

2026年 第98回アカデミー賞発表 –予想結果と雑感–

 

第98回アカデミー賞が発表になりました。
昨年に引き続き今年もNHK-BSでの放送で、うまいこと有休も取れましたので、リアルタイムで鑑賞しました。

 

それでは受賞結果です。発表順に並べ替えております。

 

助演女優賞(Supporting Actress)

エル・ファニング(『センチメンタル・バリュー』)
インガ・イブスドッテル・リッレオース(『センチメンタル・バリュー』)
◎エイミー・マディガン(『WEAPONS/ウェポンズ』)
ウンミ・モサク(『罪人たち』)
○テヤナ・テイラー(『ワン・バトル・アフター・アナザー』)

エイミー・マティガンとウンミ・モサク、テヤナ・テイラーの三つ巴と言われておりましたが、エイミー・マディガンの受賞となりました。
日本では昨年末に公開され複数視点の考察系ホラーとしても話題になった『WEAPONS/ウェポンズ』で事件の鍵を握るグラディス役で、ひときわインパクトのある役どころでした。司会者のオープニングのパロディーでも使用されるなど、その影響は絶大でしたね。
1985年の「燃えて再び」でのノミネート以来40年ぶりのノミネートで受賞とは感慨深いものがありますね。授賞式では夫のエド・ハリスと喜び合う姿も印象的でした(エド・ハリスも過去にノミネートはあるものの未受賞ですからひとしおでしょう)。

 

長編アニメーション映画賞(Animated Feature)

『ARCO/アルコ』
『星つなぎのエリオ』
◎『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』
『アメリと雨の物語』
○『ズートピア2』

こちらは下馬評通りに『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』が受賞しました。
この部門は作品のテーマなどはさておき、人気の作品でも順当に評価される印象があるので納得の結果でしょうか。

 


短編アニメーション映画賞(Animated Short)

○『バタフライ』
『Forevergreen(原題)』
受賞『真珠の涙と少女』
◎『リタイア・プラン』
『3人姉妹』

ここは絵柄が印象的だった『リタイア・プラン』を本命としてみたのですが、『真珠の涙と少女』が受賞しました。ストップモーションアニメによる寓話的なアニメになっています。
この部門は昨年も予想が当たらなかったので鬼門かもしれません。

 


衣装デザイン賞(Costume Design)

Deborah L. Scott(『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』)
◎Kate Hawley(『フランケンシュタイン』)
Malgosia Turzanska(『ハムネット』)
Miyako Bellizzi(『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』)
○Ruth E. Carter(『罪人たち』)

ここは予想的中で『フランケンシュタイン』のKate Hawleyが受賞しました。
ファンタジー系の作品や時代物のコスチュームが強いという傾向を改めて示した印象ですね。

 


メイクアップ&ヘアスタイリング賞(Makeup and Hairstyling)

◎Mike Hill, Jordan Samuel and Cliona Furey(『フランケンシュタイン』)
Kyoko Toyokawa, Naomi Hibino and Tadashi Nishimatsu(『国宝』)
Ken Diaz, Mike Fontaine and Shunika Terry(『罪人たち』)
○Kazu Hiro, Glen Griffin and Bjoern Rehbein(『スマッシング・マシーン』)
Thomas Foldberg and Anne Cathrine Sauerberg(『アグリーシスター 可愛いあの娘は醜いわたし』)

ここも予想通りで『フランケンシュタイン』のMike Hill, Jordan Samuel and Cliona Fureyが受賞しました。
怪物役で助演男優賞にもノミネートされているジェイコブ・エローディは現在上映中の「嵐が丘」でマジマジと見ましたが、その面影が全くないぐらいの特殊メイクでした。

 


キャスティング賞(Best Casting)

Nina Gold(『ハムネット』)
Jennifer Venditti(『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』)
○Cassandra Kulukundis(『ワン・バトル・アフター・アナザー』)
Gabriel Domingues(『シークレット・エージェント』)
◎Francine Maisler(『罪人たち』)

今年新設されたキャスティング賞は『ワン・バトル・アフター・アナザー』に軍配。Cassandra Kulukundisが受賞しました。確かにレオナルド・ディカプリオ、ショーン・ペン、ベニチオ・デル・トロらを向こうに、新人のチェイス・インフィニティを配役するなどは絶妙だったのかもしれませんね。

 


助演男優賞(Supporting Actor)

○ベニチオ・デル・トロ(『ワン・バトル・アフター・アナザー』)
ジェイコブ・エロルディ(『フランケンシュタイン』)
デルロイ・リンドー(『罪人たち』)
ショーン・ペン(『ワン・バトル・アフター・アナザー』)
◎ステラン・スカルスガルド(『センチメンタル・バリュー』)

ここはショーン・ペンが受賞しました。主人公たちを追い詰める差別主義者の悪徳捜査官という役どころでインパクトは他の候補と比べても抜きん出ている印象はありますね。ステラン・スカルスガルドは映画監督として成功しつつも父親としては失格という姿を悲喜こもごもの表情で演じていてキャスト部門で『センチメンタル・バリュー』から受賞するならここかとは思ったのですが残念でした。ベニチオ・デル・トロも映画的にオイシイ役どころだったんですけど受賞にはいたらずでしたね。
当のショーン・ペンは授賞式に不在でしたがそれもどこ吹く風の受賞でした。主演男優賞2回に続き通算で3度目の受賞となり、ウォルター・ブレナン、ジャック・ニコルソン、ダニエル・デイ=ルイスに並ぶ偉業を達成しました。

 

短編実写映画賞(Live Action Short)

『Butcher’s Stain(原題)』
『A Friend of Dorothy(原題)』
○『ジェーン・オースティンの生理ドラマ』
『The Singers(原題)』
◎『Two People Exchanging Saliva(英題)』

短編実写映画賞は同票で2作品が同時受賞という珍しい結果になりました。これは2012年の第85回アカデミー賞のときの音響編集賞で「007/スカイフォール」と「ゼロ・ダーク・サーティ」の同時受賞以来の珍事です。
受賞作は『The Singers(原題)』と『Two People Exchanging Saliva(英題)』でした。
前者はツルゲーネフの短編を元に、場末の酒場に集った男たちがビールと100ドルを賭けて歌合戦を始めるというもので、Netflix未加入なので全編は見れませんが興味がそそられる作品です。
後者は全編モノクロによる不条理ドラマ。キスが禁止され、ピンタで支払いというある種のディストピアな社会を描いた風刺モノとなっています。

 


脚色賞(Adapted Screenplay)

ウィル・トレイシー(『ブゴニア』)
ギレルモ・デル・トロ(『フランケンシュタイン』)
クロエ・ジャオ、マギー・オファーレル(『ハムネット』)
◎ポール・トーマス・アンダーソン(『ワン・バトル・アフター・アナザー』)
クリント・ベントレー、グレッグ・クウェダー(『トレイン・ドリームズ』)

ここは順当に『ワン・バトル・アフター・アナザー』のポール・トーマス・アンダーソンが受賞しました。ポール・トーマス・アンダーソン監督は監督賞でもノミネートされていますが、脚本・脚色部門では1997年の「ブギーナイツ」に始まり6度目のノミネートということで、仮に他の主要賞が「罪人たち」になったとしてもここは受賞するのではと思っていたので納得の結果でした。
とはいえ韓国映画を大胆にリメイクした『ブゴニア』や古典的ホラーをエモーショナルなドラマに昇華させた『フランケンシュタイン』が評価されているのも頷けますし、未見の残り2本も楽しみです。

 


脚本賞(Original Screenplay)

ロバート・カプロウ(『ブルームーン』)
○ジャファル・パナヒ(『シンプル・アクシデント/偶然』)
ジョシュ・サフディ、ロナルド・ブロンスタイン(『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』)
ヨアキム・トリアー、エスキル・フォクト(『センチメンタル・バリュー』)
◎ライアン・クーグラー(『罪人たち』)

ここも順当に『罪人たち』のライアン・クーグラーが受賞しました。
ある2人の黒人兄弟の立身出世の物語に音楽のルーツのエピソードを交えて描いたヴァンパイアホラーというのはなんとも個性的で唯一無二の作品といった印象です。
候補の中で唯一未見なのが『シンプル・アクシデント/偶然』で、こちらは5月劇場公開予定とのことで楽しみですね。

 


美術賞(Production Design)

◎Tamara Deverell; Set Decoration: Shane Vieau(『フランケンシュタイン』)
Fiona Crombie; Set Decoration: Alice Felton(『ハムネット』)
Jack Fisk; Set Decoration: Adam Willis(『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』)
Florencia Martin; Set Decoration: Anthony Carlino(『ワン・バトル・アフター・アナザー』)
○Hannah Beachler; Set Decoration: Monique Champagne(『罪人たち』)

ここは『フランケンシュタイン』のノミネートの中でも最も受賞が確実視されていましたが、蓋を開けてみたらその通りの結果となりました。受賞したのはTamara Deverell; Set Decoration: Shane Vieauでした。この部門においては他の追随を許さないといった印象はありますが、担当者としては初受賞になるので、いかにしてギレルモ・デル・トロ監督の世界観を描くうえでプロダクションデザインが重要かを証明しているとも言えますね。ここと衣装デザイン賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞を同時受賞したのは「哀れなるものたち」以来2年ぶりです。

 


視覚効果賞(Visual Effects)

◎Joe Letteri, Richard Baneham, Eric Saindon and Daniel Barrett(『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』)
Ryan Tudhope, Nicolas Chevallier, Robert Harrington and Keith Dawson(『F1/エフワン』)
David Vickery, Stephen Aplin, Charmaine Chan and Neil Corbould(『ジュラシック・ワールド/復活の大地』)
Charlie Noble, David Zaretti, Russell Bowen and Brandon K. McLaughlin(『ロスト・バス』)
Michael Ralla, Espen Nordahl, Guido Wolter and Donnie Dean(『罪人たち』)

ここはやはり強かった『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』でした。
これで「アバター」はこれまでのシリーズ3作品全てで受賞したことになります。これは「スター・ウォーズ」「ロード・オブ・ザ・リング」以来の快挙となります。3D映画という概念を変えたシリーズだけに納得の結果です。

 


短編ドキュメンタリー賞(Documentary Short)

◎『あなたが帰ってこない部屋』
○『Armed Only with a Camera: The Life and Death of Brent Renaud(原題)』
『Children No More: “Were and Are Gone”(原題)』
『The Devil Is Busy(原題)』
『Perfectly a Strangeness(原題)』

ここも予想通り『あなたが帰ってこない部屋』が受賞しました。学校での銃乱射事件の被害者となった子どもの部屋にスポットを当てた作品になっています。

 


長編ドキュメンタリー賞(Documentary Feature)

○『The Alabama Solution(原題)』
『あかるい光の中で』
『Cutting Through Rocks(原題)』
『名もなき反逆者 ロシア 愛国教育の現場で』
◎『パーフェクト・ネイバー: 正当防衛法はどこへ向かうのか』

こちらは『名もなき反逆者 ロシア 愛国教育の現場で』が受賞しました。前哨戦の評価も高く自分も本命視していた『パーフェクト・ネイバー: 正当防衛法はどこへ向かうのか』はアメリカ国内での事件を描いた作品ですが、受賞作はロシア-ウクライナ問題を捉えています。「ナワリヌイ」「実録 マリウポリの20日間」「ノー・アザー・ランド 故郷は他にない」と国際的な問題を扱った作品が連続していて受賞しているのも現代の象徴なのかもしれません。受賞作はNHKで放映済だったのですが、このたび再放送をしてくれるそうでしっかりチェックしたいと思います。

 


作曲賞(Original Score)

Jerskin Fendrix(『ブゴニア』)
Alexandre Desplat(『フランケンシュタイン』)
Max Richter(『ハムネット』)
○Jonny Greenwood(『ワン・バトル・アフター・アナザー』)
◎Ludwig Goransson(『罪人たち』)

作曲賞は『罪人たち』のLudwig Goranssonが受賞しました。
音楽映画でもある本作ではもちろん重要なファクターとなっていますので、受賞は大いに納得できます。「ブラックパンサー」「オッペンハイマー」に続く3度目の受賞というのはすごいですね。

 


音響賞(Sound)

◎Gareth John, Al Nelson, Gwendolyn Yates Whittle, Gary A. Rizzo and Juan Peralta(『F1/エフワン』)
Greg Chapman, Nathan Robitaille, Nelson Ferreira, Christian Cooke and Brad Zoern(『フランケンシュタイン』)
José Antonio García, Christopher Scarabosio and Tony Villaflor(『ワン・バトル・アフター・アナザー』)
○Chris Welcker, Benjamin A. Burtt, Felipe Pacheco, Brandon Proctor and Steve Boeddeker(『罪人たち』)
Amanda Villavieja, Laia Casanovas and Yasmina Praderas(『Sirāt(原題)』)

ここは『F1/エフワン』でした。
本当にF1カーに乗っているかのような臨場感を演出するうえで重要な役割を果たしていたように思いましたので、この受賞も納得ですね。

 


編集賞(Film Editing)

○Stephen Mirrione(『F1/エフワン』)
Ronald Bronstein and Josh Safdie(『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』)
◎Andy Jurgensen(『ワン・バトル・アフター・アナザー』)
Olivier Bugge Coutté(『センチメンタル・バリュー』)
Michael P. Shawver(『罪人たち』)

受賞したのは『ワン・バトル・アフター・アナザー』のAndy Jurgensenでした。
私たちが見るのは編集後の作品ということで編集の重要性は言わずもがなですし、作品賞にも直結するということでこの受賞は大いに頷けます。キャスティング賞とここで『ワン・バトル・アフター・アナザー』の方に軍配が上がったことで『罪人たち』には厳しい流れになったような雰囲気がありました。

 


撮影賞(Cinematography) 

Dan Laustsen(『フランケンシュタイン』)
Darius Khondji(『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』)
○Michael Bauman(『ワン・バトル・アフター・アナザー』)
◎Autumn Durald Arkapaw(『罪人たち』)
Adolpho Veloso(『トレイン・ドリームズ』)

と思ったら『罪人たち』のAutumn Durald Arkapawが撮影賞を受賞しました。
この部門で女性が受賞するのも黒人が受賞するのも初という歴史的な快挙が生まれました。
今回の予想は総じて下馬評通りに予想している部分もあったのですが、この部門については本命の『ワン・バトル・アフター・アナザー』よりもこちらと予想していたので個人的には的中して嬉しかった部門です。前の記事で長々とうんちくを書いているだけになおさらですね・・・。

 


国際長編映画賞(International Feature)

ブラジル(『シークレット・エージェント』)
フランス(『シンプル・アクシデント/偶然』)
◎ノルウェー(『センチメンタル・バリュー』)
スペイン(『Sirāt(原題)』)
チュニジア(『ヒンド・ラジャブの声』)

ここも順当に『センチメンタル・バリュー』が受賞しました。作品賞ノミネート作品が強いの格言に違わぬ結果ですね。とはいえ他の候補作も興味深い作品が多く例年注目しています。
『シンプル・アクシデント/偶然』の他にも、『シークレット・エージェント』(公開日未定)、『Sirāt(原題)』(6月公開予定)、『ヒンド・ラジャブの声』(東京では9月公開予定)となっているようなので、とりあえず見る機会は作れそうです。

 


歌曲賞(Original Song)候補

Dear Me(『Diane Warren: Relentless(原題)』)
◎Golden(『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』)
○I Lied to You(『罪人たち』)
Sweet Dreams of Joy(『Viva Verdi(原題)』)
Train Dreams(『トレイン・ドリームズ』)

ここもやはり順当に『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』の「Golden」が受賞しました。
K-POPというジャンルの楽曲が受賞するのは初という快挙となりました。
ただこれもNetflixが権利を持っている作品なので、自分としては見る機会がないかもしれないというのが残念なところです。

 


監督賞(Director)

クロエ・ジャオ(『ハムネット』)
ジョシュ・サフディ(『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』)
◎ポール・トーマス・アンダーソン(『ワン・バトル・アフター・アナザー』)
ヨアキム・トリアー(『センチメンタル・バリュー』)
○ライアン・クーグラー(『罪人たち』)

『ワン・バトル・アフター・アナザー』のポール・トーマス・アンダーソンが受賞しました。
今年は脚色賞を受賞していますが、監督賞としては「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」以来4度目のノミネートで初受賞となりました。個人的には「ブギーナイツ」「マグノリア」の頃から傑作揃いだったと思っていたので、遅すぎるぐらいの初受賞でしたね。
ライアン・クーグラーも、自身で脚本・脚色も担当する、これといったハズレ作がないという点でポール・トーマス・アンダーソンと共通する部分もありますし、遅かれ早かれ受賞のタイミングは来そうですね。

 


主演男優賞(Actor)

○ティモシー・シャラメ(『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』)
レオナルド・ディカプリオ(『ワン・バトル・アフター・アナザー』)
イーサン・ホーク(『ブルームーン』)
◎マイケル・B・ジョーダン(『罪人たち』)
ワグネル・モウラ(『シークレット・エージェント』)

ここは『罪人たち』のマイケル・B・ジョーダンが受賞しました。
異色の傑作において1人2役で主人公兄弟を演じ分けた部分は称賛に値するでしょう。
スピーチでも言っていましたが、シドニー・ポワチエ、デンゼル・ワシントンらの偉大な俳優たちの正統なフォロワーという印象が強くなってきましたね。
スピーチも感動的で、これは作品賞でもしかしたら?という雰囲気も出てきたような気がしていました。受賞を逃したティモシー・シャラメですが、それでも30歳にしてすでに3度目のノミネートというのは立派すぎる結果で、すぐに順番がやってきそうです。

 


主演女優賞(Actress)

◎ジェシー・バックリー(『ハムネット』)
ローズ・バーン(『If I Had Legs I’d Kick You(原題)』)
○ケイト・ハドソン(『ソング・サング・ブルー』)
レナーテ・レインスヴェ(『センチメンタル・バリュー』)
エマ・ストーン(『ブゴニア』)

ここも下馬評通りで『ハムネット』のジェシー・バックリーが受賞しました。
ウィリアム・シェイクスピアの妻に対する新解釈ということで作品の公開が待たれます。
ジェシー・バックリー最近どこかで見たなと思っていたら「ザ・ブライド!」の予告編でした。180度違うタイプの作品に連続で出演しているのもすごいですね。

 


作品賞(Best Picture)

『ブゴニア』
『F1/エフワン』
『フランケンシュタイン』
『ハムネット』
『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』
◎『ワン・バトル・アフター・アナザー』
『シークレット・エージェント』
『センチメンタル・バリュー』
○『罪人たち』
『トレイン・ドリームズ』

会場の空気的に大逆転もあるかも???と思ってみていましたが、『ワン・バトル・アフター・アナザー』が受賞となりました。こちらもクライム・アクションというジャンルながら移民問題なども描いていてまさに世相を映している作品でもあるので納得の結果です。
ポール・トーマス・アンダーソン監督が1975年の同賞を引き合いに出して、「作品賞候補は、『狼たちの午後』、『カッコーの巣の上で』、『ジョーズ』、『ナッシュビル』、『バリー・リンドン』でした。この中で『最優秀』などありません。ただ単にその日にどういう空気だったかだけです」とスピーチしていたのが印象的でした。


第98回アカデミー賞雑感

予想は
◎的中:20
○的中:1
ハズレ:3

となりました。
的中率は昨年よりも下がりましたが本命的中は20/24となかなかの予想でした(自画自賛)。
ということは裏を返せば予想通りの結果であるとも言えます。

『ワン・バトル・アフター・アナザー』が作品賞、監督賞、助演男優賞、脚色賞、編集賞、キャスティング賞の6部門で最多受賞となりました。
次いで、『罪人たち』は主演男優賞、脚色賞、撮影賞、作曲賞の4部門ということで、やはり一騎打ちという構図の通りの結果になっています。
その他で複数部門での受賞は『フランケンシュタイン』が美術賞、衣装デザイン賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞の技術系の3部門での受賞、『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』が主題歌賞、長編アニメーション映画賞の2部門受賞となりました。

授賞式のハイライトとしては、司会者コナン・オブライエンが『WEAPONS/ウェポンズ』インスパイアの映像で登場、いきなりティモシー・シャラメの失言をいじる、アン・ハサウェイがVOGUE編集長アナ・ウィンターと登場し、「プラダを着た悪魔」ジョークを披露、会場にいたグローグーとケイト・ハドソンのやり取りを見たシガーニー・ウィーバーが「Get away from him, you bi○ch!」と「エイリアン2」の決めセリフオマージュなどがありましたが、主演の2人やポール・トーマス・アンダーソン監督の感動的なスピーチも印象的でした。
追悼企画では「恋人たちの予感」「スタンド・バイ・ミー」などのロブ・ライナー監督の追悼でビリー・クリスタル、メグ・ライアンをはじめかつてのキャストが集合して哀悼の意を述べていました。他にもロバート・レッドフォード、ヴァル・キルマー、仲代達矢などの名優の追悼が続きましたが、ダイアン・キートンも昨年でしたね。
人種差別などの目立った問題はなかったように思ったのですが、終了後の会場の座席にゴミが大量に残されていたいたところが報じられてしまって、これは日々環境問題などを訴え続けるスターとしてはWスタンダードになってしまいますね。

最後に、今回ノミネートされた作品のうち7本は鑑賞済みなのですが、現在公開しているのが『ブゴニア』と『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』、『センチメンタル・バリュー』ぐらいで、Netflix映画の『フランケンシュタイン』はともかくとして、本命の2作『ワン・バトル・アフター・アナザー』と『罪人たち』はかなり前に上映を終了しており(一部アンコール上映したところもあったようですが)、かつ映画好きでない一般層にはそれほど知られてもいなかったように思います。
かつてアカデミー賞の有力候補は授賞式に近い日に公開されることが多かったのですが、今年はその傾向が見られなかったように思います。授賞式前に見られるのは個人的にはありがたいのですが、日本における外国映画のマーケットとしての価値が揺らいでいるように思います。「国宝」や「鬼滅の刃」が記録的なヒットを遂げたのとは実に対照的で、このまま行くと劇場での公開はより限定的、小規模的になっていくのではないかと心配になってしまいます。

やはり自分は映画館の大スクリーンで見たいと思っていますしそこにこだわってもいますので、少しでも多くの映画が日の目をみる環境になってくれれば良いなと思っています。
ということで、皆さまぜひ映画館へ行きましょう!

2026年 第98回アカデミー賞 全部門受賞予想

気がついたら2026年も2月が終わろうとしていますね・・・。
ってことはアカデミー賞の季節!!!

 

ということでアカデミー賞予想です。
今回は予想の時間も書く時間もあまりないのでやや簡易的になりますのでご了承ください。

 

 

作品賞(Best Picture)候補

『ブゴニア』
『F1/エフワン』
『フランケンシュタイン』
『ハムネット』
『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』
◎『ワン・バトル・アフター・アナザー』
『シークレット・エージェント』
『センチメンタル・バリュー』
○『罪人たち』
『トレイン・ドリームズ』

 

昨年は「ANORA アノーラ」と「ブルータリスト」の一騎打ちではないかと予想していたのですが、今年はさらに一騎打ちの様相が強いですね。
本命は『ワン・バトル・アフター・アナザー』。アメリカ製作者組合賞(PGA)を始めとする前哨戦での受賞成績も良く、アカデミー賞でも12部門13ノミネートで、作品賞に直結する監督賞、編集賞でもしっかりノミネートされています。
作品も人種問題を絡めたサスペンス・アクションということでこれといった死角が見当たりません。
ただ逆転があるとすれば『罪人たち』。こちらは最多16部門ノミネートということで、部門数が増えたことがあるものの同一作品では過去最多ノミネートの新記録です。
ただ前哨戦では一歩劣っていたのと、こちらも人種問題をベースにしているとはいえ異色のヴァンパイアホラーというジャンルが敬遠されてしまう可能性もあるので対抗までとします。とはいえ今年はこの2作のどちらかと言えるぐらいに拮抗しているかもしれません。


監督賞(Director)候補

クロエ・ジャオ(『ハムネット』)
ジョシュ・サフディ(『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』)
◎ポール・トーマス・アンダーソン(『ワン・バトル・アフター・アナザー』)
ヨアキム・トリアー(『センチメンタル・バリュー』)
○ライアン・クーグラー(『罪人たち』)

 

ここも作品賞と同様に一騎打ちの様相。ただ作品賞以上に本命ポール・トーマス・アンダーソンの受賞の可能性が高いのではないでしょうか。
「ブギーナイツ」「マグノリア」の脚本賞ノミネートに始まり、「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」で初めて監督賞にノミネートされ、直近の2作「ファントム・スレッド」「リコリス・ピザ」でも作品賞・監督賞にWノミネートときての本作で実に4度目のノミネートで受賞資格は十分すぎると言って差し支えないでしょう。
対抗はやはり『罪人たち』のライアン・クーグラー。「ブラックパンサー」シリーズや「クリード チャンプを継ぐ男」などヒット作も手掛けつつ「フルートベール駅で」のようなドラマでも手堅い演出をしていて逆転受賞の一番手は間違いないでしょう。とはいえキャリア、ノミネート歴などを考えるとポール・トーマス・アンダーソンが受賞に最も近い存在でしょう。


主演男優賞(Actor)候補

○ティモシー・シャラメ(『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』)
レオナルド・ディカプリオ(『ワン・バトル・アフター・アナザー』)
イーサン・ホーク(『ブルームーン』)
◎マイケル・B・ジョーダン(『罪人たち』)
ワグネル・モウラ(『シークレット・エージェント』)

 

ここはうってかわって混戦模様かと思われます。
本命は『罪人たち』のマイケル・B・ジョーダン。地元でクラブを開業する黒人兄弟の役で、カリスマ性のある兄とユーモアと思いやりのある弟を1人2役で演じきっていているのは評価に値するでしょう。
対抗は『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』のティモシー・シャラメ。前哨戦の成績も良く、これで3度目のノミネートで昨年の「名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN」に引き続き実在の人物を演じている点などは大きなアドバンテージになるかもしれません。
他にもゴールデン・グローブ賞やNY映画批評家賞を受賞しているワグネル・モウラ、作品の勢いもあるレオナルド・ディカプリオ、キャリアを考えると十分に可能性がありそうなイーサン・ホークと勢揃いなので、やはり混戦と言えるでしょう。

 

主演女優賞(Actress)候補

◎ジェシー・バックリー(『ハムネット』)
ローズ・バーン(『If I Had Legs I’d Kick You(原題)』)
○ケイト・ハドソン(『ソング・サング・ブルー』)
レナーテ・レインスヴェ(『センチメンタル・バリュー』)
エマ・ストーン(『ブゴニア』)

 

ここは主演男優賞とは対照的に一強ムード。
ということで本命は『ハムネット』のジェシー・バックリー。シェイクスピアの妻という実在の人物を演じている点、前哨戦の成績を取っても死角らしい死角はないですし、『ハムネット』で受賞の可能性が高い部門がここなので支持票が集まりそうな印象もあります。
対抗は『ソング・サング・ブルー』のケイト・ハドソン。ニール・ダイヤモンドのトリビュートバンド夫婦の妻役でこちらも実在の人物を演じており、アカデミー賞のノミネートは2000年の「あの頃ペニー・レインと」で助演女優賞ノミネート以来となる実に25年ぶり!アカデミー賞では往々にしてこうしたカムバックのドラマが見られるので今回もその可能性はありえます。

 


助演男優賞(Supporting Actor)候補

○ベニチオ・デル・トロ(『ワン・バトル・アフター・アナザー』)
ジェイコブ・エロルディ(『フランケンシュタイン』)
デルロイ・リンドー(『罪人たち』)
ショーン・ペン(『ワン・バトル・アフター・アナザー』)
◎ステラン・スカルスガルド(『センチメンタル・バリュー』)

 

ここは昨年は「リアル・ペイン~心の旅」のキーラン・カルキンで鉄板だったのですが、今年は難解です。
本命は『センチメンタル・バリュー』のステラン・スカルスガルド。
家族と疎遠になっているベテラン映画監督を演じていて業界関係者の多いアカデミー会員の共感が高そうな役どころになっています。作品自体の評価も高く助演と言いつつも準主役に近いポジションで出演時間が長い点も評価がしやすい印象です。74歳にして初ノミネートというのも応援したくなる要素です。
対抗は『ワン・バトル・アフター・アナザー』のベニチオ・デル・トロ。主人公や移民たちを助ける空手の"センセイ"役という謎めいた役どころながら魅力たっぷりの演技を見せてくれています。アカデミー賞は2000年の「トラフィック」で助演男優賞を受賞しており、その後2003年の「21グラム」でも助演男優賞にノミネートされていますが、オスカーはそれ以来の22年ぶりなので、2度目の受賞があっても驚きではないでしょう。
『ワン・バトル・アフター・アナザー』ではショーン・ペンも同賞にノミネートされていて、こちらは主人公たちを追い詰める差別主義者の捜査官でインパクトは絶大ですが、すでに2度受賞していることもありますし、同作品からの候補で票割れの可能性も考慮すると受賞まではと思ってしまいます。

 


助演女優賞(Supporting Actress)候補

エル・ファニング(『センチメンタル・バリュー』)
インガ・イブスドッテル・リッレオース(『センチメンタル・バリュー』)
◎エイミー・マディガン(『WEAPONS/ウェポンズ』)
ウンミ・モサク(『罪人たち』)
○テヤナ・テイラー(『ワン・バトル・アフター・アナザー』)

 

センセーショナルな考察系ホラーとして話題になった『WEAPONS/ウェポンズ』の中でもとりわけインパクトのある役柄だったのがエイミー・マディガン。
初登場のビジュアルからして衝撃的でした。1985年の「燃えて再び」以来実に40年ぶりとなるノミネートで受賞したらスタンディング・オベーションが鳴り止まないでしょう。
対抗は『ワン・バトル・アフター・アナザー』のテヤナ・テイラー。カリスマ的な魅力のある女性活動家でショーン・ペン、レオナルド・ディカプリオとも堂々と渡り合っている演技でこちらも印象的です。

 


脚本賞(Original Screenplay)候補

ロバート・カプロウ(『ブルームーン』)
○ジャファル・パナヒ(『シンプル・アクシデント/偶然』)
ジョシュ・サフディ、ロナルド・ブロンスタイン(『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』)
ヨアキム・トリアー、エスキル・フォクト(『センチメンタル・バリュー』)
◎ライアン・クーグラー(『罪人たち』)

 

作品賞を争う『ワン・バトル・アフター・アナザー』は脚色賞の方に回っているのであれば、作品賞でも有力候補の『罪人たち』のライアン・クーグラー。
逆にここを落とすようだと作品賞も危ういか。
対抗は前哨戦から『シンプル・アクシデント/偶然』のジャファル・パナヒ。作品賞では候補に入っていないながらここでのノミネートは純粋に脚本としての面白さを評価されてのことだと思うので。

 


脚色賞(Adapted Screenplay)候補

ウィル・トレイシー(『ブゴニア』)
ギレルモ・デル・トロ(『フランケンシュタイン』)
クロエ・ジャオ、マギー・オファーレル(『ハムネット』)
◎ポール・トーマス・アンダーソン(『ワン・バトル・アフター・アナザー』)
クリント・ベントレー、グレッグ・クウェダー(『トレイン・ドリームズ』)

 

『罪人たち』と同じ理由で『ワン・バトル・アフター・アナザー』のポール・トーマス・アンダーソンもここは落とせない。他の候補は軒並み作品賞にも同時ノミネートされているので作品そのものの評価としても勢いを示せそう。
作品のインパクトならば『ブゴニア』の線もないわけではなく、オリジナルの韓国映画をうまくアメリカを舞台に置き換えている点が評価されれば。

 


撮影賞(Cinematography) 候補

Dan Laustsen(『フランケンシュタイン』)
Darius Khondji(『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』)
○Michael Bauman(『ワン・バトル・アフター・アナザー』)
◎Autumn Durald Arkapaw(『罪人たち』)
Adolpho Veloso(『トレイン・ドリームズ』)

 

地味に作品賞とのつながりが深い撮影賞。
ということで、作品賞と同様に一騎打ちが予想されますが、本命は『罪人たち』のAutumn Durald Arkapaw。
「オッペンハイマー」のときに採用されたカメラに特注のレンズを合わせて中心の人物のみに焦点を当てて背景をぼかしたような構図を意図的に採用しているなどの創造性の高さを感じられます。
対抗はやはり作品の勢いも考えて『ワン・バトル・アフター・アナザー』のMichael Bauman。

 


編集賞(Film Editing)候補

○Stephen Mirrione(『F1/エフワン』)
Ronald Bronstein and Josh Safdie(『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』)
◎Andy Jurgensen(『ワン・バトル・アフター・アナザー』)
Olivier Bugge Coutté(『センチメンタル・バリュー』)
Michael P. Shawver(『罪人たち』)

 

ここも作品賞とのつながりが強い部門で、今年度のノミネートもすべて作品賞にもノミネートされています。「ボーン・アルティメイタム」や「ソーシャルネットワーク」のような超絶と言っていい編集が評価される場合もありますが今年度のノミネートではそこまでインパクトのあるものはない印象なので、そうなると素直に『ワン・バトル・アフター・アナザー』のAndy Jurgensenで決まりか。
対抗は『F1/エフワン』のStephen Mirrione。かつて「フォードvsフェラーリ」も同賞の受賞歴があるだけに編集技術が前面に出そうな印象はありますね。

 


美術賞(Production Design)候補

◎Tamara Deverell; Set Decoration: Shane Vieau(『フランケンシュタイン』)
Fiona Crombie; Set Decoration: Alice Felton(『ハムネット』)
Jack Fisk; Set Decoration: Adam Willis(『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』)
Florencia Martin; Set Decoration: Anthony Carlino(『ワン・バトル・アフター・アナザー』)
○Hannah Beachler; Set Decoration: Monique Champagne(『罪人たち』)

 

今年の技術系部門においては『フランケンシュタイン』が総なめするような印象があります。
ギレルモ・デル・トロ監督作品は「パンズ・ラビリンス」や「シェイプ・オブ・ウォーター」に代表されるようにファンタジー要素の強い作品が多く、それゆえに特にプロダクションデザインが重要になってくる気がします。
ということで本命は『フランケンシュタイン』のTamara Deverell; Set Decoration: Shane Vieau。
対抗は作品評価と雰囲気から『罪人たち』のHannah Beachler; Set Decoration: Monique Champagne。技術系部門では『ワン・バトル・アフター・アナザー』よりも分がある印象もあるので、このあたりの賞を受賞できれば作品賞に向けてはずみがつくかもしれません。

 


衣装デザイン賞(Costume Design)候補

Deborah L. Scott(『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』)
◎Kate Hawley(『フランケンシュタイン』)
Malgosia Turzanska(『ハムネット』)
Miyako Bellizzi(『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』)
○Ruth E. Carter(『罪人たち』)

 

ここも美術賞と同じく『フランケンシュタイン』のKate Hawleyを本命に。
ファンタジー系の作品や時代物のコスチュームが強い部門で、ギレルモ・デル・トロ監督のダーク・ファンタジーな世界観を反映するのに一役買っているとも言えます。
対抗は、『罪人たち』のRuth E. Carter。こちらは「ブラックパンサー」の2作ですでに同賞を受賞済で今回受賞となれば3回目。リピーターの多い部門でもあるのでその可能性も少なくないでしょう。

 


メイクアップ&ヘアスタイリング賞(Makeup and Hairstyling)候補

◎Mike Hill, Jordan Samuel and Cliona Furey(『フランケンシュタイン』)
Kyoko Toyokawa, Naomi Hibino and Tadashi Nishimatsu(『国宝』)
Ken Diaz, Mike Fontaine and Shunika Terry(『罪人たち』)
○Kazu Hiro, Glen Griffin and Bjoern Rehbein(『スマッシング・マシーン』)
Thomas Foldberg and Anne Cathrine Sauerberg(『アグリーシスター 可愛いあの娘は醜いわたし』)

 

「サブスタンス」では怪しげな先端美容医療で自分自身を改造していく女優、「哀れなるものたち」では死者の体に赤子の脳を移植された女性、「ザ・ホエール」では270キロの肥満症の男、いずれもメイクなしでは描かれなかったキャラクターを創出した作品が受賞しているのがこの部門です。
ということでやはり本命は『フランケンシュタイン』のMike Hill, Jordan Samuel and Cliona Furey。
ジェイコブ・エローディをフランケンシュタイン博士の生み出した怪物に変貌させた手腕が素直に評価されそうです。
対抗は、『スマッシング・マシーン』のKazu Hiro, Glen Griffin and Bjoern Rehbein。数多くの作品の特殊メイクに携わり、個人名義でも「ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男」「スキャンダル」で2度受賞しており、その技術はまさに一級品です。
日本での興行収入が200億を突破し実写映画として歴代一位となった『国宝』も外国語映画賞のノミネートはならずにここでのノミネートのみなのでここで受賞なればというところですがどうでしょう。

 


録音賞(Sound)候補

◎Gareth John, Al Nelson, Gwendolyn Yates Whittle, Gary A. Rizzo and Juan Peralta(『F1/エフワン』)
Greg Chapman, Nathan Robitaille, Nelson Ferreira, Christian Cooke and Brad Zoern(『フランケンシュタイン』)
José Antonio García, Christopher Scarabosio and Tony Villaflor(『ワン・バトル・アフター・アナザー』)
○Chris Welcker, Benjamin A. Burtt, Felipe Pacheco, Brandon Proctor and Steve Boeddeker(『罪人たち』)
Amanda Villavieja, Laia Casanovas and Yasmina Praderas(『Sirāt(原題)』)

ここは戦争モノ、音楽モノが強い印象がある部門ですが、今年は『F1/エフワン』のGareth John, Al Nelson, Gwendolyn Yates Whittle, Gary A. Rizzo and Juan Peraltaを本命とします。
前哨戦での受賞も多く、F1のレースの臨場感を演出するためには音響の技術が不可欠であるとも言えます。『F1/エフワン』が一番受賞に近い部門なのではないでしょうか。
対抗は、実は音楽映画でもある『罪人たち』のChris Welcker, Benjamin A. Burtt, Felipe Pacheco, Brandon Proctor and Steve Boeddeker。

 


視覚効果賞(Visual Effects) 候補

◎Joe Letteri, Richard Baneham, Eric Saindon and Daniel Barrett(『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』)
Ryan Tudhope, Nicolas Chevallier, Robert Harrington and Keith Dawson(『F1/エフワン』)
David Vickery, Stephen Aplin, Charmaine Chan and Neil Corbould(『ジュラシック・ワールド/復活の大地』)
Charlie Noble, David Zaretti, Russell Bowen and Brandon K. McLaughlin(『ロスト・バス』)
Michael Ralla, Espen Nordahl, Guido Wolter and Donnie Dean(『罪人たち』)

ここは『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』のJoe Letteri, Richard Baneham, Eric Saindon and Daniel Barrettが圧倒的に優位でしょう。過去2作でも受賞済ですが、さらにクオリティーのあがった視覚効果は本作の魅力そのものとなっています。

 


作曲賞(Original Score)候補

Jerskin Fendrix(『ブゴニア』)
Alexandre Desplat(『フランケンシュタイン』)
Max Richter(『ハムネット』)
○Jonny Greenwood(『ワン・バトル・アフター・アナザー』)
◎Ludwig Goransson(『罪人たち』)

 

ヴァンパイアホラーでありつつも音楽の映画である『罪人たち』がここでも有力と見てLudwig Goranssonを本命に。受賞となると「ブラックパンサー」「オッペンハイマー」に続き3度目ということに。それが敬遠されるようであれば『ワン・バトル・アフター・アナザー』のJonny Greenwoodが初受賞という可能性も。

 


歌曲賞(Original Song)候補

Dear Me(『Diane Warren: Relentless(原題)』)
◎Golden(『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』)
○I Lied to You(『罪人たち』)
Sweet Dreams of Joy(『Viva Verdi(原題)』)
Train Dreams(『トレイン・ドリームズ』)

 

『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』の主題歌「Golden」はビルボード8週連続1位の記録を残すなどセールス面でも目ざましく前哨戦でも軒並み好成績なのでここも盤石か。ただNetflixの映画ということが敬遠されなければ。その場合に有力視されるのが『罪人たち』の「I Lied to You」。14回ノミネート、しかも2017年から9年連続でノミネート中のダイアン・ウォーレン御大の初受賞はまた相手が悪い印象ですかね(名誉賞は受賞されていますが)。

 


キャスティング賞(Best Casting)候補

Nina Gold(『ハムネット』)
Jennifer Venditti(『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』)
○Cassandra Kulukundis(『ワン・バトル・アフター・アナザー』)
Gabriel Domingues(『シークレット・エージェント』)
◎Francine Maisler(『罪人たち』)

 

今年新設の部門キャスティング賞です。
キャスティング・ディレクターは配役における重要なポジションということで部門として設立されたようですが、いかんせん前例もないので主役を2役でという驚きの配役になっている『罪人たち』のFrancine Maislerを本命に。対抗もレオナルド・ディカプリオ、ショーン・ペン、ベニチオ・デル・トロという配役の妙がある『ワン・バトル・アフター・アナザー』のCassandra Kulukundis。

 


国際長編映画賞(International Feature)候補

ブラジル(『シークレット・エージェント』)
フランス(『シンプル・アクシデント/偶然』)
◎ノルウェー(『センチメンタル・バリュー』)
スペイン(『Sirāt(原題)』)
チュニジア(『ヒンド・ラジャブの声』)

 

作品賞のノミネートが10枠に増えたこともあり英語圏以外の国の作品はここと重複してノミネートされるようになってきましたが、やはり作品賞でもノミネートされている作品が強い印象があります。
ということで本命は『センチメンタル・バリュー』。
キャスト部門や脚本賞でもノミネートされていますし評価もすこぶる良いので作品賞は逃したとしてもここは鉄板でしょう。対抗は同様に作品賞にノミネートされている『シークレット・エージェント』になるんでしょうがここはほぼ本命で固いでしょう。

 


長編アニメーション映画賞(Animated Feature)候補

『ARCO/アルコ』
『星つなぎのエリオ』
◎『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』
『アメリと雨の物語』
○『ズートピア2』

 

本命は『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』。架空のK-POPアイドルがアイドル活動の裏で悪魔退治をするという作品で、アニメ界のアカデミー賞とも言われるアニー賞で作品賞をはじめ10部門で受賞しています。唯一ケチをつけるとすればやはりNetflixの映画ということで劇場公開は限定的だったことが敬遠されないかという点のみです。そうなった場合はディズニーの『ズートピア2』が台頭してくるかといったところです。

 


短編アニメーション映画賞(Animated Short)候補

○『バタフライ』
『Forevergreen(原題)』
『真珠の涙と少女』
◎『リタイア・プラン』
『3人姉妹』

 

退職後の理想と現実を描いた『リタイア・プラン』が本命。独特な絵柄も印象的です。
対抗はユダヤ人水泳選手の生涯を油絵風のタッチで描いた『バタフライ』。

 


長編ドキュメンタリー賞(Documentary Feature)

○『The Alabama Solution(原題)』
『あかるい光の中で』
『Cutting Through Rocks(原題)』
『名もなき反逆者 ロシア 愛国教育の現場で』
◎『パーフェクト・ネイバー: 正当防衛法はどこへ向かうのか』

 

本命は『パーフェクト・ネイバー: 正当防衛法はどこへ向かうのか』。警察のボディカメラの映像をメインに、近隣トラブルから殺人へと発展してしまった事件とそこに関する司法の問題を取り上げている作品です。対抗はアラバマの刑務所の内部を隠しカメラで撮影した『The Alabama Solution(原題)』。

 

 

短編ドキュメンタリー賞(Documentary Short)候補

◎『あなたが帰ってこない部屋』
○『Armed Only with a Camera: The Life and Death of Brent Renaud(原題)』
『Children No More: “Were and Are Gone”(原題)』
『The Devil Is Busy(原題)』
『Perfectly a Strangeness(原題)』

 

本命は学校での銃乱射事件で被害者となった子どもたちの部屋を映し出す『あなたが帰ってこない部屋』。
対抗はウクライナでの取材中に戦禍で命を落としたジャーナリストを追った『Armed Only with a Camera: The Life and Death of Brent Renaud(原題)』。

 


短編実写映画賞(Live Action Short)候補

『Butcher’s Stain(原題)』
『A Friend of Dorothy(原題)』
○『ジェーン・オースティンの生理ドラマ』
『The Singers(原題)』
◎『Two People Exchanging Saliva(英題)』

 

本命は『Two People Exchanging Saliva(英題)』。モノクロ映像、フランス語で描かれる不条理ドラマで見た人が軒並み絶賛しているのが印象的。
対抗は「高慢と偏見」をモチーフにしたコメディドラマの『ジェーン・オースティンの生理ドラマ』。

 


というわけで今年も全部門予想してみました。
昨年に引き続きNHK BSで授賞式が見られるので、楽しみですね。

MOVIE OF THE YEAR 2025 -外国映画編-

2月に入ってしまいましたが、引き続き、MOVIE OF THE YEAR 2025 -外国映画編-をお送りします。

 

10位:シャドウズ・エッジ

監督:ラリー・ヤン
出演:ジャッキー・チェン、チャン・ツィフォン、レオン・カーフェイ、他

ジャッキー・チェン主演のクライム・アクション。
マカオを舞台に暗躍するサイバー犯罪集団に対処するために、今は一線を退いている追跡のエキスパート、ホワン・ダージョンが呼び戻される。彼は精鋭チームとともに事件の捜査に乗り出すが、"影"と呼ばれている伝説の暗殺者が事件の背後にいることが明らかになり・・・。

ジャッキー・チェンは自身がアクションからの引退を何度かほのめかしていることもあって、最近の作品はまさに"一線を退いた"ような役どころだったり、主役だったとしてもアクション自体はさほどなかったりというものが多いのですが、本作はしっかりアクションをしてくれています。

冒頭の犯罪集団が仮想通貨を盗みだすところから見せ場たっぷりで、変装を繰り返しながら監視カメラ網をかいくぐっていく様は実に鮮やかです。
特筆すべきシーンとしては、黒幕の"影"が極めて用心深い人物であるため、捜査がばれないようにするための偽装工作が素晴らしく、この一連のシークエンスは映画史に残るんじゃないかというレベルでした。
捜査チーム側、犯人グループ側にもしっかりドラマの要素も盛り込まれているので、物語としての満足度も非常に高かった一本でした。


9位:終わりの鳥

監督:ダイナ・O・プシッチ
出演:ジュリア・ルイス=ドレイファス、ローラ・ペティクルー、他

不治の病で余命わずかな15歳の少女チューズデー。彼女の前に変幻自在で言葉を話すことのできる鳥デスが現れる。デスの役目は命の終わりを迎えた生き物にその死を告げて回ることだった。チューズデーはデスにジョークを聞かせ母親のゾラが帰宅するまで延命することに成功する。ゾラはチューズデーを失いたくないためにある行動に出るが・・・。

死を告げる鳥、と言われると日本ではカラスなんかがイメージされるかと思いますが、本作ではコンゴウインコになっています。非常に知性が高く好奇心旺盛というのは作品を見ると納得してしまいますが、それ以上に赤を基調とした派手な色合い。そんなデスがジョークに笑い、チェスに興味を持ち、さらには体のサイズも自在に変えて、と様々な姿を見せてくる姿に目を取られます。

メインのテーマである死についてですが、ここも子と母親で対照的に描かれています。チューズデーは自分の余命が長くはないことを悟っており、せめて母親に自分のいるときに、という思いで行動しています。
一方の母親は、少しでも娘に長生きしてもらいたいと思ってとある行動にでるわけですが、それが後半の導入になっていく過程も素晴らしいです。

少女と母親、それに死を告げる鳥と主要なキャストはこれだけで、序盤のほとんどは少女と母親の家での会話で展開される物語ながら、イマジネーションと独創性に溢れる作品に仕上がっているところに驚嘆せざるをえないのです。


8位:罪人たち

監督:ライアン・クーグラー
出演:マイケル・B・ジョーダン、ヘイリー・スタインフェルド、オマー・ミラー、デルロイ・リンドー、他

クリード チャンプを継ぐ男」「ブラックパンサー」のライアン・クーグラー監督とマイケル・B・ジョーダン主演による異色のサバイバル・ホラー。
故郷の田舎町に戻ってきた黒人の兄弟が黒人向けダンスホール"ジュークジョイント"をオープンする。その夜、招かれざる客がやってきて、兄弟と店の仲間たちは決死のサバイバルを余儀なくされる・・・。

本作が公開されたときはそれほど話題にもなっていなくて、事前情報を一切入れずに見に行ったこともあり、その衝撃度が凄まじかった作品です。
まず、1930年代のアメリカが舞台で、黒人向けのダンスホールが迫害を受けるということで、同監督・主演の「フルートベール駅で」のような人種問題をメインにした内容なのかなとは思っていましたが、よもやのサバイバル・ホラーとは・・・。

もちろん黒人たちのダンスホールの招かれざる客=白人になっているので、黒人のテリトリーに白人が侵略者としてやってくるという点では人種問題を暗喩しているといえばそうなのですが、それが気にならない、気がつかないぐらいにジャンル映画として確立している印象です。

まずタイトルにもあるように主人公たちもかつてはギャングの一味で決して善人ではないというところです。主人公を美化しすぎてしまうと内容もあまりにも主観的になってしまい、同じ立場、同じ目線の人でないと感情移入もしにくくなってしまうのですが、誰もが罪を抱えているというキリスト教的な視座からきている要素なのか、それがうまく人間味につながっています。
それから、弟の元恋人は白人だったり、お店にはアジア系の人もいたりと単純な人種間の対立構図としてはいない点にも好感が持てます。

そして何より、本作の魅力の一端を担っているのは音楽と言えるでしょう。
ブルースを主体とした音楽が随所に用いられていて、侵略者の一味も音楽を奏でながらやってくるので、その瞬間は魅力的とすら感じさせます。
もう一人の主役ともいえる甥のサミーは、卓越したギターの技術を持ちながらも、牧師の親に音楽をやることを禁じられているのですが、この流れはまさにロバート・ジョンソンのクロスロード伝説をモチーフにしていて、このあたりも本作の見どころになっています。

ジュークジョイントでのライブでは、ブルースを中心とした当時の音楽が流れていると思いきや、いつしかDJが登場して現代的な音楽が入り乱れてきたりと、まさにカオス状態になっていくのですが、人種も音楽もごったまぜになっていき、その中から想像だにしなかった良いものが生まれる可能性がある、そんなことをイメージしているかのようでした。

アカデミー賞過去最多となる16部門ノミネート。
こうレビューしてみると受賞もあるのではと思っています。


7位:星つなぎのエリオ

監督:マデリン・シャラフィアン、ドミー・シー、エイドリアン・モリー
声の出演:ヨナス・キブレアブ、    ゾーイ・サルダナレミー・エジャリー、渡辺直美、他

両親を亡くし叔母のオルガに引き取られたエリオは周囲に馴染めず、自分の居場所は宇宙のどこか他の場所にあると信じ込んでいた。ある日、エリオは地球の代表者と勘違いされ、星々の代表者が集う"コミュニバース"に招かれるのだが・・・。

風変わりなトラブルメーカー、ディズニー/ピクサーの作品にはよくこんなキャラクターが出てきますが、本作のエリオもまさにそれ。
両親を亡くし、家族は忙しい叔母だけ、友だちもいないエリオにはまさに居場所がない。そんな彼が思いを馳せる宇宙で、ひょんなことから地球の代表となってしまいますが、そのことによって自分が認められる、自分の居場所になると感じてしまったエリオはあれよあれよと大事に巻き込まれてしまうというスクリューボール・コメディーの様相で物語が展開していきます。

また、エリオが宇宙で出会い初めての友だちとなるグロードンとの展開も秀逸です。おしゃべりなグロードンとのやり取りでエリオは自分も子どもであることを明かすのですが、そもそもコミュニバースでは多様性なんて言葉が呆れるほどの多種多様な宇宙人が集まっているため、見た目から何からバラバラなので、エリオが子どもであるという認識すらないのは、そもそも見た目だけでは判断できないというところからも来ています。この気づきはなかなかハッとさせられました。

エリオとグロードンが仲睦まじく遊ぶシーンがダイジェストのように映し出されるのですが、ディズニー作品はこうしたダイジェストパートの使い方が本当に巧い。エリオにとってかけがえのない友人でありながら、宇宙平和の切り札として利用しなければならないという葛藤にうまくつながっていきます。

一方のグロードンも自分の星では強くなければならないという価値観が強すぎて、やはり居場所を失っていたということがわかります。そこでエリオが下した決断とは・・・。

エリオとグロードンの物語、それは宇宙を巻き込んでの大騒動になっていくわけですが、そんなマクロな世界観において宇宙の共通言語とも言えるメッセージを本作は伝えてくれます。それは、どんな立場でもどんな世界でも子を思わない親なんていないということ。

笑って泣けて、それでいてしっかりとテーマを伝えてくるディズニー/ピクサーの真骨頂のような作品になっています。


6位:死霊館 最後の儀式

監督:マイケル・チャベス
出演:ヴェラ・ファーミガパトリック・ウィルソン、ミア・トムリンソン、他

実在の心霊研究家ウォーレン夫妻の実体験を元にした映画「死霊館」シリーズの完結編。監督は「死霊館 悪魔のせいなら、無罪。」「死霊館のシスター 呪いの秘密」のマイケル・チャベス
1986年、ペンシルバニアのとある一家で、娘の誕生日に買った鏡が原因で様々な超常現象に襲われていた。心霊現象調査から引退を考えていたウォーレン夫妻だったが、とある事情から断れなくなりこの事件に関わることになるが・・・。

死霊館」シリーズ共通して言えることですが、実在の人物であるウォーレン夫妻の体験を元にしていて映画のラストには実際の映像や写真も出てくることもあり、リアリティーを感じさせてきます。
演出においても安易なジャンプスケアのようなところは少なく、独特の視点で見せてきたり、あえてタイミングをずらしていたりとこれまでのホラー映画とは一線を画すものになっていると思います。

そして本作ではウォーレン夫妻の娘ジュディがキーパーソンになっています。
本作の呪物となる呪いの鏡がジュディ誕生の時の因縁のものだったり、ジュディにもロレインの不思議な力の片鱗が芽生えだしたり・・・。
基本はバキバキのホラー映画ではありますがこうした家族のエピソードもうまく織り交ぜているのが特徴でもあります。

何より、"死霊館ユニバース"がこれで完結と思うと一抹の寂しさも感じさせられてしまって、そんな気持ちにさせるホラー映画シリーズという点では他の追随を許さないのではないでしょうか。


5位:トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦

監督:ソイ・チェン
出演:レイモンド・ラム、ルイス・クー、サモ・ハンリッチー・レン、アーロン・クォック、テレンス・ラウ、他

香港へ密入国した若者チャンは黒社会から追われる身となり、九龍城砦に逃げ込む。そこはロン・ギュンフォンを中心に、住む場所を失った人たちが生活をしていた。チャンも徐々に受け入れられ九龍城砦の人々と絆で結ばれていくようになるが、政府の決定により九龍城砦が取り壊しになることに目をつけたマフィアたちに狙われるようになり・・・。

2025年の前半はもうこの映画で持ち切りだったのではないでしょうか。
公開当初はさほど公開規模も大きくなく、公開週から1~2回程度しか上映していなかった中を見に行きました。それが口コミで話題になりロングランへとつながっていきました。

本作は1980年代の香港を舞台にしており、中国返還前の怪しい雰囲気漂うまさに香港ノワールの世界観です。
冒頭、チャンがマフィアを相手にした逃走劇から逃げ込んだ先の九龍城砦のやり取りを一連のシークエンスで見せており、ここで一気に没入感が高まります。

その後に登場する九龍城砦の面々は一癖も二癖もあるんですがどのキャラクターも個性的で理由のわからないカッコよさを秘めています。特にルイス・クー扮する九龍城砦のリーダー、ロン・ギュンフォンのカッコよさにはシビレます。
バトルシーンもなかなか派手で、特に九龍城砦の入り組んだ空間を利用したアクションは一見の価値ありです。

ただなんと言っても本作の主役と言えるのは九龍城砦の存在そのものでしょう。
雑多で廃墟のようで決して綺麗とは言えない空間ながら、生活感に溢れ、多くの人が活気に満ちており、そして何より深い絆で結ばれている。それまで居場所のなかったチャンが彼らを守るためにも立ち上がろうと決意するのも頷けるというものです。

こういうのでいいんだよ、こういうのがいいんだよというお手本のような作品だったと思います。


4位:教皇選挙

監督:エドワード・ベルガー
出演:レイフ・ファインズスタンリー・トゥッチジョン・リスゴー、    セルジオ・カステリット、他

カトリック教会の最高指導者であるローマ教皇が心臓発作で死去する。主席枢機卿のローレンスが新教皇を決めるための選挙の準備に入り、世界各国から選挙に参加する枢機卿が続々と駆け付けてくる。アメリカ出身でリベラル派のベリーニ枢機卿、ナイジェリア出身で保守派のアデイエミ枢機卿、カナダ出身の穏健派トランブレ枢機卿、イタリア出身の保守強硬派テデスコ枢機卿などが次期教皇として有力視されていたが、そこに前教皇が秘密裏に枢機卿に任命していたメキシコ出身のベニテス枢機卿が現れ・・・。

コンクラーベと呼ばれる教皇選挙を題材にした作品で、前教皇の死去から次の教皇を決めるための選挙を描いておりますが、全てのシーンがサン・ピエトロ大聖堂内というある意味ソリッド・シチュエーション・ムービーとも言えるのですが、次の教皇の座を巡る権謀術数がそこかしこに張り巡らされています。

それぞれの候補の思惑があり、後ろめたい部分もありという聖職者ながらも人間らしさも描写されており、票のやり取りは裏工作なんかも行われるわけですが、組織票なんかもあって有力候補が絞られている状況で、全く未知のダークホースとして新たな枢機卿が登場するという構図も面白いです。

またコンクラーベでは2/3以上の投票が得られない場合、決選投票などではなく再度投票のやり直しとなる仕組みになっていて、それがゆえに投票を重ねるごとに状況も変化していくというのが緊張感を高める要因にもなっていて、ミステリー要素と言っても良いぐらいです。

その背景にそれぞれの教皇のキャラクターやカトリック教会や聖職者たちの抱える問題なども描かれていてドラマとしての見応えも十分でした。

映画の公開時期にフランシスコ教皇が亡くなったこともあって、現実の世界でもコンクラーベが行われたこと、そのフランシスコ教皇アルゼンチン出身という異色の教皇でもあることなどが本作にも絶妙にリンクしていて話題性も十分だったと思います。


3位:サブスタンス

監督:コラリー・ファルジャ
出演:デミ・ムーア、マーガレット・クアリー、デニス・クエイド、他

50歳になった元人気女優のエリザベスはレギュラー番組からの降板を言い渡される。彼女は若さと美貌を求めて怪しげな先端医療”サブスタンス”に手を出す。その効果で若い肉体を手に入れたエリザベスは"スー"として再びスターダムに立つのだが・・・。

栄枯盛衰の激しいショウビズの世界で落ち目のスターが再起をかけて手を出すのがなんとも怪しげな先端医療”サブスタンス”。
予告編では映画というよりはこのサブスタンスのCMという体で作られていたのが印象的で、薬品のやりとりもシャッターが半分降りている寂れた廃墟のような場所に入ると、近未来的な宅配ボックスのようになっているところで、このあたりでも見た目のギャップをうまく演出しています。

その他にもスターの象徴とも言えるハリウッドの手形、巨大なビルボード、栄光の軌跡を見せつける事務所の長い廊下などもうまく用いていて、映像で魅せる、映像で語るという要素が多く取り入れられています。

往年のスター・エリザベス役はデミ・ムーアが扮しているのですが、まさに自分のキャリアをなぞっているかのような役どころに文字通り体当たり演技で挑んでいます。そして彼女の"分身"ともいうべきスーのマーガレット・クアリーもセクシーシンボルでありつつもどこかに気品を漂わせているような印象を残していて、こちらもまた素晴らしい存在感になっています。

ショウビズ界の体質、行き過ぎたルッキズムの問題、そして男女における立場の違いなどの問題点をとかいろいろ問題提起をした上での衝撃のラスト。良い意味でも悪い意味でも記憶から消えていかない作品でした。


2位:顔を捨てた男

監督:アーロン・シンバーグ
出演:セバスチャン・スタン、レナーテ・レインスヴェ、アダム・ピアソン、他

顔に極端な奇形のあるエドワードは、俳優志望ながらも思うように活動できずにいた。劇作家志望のイングリッドに思いを寄せるも積極的にはなれずにいた。ある時、治験段階の先端医療を受け、念願だった新しい顔を手に入れることに成功する。過去を捨て別人としての生活をスタートさせたエドワードだが、イングリッドが過去の自分を題材とした舞台を準備していることを知る。オーディションに望んだエドワードは過去の体験を武器に見事主役に合格する。イングリッドとの距離も縮まっていき順風満帆だったが、舞台のリハーサル中に、過去のエドワードと同じく顔に障害のある男オズワルドが現れ・・・。

プロットを読んだだけで傑作だろうと思っていたらまさにそのとおりだったのが本作です。
顔に障害があることで、仕事にも恋愛にも消極的だった主人公がいちかばちかの先端医療で新しい顔を手に入れることに成功し、新しい人生をスタートします。
そんな彼が舞台で過去の自分をモチーフにした役を演じることになるわけですが、その際に顔の障害を具体化したようなマスクをつけているのがなんとも皮肉です。

そしてそこにまさに過去の自分の生き写しのようなオズワルドが現れます。演じるアダム・ピアソンは実際に神経線維腫症で同様の障害を持っているということで、監督も彼に出会わなかったら実現しなかった作品とも語っています。
このオズワルドが障害をものともしない、趣味が多く気さくでコミュニケーション能力が高いポジティブ・モンスターなキャラクターというのがこれまた皮肉です。これまでのネガティブさの原因をすべて顔の障害のせいにしていたエドワードにとっては青天の霹靂でしょう。エドワードの新たな仕事が不動産業で、顔の良さだけで良い成績を上げているような軽薄さがあるのもまた皮肉に拍車がかかっています。

ルッキズムを軸としたシニカルなドラマとして非常に質の高い作品だったように思います。


1位:野生の島のロズ

監督:クリス・サンダース
声の出演:ルピタ・ニョンゴペドロ・パスカルキャサリン・オハラ、    ビル・ナイ、他

ピーター・ブラウンの児童文学「野生のロボット」を原作に、「リロ&スティッチ」「ヒックとドラゴン」のクリス・サンダース監督がアニメ映画化。
最新鋭のアシストロボット"ロズ"が輸送中の事故で無人島に漂着してしまう。大自然という想定外の環境ながら動物たちの言葉や行動を理解し順応していく。そんな中出会った雁のヒナがロズを親と思い込んでしまう。ロズはひな鳥にキラリと名前をつけ、親代わりとして一人前の渡り鳥にするべく奮闘するが・・・。

AIが当たり前になった現代において、本作のアシストロボット"ロズ"の存在がとてもしっくり来ます。序盤はロズが流れ着いた無人島での奮闘ぶりが描かれます。人間の生活をアシストするために最新鋭の機能を搭載しているにも関わらず、サポートすべき人間がいないという事態がなんとも皮肉です。
意思の疎通もできない、何を考えているかわからない動物たちを向こうに四苦八苦する姿が描かれます。それでもAIによって動物たちの言葉や行動を学習し順応していく様はさすがです。

その後は雁のヒナ・キラリの育成エピソードになっていきます。
途中で出会ったキツネのチャッカリとオポッサムのピンクシッポに助けてもらいながらの育成で、ロズは自身が持っていない感情である"愛"の存在をおぼろげながらに認識していきます。

そしていよいよキラリも渡り鳥として旅立たなければいけないときがやってくるのですが、ロズがキラリの親となったのには一つ理由があって、その真実をキラリに告げられないでいます。このあたりの葛藤もなんともドラマチックです。

出会い、別れ、葛藤と成長、まさに我々人間が経験するライフステージを人間なしで描いているというのも本作の特色です。
そして舞台が大自然ということもあり、自然の摂理、厳しさを描きつつ、共生することの大切さも伝えてくれます。
一方のロズもまた他のアシストロボットにはない感情やアイデンティティーが芽生えてくるのです。

自分は日本語吹き替え版で見たのですが、ロズ役は綾瀬はるかがやっていて、すぐに本人とわかってしまう声ではあるんですが、本作に限っては役どころに非常にあっていた印象です。

物語、設定、キャラクター、あらゆる点で非の打ち所がない傑作だったと思います。必見です。


以上、ベスト10形式でまとめてみました。
1位と2位をどちらにするかかなり迷ったのですが、作品としてのまとまりの良さ、観終わったあとの満足感で「野生の島のロズ」としました。

2025年の総評としては、まさに多様性の時代というか、行き過ぎたルッキズムへの批判を包含する作品が目立ったように思います。
「顔を捨てた男」や「サブスタンス」では重要な要素となっていますし、それを究極的な多様性で描くことで払拭した「星つなぎのエリオ」にもそういった要素が感じられます。

そして先日の日本映画の方でもそうだったのですが、ホラー映画の台頭が外国映画でも目立っていたように思います。ランクインさせたものこそ「死霊館 最後の儀式」だけ(「罪人たち」もその要素は多いですが)ですが、他にも質が高いだけでなく個性的な作品が多かった印象です。

アニメーション作品も「野生の島のロズ」と「星つなぎのエリオ」を入れていますが、他にも豊作だった感じがしますね。

 

ランクインこそしておりませんが、以下に気になった作品を紹介していきます。

 

ホラー強しということを書きましたが、まずはゴシック・ホラー系で行くと第一次大戦後のデンマークで子どもの失踪事件の真相を描いた「ガール・ウィズ・ニードル」、ドイツの古典ホラーをベースにした吸血鬼モノノスフェラトゥギレルモ・デル・トロ監督によるフランケンシュタインなどがありました。
大作シリーズでは「プレデター」シリーズのリブート作プレデター:バッドランド」は装い新たに今後に期待できそうな作品になっています。
新感覚ホラーとしてはスマートフォンのデバイス間共有機能(Airdrop)で見知らぬ犯人から様々な要求をされる恐怖を描いたDROP/ドロップ」、子どもの集団失踪事件を教師、保護者など様々な視点で描いた「WEAPONS ウェポンズ」が印象的でした。

アニメ作品では、アカデミー賞受賞も記憶に新しい「Flow」では動物だけの世界をセリフなしで描いています。同監督がほぼ一人で制作した「Away」も話題になりました。
中国の文化や風土をうまく描きつつ猫も出てくることで人気を博した「羅小黒戦記」の続編「羅小黒戦記2:ぼくらが望む未来」も質の高い作品だったと思います。
そして年末公開で大ヒット中のズートピア2」も前作の世界観をしっかり引き継いだ作品に仕上がっています。

アカデミー賞関連作品も軒並み高評価です。
ウィキッド ふたりの魔女」は2人の魔女が別々の道を歩むようになるまでを描いたミュージカルで、ドラマ性も高く音楽のクオリティーも相まって満足度の高い作品でした。今年公開の後編が楽しみです。
「セントラル・ステーション」のウォルター・サレス監督がブラジルの軍事政権下におけるある家族に起きた事件を描いた「アイム・スティル・ヒア」も見応え十分の傑作でした。「ブルータリスト」ではホロコーストを生き残った建築家の半生を210分という超長尺で描いていてこれまた見応え十分の作品になっています。エミリア・ペレス」は性転換した麻薬王の姿をミュージカル調で描いた文字通りの異色作でした。
いとこ同士の2人が亡き祖母の故郷を巡る旅を描いた「リアル・ペイン 〜心の旅〜」では助演男優賞を受賞したキーラン・カルキンがトラブルメーカーでありながらも憎めないキャラを演じきっています。
アメリカ大統領のドナルド・トランプの誕生秘話を描いた「アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方」では主演男優賞にノミネートされたセバスチャン・スタンがまさにトランプそのものといった印象でした。
「罪人たち」と並んで2026年のアカデミー賞の有力候補である「ワン・バトル・アフター・アナザー」は元革命家がさらわれた娘を取り戻す姿を独特のタッチで描いています。

アクション系の作品では、「ジョン・ウィック」の世界観を引き継いだバレリーナ:The World of John Wick」ではとにかくド派手なアクションが展開されています。優秀な分析官ながら戦闘技術は素人同然の男が恋人の復讐のために立ち上がる「アマチュアもなかなかに個性的な作品でした。

大作系の作品では、ブラッド・ピットが往年のF1レーサーに扮する「F1/エフワン」では、レースシーンの迫力もさることながらドラマとしてのクオリティーも高くなっています。
「サンダーボルツ*」も新たなアベンジャーズの誕生とあって、ややもすればマンネリ化といった印象のあったシリーズに新風を吹き込んでくれています。
ポン・ジュノ監督の「ミッキー17」は、クローン技術が当たり前になった近未来で、使い捨て労働者として危険な任務を課せられる男の運命を描いていて、個性的かつインパクトのある作品になっています。

ご家族でどうぞ的な作品では、同名アニメの実写版リロ&スティッチでは、ハワイを舞台に少女と宇宙生物の姿を描いた作品でうまく現代的にリブートしていて鑑賞後の満足度はアニメ版以上だったかもしれません。
パディントン 消えた黄金郷の秘密」は紳士的なクマ・パディントンの巻き起こす騒動を描くシリーズ第三弾ですが、冒険物語としても家族の物語としても楽しめる安定のシリーズとなっています。

ドラマ系では、ジョージ・クルーニーが往年の俳優役を演じ、ヨーロッパで開催される授賞式に参加するまでの道中を描いた「ジェイ・ケリー」では悲喜こもごもなドラマが展開されていました。
「さよならはスローボールで」は取り壊しの決まった野球場での最後の草野球の試合を描いており、おじさんたちがただ野球に興じるだけなのになぜか面白いという変わり種でした。
メキシコが舞台の「マルティネス」では、仕事一辺倒で堅物の主人公マルティネスが、孤独死した女性の遺品に自分宛てのプレゼントがあったことを機に自分の人生を見つめ直すという異色のドラマながら心温まる作品でした。「ファンファーレ!ふたつの音」では、病気がきっかけで再会した2人の兄弟の葛藤と音楽を介した絆を描くハートフルな作品になっています。

アジアの作品では韓国映画に良作が多かった気がします。
やりたいことが見つからず家業の弁当屋を手伝っている青年が耳の聞こえない女性に恋をする「君の声を聴かせて」はシンプルながらも素敵な恋愛ドラマになっています。また「あの夏、僕たちが好きだったソナへ」は高校時代の仲良しグループとそれぞれが想いを寄せていた女性の姿を描いた青春物語になっていて、どちらも台湾映画の韓国リメイク作品となっています。
「ラブ・イン・ザ・ビッグシティ」は自由奔放な女性とゲイであることを隠している男性の奇妙な同居生活を描いていてドラマとしての完成度が高い作品でした。
「満ち足りた家族」では、敏腕弁護士と小児科医の兄弟とその妻を中心にした家族の姿とある事件を描いたサスペンスで衝撃的でした。

学校を舞台にした作品も印象的なものが多かったです。
「型破りな教室」では実話をベースにメキシコの治安が悪い地域の小学校で文字通り型破りな授業を展開しながらも全国トップクラスの成績に押し上げた教師と生徒たちの姿を描いています。
ベルギーの「Playground 校庭」では、ある兄妹を中心にいじめやヒエラルキーなどの独特な社会を描いています。
「ペンギン・レッスン」も実話ベースの作品で、アルゼンチンの軍事政権下でペンギンとの共同生活を送ることになった新任英語教師の姿を描いています。

ドキュメンタリーでは、2025年最大の衝撃作だったのは「Four Daughters フォー・ドーターズ」で、チュニジアの4姉妹のうち2人がイスラム国に参加してしまい、残された母親と2人の姉妹が、ドラマとして再現することで家族の日々を追体験するとともに問題を見つめ直すという異色のドキュメンタリーになっています。
「キノ・ライカ 小さな町の映画館」ではアキ・カウリスマキ監督が人口9000人の小さな町カルッキラに作った映画館とそこに集う人々を描いたドキュメンタリーで、出てくる人物がみなカウリスマキ作品のキャラクターのような印象で面白いです。
マルタで暮らす猫たちを追った「ねこしま」は保護猫の問題なども描かれていますが、猫がたくさん出てくるので傑作です。

最後に異色中の異色作、「オオカミの家」で一世風靡したクリストバル・レオン&ホアキン・コシーニャ監督の新作「ハイパーボリア人」は、ある女性臨床心理学者が幻の映画フィルムの探索を機に国家の陰謀に触れていく様を描いていますが、実写、アニメ、切り絵、人形劇などを変幻自在に用いてチリの現代史を映し出しているのは圧巻でした。

ということで2025年振り返りでした。
2026年も良い映画に出会えることを楽しみにしております(もう1ヶ月たっちゃったのでじわじわ出会い始めてはいます・・・)。

MOVIE OF THE YEAR 2025 -日本映画編-

今年もゆっくり更新です。
それでは、MOVIE OF THE YEAR 2025 -日本映画編-をお送りします。
2025年の劇場での鑑賞本数は325本!年間300本を映画館で見る男を自称しても怒られなさそうです。

 

毎年、年間の映画良かったランキングを作っているのですが、個人的には日本映画と外国映画を分けるようにしています。

日本映画は予算、公開規模、その他など実に多岐にわたっている部分もあり、それこそハリウッドの超大作などとそのまま比較するのが難しいというのもありますので。あとは10本選ぶという作業においても分けておいたほうがスムーズな気がするのと、単純に紹介できる本数が倍に増えるというのもあります。

一応ランキング形式にはしておりますが、観るタイミング、評価のタイミングによっては入れ替わる可能性も十分にあります。

 

それでは、MOVIE OF THE YEAR 2025 -日本映画編-、始めます。

 

10位:大きな玉ねぎの下で

監督:草野翔吾
出演:神尾楓珠桜田ひより山本美月飯島直子江口洋介、他

昼はカフェ、夜はバーになるお店で、昼のカフェでバイトしている美優と、夜のバーでバイトしている丈流はお互いに顔を合わせたこともなかったが、業務連絡用のノートでやり取りを続けるうちにお互いのことが気になりだし・・・。

爆風スランプの同名曲を元にした"インスパイア"系の作品になりますが、この手の作品は楽曲の世界観や歌詞の意味合いを完全無視して、安直な感動モノになっていることも少なくないのですが、本作はオリジナル曲をかなり意識して作られていることにまず好感を持ちました。
同曲がリリースされた1985年と現代の2つの世代をうまく取り込みつつ、現代でのやり取りを文通から業務連絡用のノートに置き換えたというのも自然なアップデートと言えるでしょう。
主演の二人の対照的な描き方、絶妙なすれ違い感なども織り込み一つのドラマとしての完成度も非常に高かったように思います。

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9位:ストロベリームーン 余命半年の恋

監督:酒井麻衣
出演:當真あみ、齋藤潤、杉野遥亮中条あやみ、池端杏慈、田中麗奈ユースケ・サンタマリア、他

芥川なおの同名小説の映画化。幼い頃から病弱で学校にも思うように通えなかった桜井萌は、15歳の冬、余命半年と宣告されてしまう。そんな萌は、好きな人と一緒に見ると永遠に結ばれるという言い伝えのある満月"ストロベリームーン"を見る夢を叶えるため、高校入学初日、同じクラスの佐藤日向にアプローチをするが・・・。

余命○○の~というタイプの作品は非常に苦手というか評価がしづらいと思っていて、そりゃ人が死ぬんだから悲しいでしょう、とは思うんですがそれを映画の感動のトリガーにしてほしくないという気もしてしまうんですよね。本作もカテゴリーとしてはその類になってしまうわけですが、それでも評価したのはキャストの良さにつきます。
まず萌の両親に扮する田中麗奈ユースケ・サンタマリア。萌が自分のことで家が暗くなってしまうのを嫌がって、悲しい表情を見せては行けないというルールを作るんですが、そのルールを体現するかのように明るく気丈に振る舞う姿がおかしくもあり感動的でした。
そして、萌の最初の親友役の池端杏慈。長身でスポーティーな雰囲気を出しつつ正統派美少女という印象もあって、これからの注目株です。
そして何と言っても主演の當真あみですよ。本作は彼女の魅力を余す所なく引き出しています。その一挙手一投足を見るだけでも本作は見る価値があります。

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8位:平場の月

監督:土井裕泰
出演:堺雅人井川遥中村ゆり安藤玉恵吉瀬美智子、他

朝倉かすみの同名小説の映画化。監督は「花束みたいな恋をした」の土井裕泰
妻と別れ、地元に戻って印刷会社に再就職した青砥は平凡な日々を送っていたが、ある時、中学時代に振られた須藤と偶然再会する。彼女も夫と死別し地元に戻ってきており、似た境遇を抱える二人のささやかな交流が始まっていくが・・・。

ややオールドファッションなラブストーリーという点では目新しさはないかもしれないですが、居酒屋での乾杯のぎこちなさ、自転車の2人乗りの気恥ずかしさなど主演の2人のやり取りの自然さが随所に現れていて、親近感とリアリティーが感じられる作りになっているのが印象的でした。それでいて2人の恋愛や幸福についての考え方が対照的で、割と直球的で率直な青砥に対し、中学時代から「一人で生きていく」と決めていた須藤は人生の紆余曲折を経てその考えに舞い戻っているようで、それゆえ2人の関係性のもどかしさ、切なさが余計に際立っています。
人生の折り返し地点を過ぎた人にはグッと来る作品なのではないでしょうか。

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7位:ペリリュー 楽園のゲルニカ

監督:久慈悟郎
声の出演:板垣李光人、中村倫也、他

第46回日本漫画家協会賞優秀賞を受賞した武田一義の同名漫画の長編アニメ映画。
太平洋戦争末期のペリリュー島、漫画家志望の田丸は、亡くなった仲間の最後の勇姿を書き記し、それを遺族に伝える"功績係"という任務を与えられる。一方、同期の吉敷は、銃の腕前の長けており上等兵に抜擢されていた。そんな2人だったが米軍の猛攻を受け、数少ない仲間とともに息を潜めながらいつ終わるかもわからないサバイバルを強いられるのだが・・・。

原作未読で分かりませんが、キャラクターは原作と一致しているようでいて、こうした戦争モノとは思えないデフォルメされたキャラクターになっています。それでいて描かれるシーンは過酷な戦場というギャップを痛感させられるのですが、それでもなお過酷に映るのが印象的でした。
ちなみにキャラクターとは裏腹に動物や自然はリアルに描写されており、その対比もまた意図的なのではないかと思われます。
冒頭、功績係という任務を与えられた田丸は、早速、空襲警報にびっくりして側溝に落ちて死んでしまった兵士のことを、勇猛果敢に戦った上の戦死としてまとめるように命じられますが、これまで語られてきた武勇伝が自分のような功績係によって捏造されたものだと気がつくシーンになっていて、いきなり痛烈なアイロニーかましてくれます。
その後は敵の襲撃に備えつつもなんとか食料や水を得ようとするサバイバルが続き、このあたりは同年公開の「木の上の軍隊」にも通じるものがありますが、戦争が終わった=日本が負けたということを認められない、認めたくない人の姿も映し出されていて、戦争の愚かしさが伝わってきます。終戦80年という節目としてふさわしい一本だったのではないでしょうか。

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6位:見える子ちゃん

監督:中村義洋
出演:原菜乃華久間田琳加、なえなの、高岡早紀京本大我滝藤賢一、他

泉朝樹の同名コミックの実写映画化。
監督は「残穢【ざんえ】 -住んではいけない部屋-」「ゴールデンスランバー」の中村義洋

なぜか霊が見えてしまう女子高生・みこは、自分の身を守るために霊が全く見えていないふりを続けていた。そんな中、親友のハナや新任の教師としてやってきた遠野に霊が取り憑いていることに気づいてしまい・・・。

原作未読の状態だったので予告編などで見た感じではホラー・コメディーかなあ、ぐらいに思って見に行ったのですが、ちゃんと怖かったです。自分はホラー映画に免疫がつきすぎて怖いと思うことがそれほどないのですが、本作はちゃんと怖いのがまず良いところですね。それも急に大きな音を出すジャンプスケアのような演出ではなく、ただそこに霊がいるという感じで怖がらせてきます。これは同監督の作品「残穢【ざんえ】 -住んではいけない部屋-」でも同様だったのですが、気配や雰囲気で恐怖感を喚起させてくるので、より恐怖感が強くなるのではないでしょうか。

それでいてドラマとしてのクオリティーも高いです。
なえなの扮するユリアは霊が見えることを自称していてオカルト発言がすぎるあまり友だちがいないというキャラクターなのですが、彼女が仲間に加わってからも物語がぐっと深まります。そしてみこの親友ハナの元気いっぱいで天真爛漫な姿も魅力的で、久間田琳加は主演作もありますが、本作がベストアクトではないでしょうか。他にも随所にドラマ性の高さを発揮していて、満足度の高い作品でした。

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5位:ドールハウス

監督:矢口史靖
出演:長澤まさみ瀬戸康史田中哲司安田顕西田尚美風吹ジュン、他

ウォーターボーイズ」「スウィングガールズ」の矢口史靖が原案、脚本、監督を務めたホラー。
最愛の娘を失った佳恵は、ある日、骨董市で亡き娘に似た人形を見つける。その人形を本当の娘のように可愛がることで活力を取り戻していったのだが、やがて夫の忠彦との間に新たに子どもを授かると、人形のことなどすっかり忘れてしまい・・・。

本作も予告編で繰り返し見ていたのですが、印象的だったのが長澤まさみ扮する妻の佳恵が骨董市で見つけてきた人形を食卓に座らせていて、それに気がつく瀬戸康史扮する夫の忠彦が驚くシーンで、2度見からちょっと間があってびっくり、というシーンで、予告編が流れた映画館の場内でも時折笑いがこぼれるなどコミカルな印象が強かったのです。それが実際の本編ではなかなかにちゃんと怖い。というのも自分はホラーに免疫が(以下略)。

物語の構成もしっかりしていて、娘の喪失、その回復のためのある種のドールセラピーから、次子の誕生による人形の扱いの変化、そして次子が人形を見つけてしまうという展開でぐいぐい惹き込まれます。
それから人形への対処として、供養、警察、悪霊払いと様々な手段で対応しようとする流れも完璧でした。

あとはもう画面にいるだけで素晴らしい長澤まさみに尽きます。冒頭の他の主婦と路上でおしゃべりしているシーンからしてスタイルの良さが抜きん出てて驚かされるのですが、娘を失って茫然自失状態から徐々に自分を取り戻していくところ、人形の恐怖に阿鼻叫喚しているところ、そして娘を守るための決意の表情と様々な姿を見せてくれます。

矢口史靖監督と言えば、やはり「ウォーターボーイズ」「スウィングガールズ」のような作品がイメージされるのですが、それ以前には「学校の怪談」のようなTVシリーズを手掛けるなど、ホラー作品にも造詣が深い人だったということを再認識させられる作品でした。

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4位:近畿地方のある場所について

監督:白石晃士
出演:菅野美穂赤楚衛二、他

背筋の同名原作を元に、「ノロイ」の白石晃士監督が映画化。
オカルト雑誌の編集者が突然行方不明となってしまう。後輩の小沢は、かつて一緒に仕事をしたことがあるという女性ライターの千紘とともに、先輩編集者が失踪直前まで追いかけていたネタを調べていくことになる。いくつもの怪事件の資料を追っていくと、すべて"近畿地方のある場所"に導かれていて・・・。

白石監督といえば世間的には「ほんとにあった!呪いのビデオ」「コワすぎ」などのOVシリーズの方が知名度があるのかもしれませんが、自分の中ではなんといっても「ノロイ」なんですよね。フェイク・ドキュメンタリーの体で作られているため、妙なリアリティーもあり没入感も高かった作品ですが、本作はその真骨頂という印象です。
当時は当たり前だったVHSによる録画映像、今だったらYouTubeなんでしょうがニコ生で心霊スポットに突撃する配信者、あげく昔話までも一つの素材として、それらに共通して見えてくるものが"近畿地方のある場所"というミステリー要素も兼ね備えています。
本作もまた意図的に脅かすのではなく、映像の片隅にひっそり映っていて気がつく人だけが気がつくといった形なのもまたホラー作品としては好印象です。細部へのこだわりがあるので、考察系ホラーとでも言えば良いのか、そういう醍醐味も有している作品です。
そしてなんと言ってもキャラインパクトですよ。「ノロイ」でも石井さん、堀さんというなかなかのキャラが登場してきましたが本作でもしっかり登場しますので、そういう楽しみ方も可能です。

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3位:トリツカレ男

監督:高橋渉
声の出演:佐野晶哉、上白石萌歌柿澤勇人、山本高広、水樹奈々森川智之、他

いしいしんじの同名小説のアニメ映画化。
ひとたび何かにハマると周りが見えなくなり四六時中そのものに没頭してしまうことから、周囲に"トリツカレ男"と呼ばれているジュゼッペ。ある日、公園で風船売りをしている少女ペチカに夢中になってしまう。しかし彼女の表情に曇りがあるのに気付いたジュゼッペは、相棒のネズミ"シエロ"にその原因を探ってもらうのだが・・・。

いしいしんじ作品は「プラネタリウムのふたご」に感動し、その当時に出版されていた作品を総ざらいするぐらいに好きになっていたのですが、そのうちの一作が「トリツカレ男」です。いずれの作品もどことなくファンタジー色のある作風やキャラクターながら背後に様々なメッセージが包含されていて深みのあるものになっています。
本作は、主人公が女の子に一目惚れをして振り向いてほしいがためにいろいろ頑張る、というある意味テンプレート的な構図ではあるんですが、あの手この手でペチカの悩みを解決しようとするところに無償の愛を感じてしまいます。
この過程で、トリツカレ男が過去に取りつかれたものたちが活きてくるという展開も面白く、物語の伏線回収のような爽快感があります。トリツカレ男の取りつかれたものたちについてはWikipediaにリスト化されておりますので、原作をお読みの上、そちらを見てもらうと良いかと思います。
キャラクターも秀逸ですが、個人的にはツイスト親分ですね。ツイストを踊るギャングのボスなのですが良い味出しています。
20年以上前の作品が原作ですが、殺伐としたこんな時代だからこそ純粋な思いに浸るのも良いのではないでしょうか。

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2位:劇場版『チェンソーマン レゼ篇』

監督:吉原達矢
声の出演:戸谷菊之介、    井澤詩織楠木ともり上田麗奈、他

藤本タツキの同名コミックのTVアニメ版の劇場版。
雨宿りをしていたデンジは偶然レゼと出会う。カフェで働いているというレゼは、学校での生活などレンジの知らない世界を教えてくれる。急速に親密になっていくデンジとレゼだったが・・・。

チェンソーの悪魔に変身する能力を手に入れたデンジが公安のデビルハンターとして活躍する様を描いた原作の中でも屈指の人気エピソード、レゼ篇の映画化ということですが、デンジの生い立ちや設定などの説明もまったくなく物語の世界に放り込まれます。なので、予備知識ゼロだと置いてけぼりを食らう可能性はありますが、そんなこと感じさせないぐらいの疾走感と暴走感に溢れまくっています。
それでいてしっとり青春ラブストーリーの要素も取り入られてているし、ラストの落とし所も素晴らしく、単体の映画としての評価はパーフェクトと言って差し支えないでしょう。
「呪術廻戦 0」もそうでしたが、人気の連載の映画版は本筋のダイジェストのようなものよりもエピソードをうまく抜き出しての方がまとまりもあるし、単体で見やすいという印象はありますね。

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1位:佐藤さんと佐藤さん

監督:天野千尋 
出演:岸井ゆきの宮沢氷魚藤原さくら佐々木希、他

大学のサークルで出会った同じ苗字の佐藤タモツとサチは卒業後も同棲カップルとして仲睦まじく暮らしていた。タモツは塾講師のバイトをしながら司法試験合格を目指し、サチもそれを応援していた。ある年、サチもタモツの気持ちを理解するために一緒に司法試験の勉強を始めるが、サチは一発で司法試験に合格してしまい、タモツは試験の落ちてしまう・・・。

もはやこの設定だけで勝利というか傑作が確定しているような作品。
映画の大半はサチとタモツの姿に焦点が当てられているのですが、この2人のキャラクターの描き分けがまず見事。冒頭の2人が一緒に入っているサークル(明示されていませんがコーヒー研究会とかそういう感じ)で、豆や焙煎、淹れ方にもこだわりのあるタモツに対し、美味しければ何でも良いという感じのサチ。これを何気ない会話の一端だけで表現しています。

その後の2人の同棲生活でも駆け出しの弁護士として忙しくなってきたサチに対して、家事や育児の比率が大きくなっているタモツという構図が描かれます。
日本の一般的な家庭とは役割が逆転している設定で四苦八苦する様子が映し出されるのですが、個々のエピソードが私たちが日常的に経験することばかりで、何気ない一言やさりげない行動が受け手によって捉え方が違ってしまうということをこれでもかと伝えてきます。

タモツは家事を率先してやるなど旧態依然の性役割をそれほど意識していないキャラクターだと思うんですが、それでも司法試験の合格したら自分がバリバリ働いて、サチには家族を支えてもらいたいという意識はあったでしょうし、それがこの逆転によって瓦解してしまい、その状況を打破するためには自分が司法試験に受かるしかないというプレッシャーに終始かられている印象でした。
それに対してサチはどっちが働くどっちが家庭を支えるとかはそれほど重要ではなく、もしタモツが司法試験に受かって弁護士になっていたら自分は専業主婦という生き方も受け入れていたのではないかと思われます。ここにも二人の個性の違いが表されていて絶妙でした。

それから職業観・職業意識についての描き方も素晴らしい。
仕事で子どもを迎えに行くのが難しくなったサチがタモツにお願いしたときに、タモツも仕事が入っていて無理だと言います、このあたりでサチはタモツはアルバイトだからなんとでもなるのではないかという意識を垣間見せます。一方のタモツも仕事としてやっていることに立場は関係ないと考えているのか、自分の都合で勝手に変えられないという姿勢を保ちます。

こうしたちょっとしたボタンのかけ違いの連続がやがて2人の関係性にも影響していくというのが15年という年月のストーリーとして描かれています。
設定の良さ、ドラマとしてのクオリティーの高さ、カップルの姿を自然に演じきったキャストの良さ、全てが噛み合った傑作だったと思います。

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以上、10本チョイスしましたが、他のレコメンド作品も含めて総評を書いていきたいと思います。

 

まず今年はホラー作品が強かった!そもそもホラー映画は結構好きなジャンルなのですが、今年は3作品をランクインさせるぐらいでした。他にも、失踪した弟を記録したビデオテープから物語が始まる「ミッシング・チャイルド・ビデオテープ」は、一切ジャンプスケアを使用しない本格派のホラー作品に仕上がっています。ゲーム原作の異色ループホラー「8番出口」も映画というフォーマットにうまく置き換えている印象があります。筒井康隆原作、吉田大八監督という異色の組み合わせで自分の残りの人生を計算しつつ悠々自適の生活をしていた主人公に迫りくる恐怖を描いた「敵」も年初に見た映画ながら記憶に色濃く残っています。

 

世界を席巻しつつあるアニメ作品もランク内に3本選びましたが、それ以外にも劇場版2作目も当たり前のようにメガヒットを記録した「劇場版 鬼滅の刃 無限城編 第一章 猗窩座再来」、こちらも前作に引き続き、全てを絵巻のような表現で描ききった「劇場版モノノ怪 第二章 火鼠」Studio4℃制作で、平凡な青年と人魚王国の姫の恋を描いた異色作の「Chao」は話題にこそなりませんでしたが非常に良いファンタジーだった印象です。大ヒットコミック「チ。―地球の運動について―」の原作者、魚豊の連載デビュー作のアニメ映画版「ひゃくえむ。」も100m走にすべてを賭けた男たちの物語が静かに熱く描かれていました。
そして2025年のアニメ映画における一つの衝撃は「無名の人生」でしょう。ある男の生涯を"ほとんど動かないアニメーション"という独特な表現で描いた衝撃作でした。

 

TVシリーズの映画化では年初に見た「劇映画 孤独のグルメはフランス、韓国と海外を股にかけての井之頭五郎の活躍?とグルメを描いていて、ドラマ版をうまくグレードアップさせている印象でした。岸辺露伴は動かない 懺悔室」もイタリアを舞台に"幸せの絶頂期に絶望を味わう"という呪いをかけられた男の謎を追うストーリーで、独特の雰囲気をうまく昇華しています。劇場版「TOKYO MER 〜走る緊急救命室〜南海ミッション」は、鹿児島・沖縄の島々を巡る南海MERとして活躍する面々を描いておりますが、鈴木亮平扮する喜多見医師の人間離れした活躍ばかりが目立った前作よりも、本作のほうがチームとしての医療だったり、人を救うために必死になる人々の姿が心を打つ作品になっていた印象です。

 

漫画が原作の作品では童貞の少年の血を欲して銭湯に居候しているバンパイアを主人公にした「ババンババンバンバンパイア」は、ぶっ飛んだキャラ、過剰な演出、ミュージカルとお遊び要素も多いながら勘違いコメディーとしてうまく成立していました。

 

ヒット作で言えば、何と言っても「国宝」ですね。
実写映画としての興行収入記録を塗り替えた作品ですが、いわゆる娯楽作でもなく3時間以上の尺の作品で成し遂げたということはなんとも画期的でした。やや王道的な作品すぎるのでランクには入れておりませんが、普通に高評価です。
松たか子松村北斗主演の「ファーストキス 1ST KISS」は時空を超えたラブストーリーになっていて、松たか子のチャーミングさと坂元裕二脚本らしい自然なやり取りが印象に残る作品です。
そして、佐藤二朗の怪演が光る「爆弾」は取調室でのやり取りを元に爆弾のありかを突き止めようとするミステリー要素もある衝撃作で見応え十分でした。

 

この監督作品なら間違いない、と言える監督としてはまずは藤井道人監督の「港のひかり」。寂れた漁村を舞台に元ヤクザの漁師と目の見えない少年との交流を描いた作品で、こうした疑似家族を描かせると一品ですね。
「湯を沸かすほどの熱い愛」の中野量太監督の新作「兄を持ち運べるサイズに」では、疎遠だった兄の死の知らせを受けて、トラブルメーカーだった兄の足跡を思い出していくという物語で、これまた珠玉の家族の物語になっています。

 

現代的なテーマの作品で言えば、コロナ禍とそれによるリモートワークによって田舎への移住をした男のその周囲の人間模様を描いた「サンセット・サンライズも秀逸な作品だったと思います。「この夏の星を見る」も、コロナ禍でばらばらになってしまっても場所が離れていても、星を見ることで一つになれる様を描いていて、爽やかな感動を呼んでくれます。
阿部寛芦田愛菜主演で、SNSで突如として事件の犯人とされてしまった主人公が身の潔白と真実を求めて逃亡生活をする「俺ではない炎上」も、なかなかの変化球で印象的だった作品です。ある中学校のクラスの全員が金髪で登校してきたことで巻き起こる騒動を描いた「金髪」では、納得のいかないルールとそれに対する子どもたちの反抗に、教育現場の事なかれ主義やあることないこと書き立てるメディアに暴走するSNSなどまさに現代的な要素がてんこ盛りだった作品でした。
「でっちあげ 〜殺人教師と呼ばれた男」もある教師の生徒に対する行動に尾ひれがつき、殺人教師のレッテルを貼られてしまうという物語を描いていますが、やはりメディアやSNSが現代の拡声器として良くない方向に作用している様が映し出されています。

 

女子2人物語系では、大学の女子寮で同室の2人を描いた「ネムルバカ」では、明確な目標も夢もなく平凡に生きる入巣と、いい加減でだらしないところもあるがバンドを組んで夢に邁進中のルカを対照的に描いています。また、「ミーツ・ザ・ワールド」ではオタ活に全てを捧げている由嘉里と過去に傷がありながらも自分らしさを失わないキャバ嬢ライの奇妙な同居生活を描いています。

 

感動ドラマで言えば、不思議な記憶を持つ妹と親代わりに彼女を育てた兄の姿を描いた「はなまんま」、新海誠監督の代表作秒速5センチメートルの実写版もありました。

 

お笑い芸人による作品では、ジャルジャル福徳秀介原作の小説を映画化した「今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は」はよくある大学生の日常ドラマかと思いきや、かなりクオリティーの高い青春ドラマに仕上がっていてキャストも素晴らしく必見の一本だと思います。
空気階段の水川かたまりを主演に迎えた「死に損なった男」では、お笑いの構成作家で疲弊しきった主人公が衝動的に自殺を図ろうとしたが、前の駅で自殺した男の霊に憑かれてしまうという異色のコメディーで、独特の雰囲気を体現してくれています。

 

意外な拾いものという点では、「美晴に傘を」は、港町を舞台に、絵本作家になると言って家を飛び出した息子が亡くなり、漁師の父親の元に納骨にやってきた息子の妻と娘たちを描いていて、2組の親子の関係性の描き方が絶妙で、映像表現も美しく、北海道を舞台にしたローカル映画だと思っていたら素晴らしい傑作でした。
「風のマジム」は沖縄で地元のサトウキビを使ったジンを作ることを思い立つ主人公の姿を描いていて、0から1にする難しさと、主人公の人を巻き込む魅力とひたむきさが全開な作品になっていて、公開規模が小さかったのが悔やまれる作品です。

 

2025年は終戦80年だったのですが、思いのほか戦争関連の作品は少なかった気がするのですが、実話を元にした井上ひさし原案の舞台劇を映画化した「木の上の軍隊」では、終戦を知らずにガジュマルの木で必死のサバイバルを続けていた2人の男の姿を描いています。

 

以上、MOVIE OF THE YEAR 2025 日本映画編でした。
次回は外国映画編をお送りいたします(なるべく早めに・・・)。

第97回アカデミー賞発表! ―予想結果と雑感―

第97回アカデミー賞が発表になりました。
今年はNHK-BSでの放送で、うまいこと有休も取れましたので、リアルタイムで鑑賞しました。
ですので雑感についても極力リアルタイムで書いてみました。
それでは受賞結果です。発表順に並べ替えております。

 


助演男優賞(Supporting Actor)

ユーリ・ボリソフ 『ANORA アノーラ』
キーラン・カルキン『リアル・ペイン~心の旅』
エドワード・ノートン 『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』
ガイ・ピアース 『ブルータリスト』
ジェレミー・ストロング 『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』 

授賞式最初の発表でしたが、大本命キーラン・カルキンが受賞しました。
トラブルメーカーながら繊細なキャラクターで、映画の魅力を体現している役どころでした。
「マイ・フレンド・メモリー」の頃から演技力が評価されていましたが、ついにオスカー俳優となりましたね。


長編アニメーション映画賞(Animated Feature)

○『Flow』
インサイド・ヘッド2』
『Memoir of a Snail(原題)』
ウォレスとグルミット 仕返しなんてコワくない!』 (Netflixで観る)
◎『野生の島のロズ』

『Flow』が見事受賞。
国際長編映画賞にもノミネートされているので作品そのものの質が高いということでしょう。再来週から公開なので楽しみです。
『野生の島のロズ』は残念。でもこちらも良い映画なので見れるチャンスがある方はぜひ。


短編アニメーション映画賞(Animated Short)

『Beautiful Men(原題)』
『In the Shadow of the Cypress(原題)』
『あめだま』
○『Wander to Wonder(原題)』
◎『Yuck!(原題)』 

こはちょっとサプライズ、『In the Shadow of the Cypress(原題)』が受賞しました。邦題は「イトスギの影の中で」に決まったようですね。
ノミネート作品の中でちょっと感動モノっぽいのも良かったのかもしれませんね。


衣装デザイン賞(Costume Design)

『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』アリアンヌ・フィリップス 
教皇選挙』 Lisy Christl
グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』Janty Yates
○『ノスフェラトゥ』 Linda Muir
◎『ウィキッド ふたりの魔女』 Paul Tazewell 

受賞は『ウィキッド ふたりの魔女』でした。やはり強かった。Paul Tazewellはスティーブン・スピルバーグ監督の『ウェスト・サイド・ストーリー』でのノミネートを経ての受賞となりました。本人もスピーチで言っていましたが、アフリカ系アメリカ人のデザイナーとして初の受賞なんですね。おめでとうございます!


脚本賞(Original Screenplay)

『セプテンバー5』 Tim Fehlbaum, Moritz Binder
○『ANORA アノーラ』 ショーン・ベイカー
『ブルータリスト』 ブラディ・コーベット、モナ・ファスヴォルド
◎『リアル・ペイン~心の旅』 ジェシー・アイゼンバーグ
『サブスタンス』 コラリー・ファルジャ

大本命の『ANORA アノーラ』のショーン・ベイカーが受賞。
これは作品賞にもつながる結果かもしれませんね。
『リアル・ペイン~心の旅』は脚本が評価されやすいと思っていたのですが、ジェシー・アイゼンバーグはこれからも俳優、脚本、監督とマルチに活躍してくれそうなので今後にも期待ですね。


脚色賞(Adapted Screenplay)

『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』ジェイ・コックス、ジェームズ・マンゴールド
◎『教皇選挙』 ピーター・ストローハン
○『エミリア・ペレス』 ジャック・オディアール
『シンシン/SING SING』 クリント・ベントレー、グレッグ・クウェダー、クラレンス・マクリン、ジョン“Divine G”ウィットフィールド
『NICKEL BOYS(原題)』 Ramell Ross、Joslyn Barnes

ここは順当に『教皇選挙』でした。ピーター・ストローハンと言えば『裏切りのサーカス』の難解な物語をうまく映画に落とし込んだ脚色が話題でしたが、アカデミー賞は初受賞ですね。日本では今月公開予定なので楽しみです。
エミリア・ペレス』は、ノミネート発表のときの歓声も他作品と比べて小さめだったのは気になるところですね。


メイクアップ&ヘアスタイリング賞(Makeup and Hairstyling)

『A Different Man(原題)』
エミリア・ペレス』
ノスフェラトゥ(Nosfeartu)』
◎『サブスタンス』
○『ウィキッド ふたりの魔女』

『サブスタンス』が受賞でした。メイクアップの重要度が高い作品だと思うので、受賞も納得です。しかし予告編しか見てなかったのですがノミネーションの映像で映った姿は更にすごかった・・・。日本公開は5月予定なのでもうちょっと先ですが楽しみです。


編集賞(Film Editing)

○『ANORA アノーラ』 ショーン・ベイカー
『ブルータリスト』Dávid Jancsó
◎『教皇選挙』 ニック・エマーソン
エミリア・ペレス』 Juliette Welfling
ウィキッド ふたりの魔女』 Myron Kerstein

受賞は『ANORA アノーラ』!
ショーン・ベイカー監督が自ら編集をしているということで、そのパターンでの受賞は過去それほど多くないのですが、そうしたジンクスをはねのけての受賞でした。
これは『ANORA アノーラ』旋風が始まるのか・・・?


助演女優賞(Supporting Actress)

モニカ・バルバロ 『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』
フェリシティ・ジョーンズ 『ブルータリスト』
アリアナ・グランデ 『ウィキッド ふたりの魔女』
イザベラ・ロッセリーニ 『教皇選挙』
ゾーイ・サルダナ 『エミリア・ペレス』

ここは大本命の『エミリア・ペレス』のゾーイ・サルダナでした。主演女優のSNSでの発言で作品に逆風が吹く中でもしっかり評価されたのは良かったですね。ゾーイ・サルダナと言えば『アバター』や『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の印象が強くて素顔での演技があまり馴染みがなかったのですが、本作で文句なしの演技派女優の仲間入りです。
エミリア・ペレス』も今月末に日本公開ですので楽しみです。


美術賞(Production Design)

▲『ブルータリスト』 ジュディ・ベッカー、Patricia Cuccia
教皇選挙』 Suzie Davies, Cynthia Sleiter
デューン: 砂の惑星 パート2』  Shane Vieau, Patrice Vermette
○『ノスフェラトゥ』 Craig Lathrop, Beatrice Brentnerova
◎『ウィキッド ふたりの魔女』 Nathan Crowley, Lee Sandales

ここも『ウィキッド ふたりの魔女』が受賞しました。
あのファンタジーな世界観を作り上げたのはまさに見事。Nathan Crowleyはクリストファー・ノーラン監督作品などで美術を担当していて、アカデミー賞では実に7回目のノミネートで初受賞です。


歌曲賞(Original Song)

◎“El Mal” from 『エミリア・ペレス』
“The Journey” from 『The Six Triple Eight(原題)』
○“Like A Bird” from 『Sing Sing(原題)』
“Mi Camino” from 『エミリア・ペレス』
“Never Too Late” from 『Elton John: Never Too Late(原題)』

“El Mal” from 『エミリア・ペレス』が受賞でした。作品もミュージカルなのか?と思わせるぐらいに楽曲が劇中のシーンで登場しているだけあって、それが評価された印象ですね。そして複数曲ノミネートが強いというのもまた証明されました。
無冠の女王ダイアン・ウォーレン、今年もあまり知らない作品で実に15回目となるノミネートもまたしても受賞ならず(なお名誉賞を先に受賞しています)。


短編ドキュメンタリー賞(Documentary Short)

『Death by Numbers(原題)』
◎『I Am Ready, Warden(原題)』
『Incident(原題)』
▲『Instruments of a Beating Heart(原題)』
○『The Only Girl in the Orchestra(原題)』

『The Only Girl in the Orchestra(原題)』が受賞!これはちょっとサプライズかな。
ニューヨーク・フィルハーモニー楽団初の女性団員を追ったドキュメンタリーで、女性のエンパワメントは一つの重要なテーマとして捉えられているということでしょう。


長編ドキュメンタリー賞(Documentary Feature)

『Black Box Diaries』
○『ノー・アザー・ランド 故郷は他にない』
『Porcelain War(原題)』
『Soundtrack to a Coup d’Etat(原題)』
◎『Sugarcane(原題)』

『ノー・アザー・ランド 故郷は他にない』が受賞しました。
イスラエルに軍用地にするとされ、強制的に立ち退きをさせられるパレスチナの人々の姿を追ったドキュメンタリーです。ユダヤ系の人も多いアカデミー賞にあってこの作品が評価されたことは大きな意味があるでしょう。


録音賞(Sound)

◎『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』
○『デューン: 砂の惑星 パート2』
エミリア・ペレス』
ウィキッド ふたりの魔女』
『野生の島のロズ』 

デューン: 砂の惑星 パート2』が受賞しました。前作『デューン砂の惑星』でも受賞していて改めて技術力を示したというところでしょうか。3作目にはプレッシャーになるかもしれませんが・・・。
『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』はこの段階でまだ受賞なしは気になるところ・・・。


視覚効果賞(Visual Effects)

『エイリアン: ロムルス
○『BETTER MAN/ベター・マン』
◎『デューン: 砂の惑星 パート2』
猿の惑星: キングダム』
ウィキッド ふたりの魔女』

やはり強かった『デューン: 砂の惑星 パート2』が受賞しました。
シリーズものの間ということでどうしても評価が低くなりがちですがそれをものともしない受賞でした。次回作が楽しみです(今年夏に撮影開始予定とか)。


短編実写映画賞(Live Action Short)

『A Lien(原題)』
『Anuja(原題)』
○『I’m Not a Robot(原題)』
『The Last Ranger(原題)』
◎『The Man Who Could Not Remain Silent(原題)』

『I’m Not a Robot(原題)』受賞!これはサプライズ!
やはりこの部門は短編ならではのアイデア作品が評価されやすいのかも。
誰もが経験しているパソコンでのCAPTCHA認証のイライラから発想を得たというのも独創的。


撮影賞(Cinematography) 

◎『ブルータリスト』 Lol Crawle
デューン: 砂の惑星 パート2』 Greig Fraser
エミリア・ペレス』 Paul Guilhaume(写真)
『Maria(原題)』Ed Lachman
○『ノスフェラトゥ』 Jarin Blaschke

『ブルータリスト』がこの部門で初受賞。
やはり作品の評価と密接に結びついているということで納得の結果です。
『ブルータリスト』はすでに日本で公開中ですが、いかんせん長尺なのでなかなか見に行く時間を作るのが難しいんですよね・・・。


国際長編映画賞(International Feature)


◎『I’m Still Here(英題)』(ブラジル)
『ガール・ウィズ・ニードル』(デンマーク
○『エミリア・ペレス』(フランス)
『聖なるイチジクの種』(ドイツ)
『Flow』(ラトビア

『I’m Still Here(英題)』が受賞!ウォルター・サレス監督は1998年の『セントラル・ステーション』以来となるノミネートでかつブラジル作品の初受賞ということでめでたいづくしです。『セントラル・ステーション』も良い映画だったし納得の受賞です。日本では8月公開とのことで楽しみに待ちましょう。
エミリア・ペレス』はやはり逆風の影響があるのか・・・。


主演男優賞(Actor)

エイドリアン・ブロディ 『ブルータリスト』
ティモシー・シャラメ 『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』
コールマン・ドミンゴ 『シンシン/SING SING』
レイフ・ファインズ 『教皇選挙』 
セバスチャン・スタン 『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』

『ブルータリスト』のエイドリアン・ブロディが受賞しました。
AIによる発音アクセントの修正などがネックになるかと思われましたが、それをはねのけての受賞ですね。「戦場のピアニスト」以来2度目の受賞で、ジャック・ニコルソントム・ハンクスダスティン・ホフマンアンソニー・ホプキンスショーン・ペン錚々たる名優たちと賞の上では肩を並べることになります。
ティモシー・シャラメは残念でしたが、『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』の他に『デューン: 砂の惑星』シリーズなどの大作出演も多いですし、すぐにまたチャンスがありそう。エイドリアン・ブロディの最年少受賞記録もまだ破られませんでした。


作曲賞(Original Score)

◎『ブルータリスト』
教皇選挙』
『野生の島のロズ』
○『エミリア・ペレス』
ウィキッド ふたりの魔女』

前哨戦の勢いのまま『ブルータリスト』でした。
音楽を手掛けたダニエル・ブルンバーグは、Cajun Dance Partyのボーカルだった人ですが、初ノミネート初受賞というのも素晴らしい。
『ブルータリスト』が2部門目の受賞で、この時点で『ANORA アノーラ』『ウィキッド ふたりの魔女』『エミリア・ペレス』『デューン: 砂の惑星 パート2』と並びました。


監督賞(Director)

ジャック・オディアール 『エミリア・ペレス』
ショーン・ベイカー 『ANORA アノーラ』
○ブラディ・コーベット 『ブルータリスト』
コラリー・ファルジャ 『サブスタンス』
ジェームズ・マンゴールド 『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』

『ANORA アノーラ』の勢いとどまらず。
これでショーン・ベイカーは3つ目のオスカーを手にしました。
編集賞を取るのならここは確定だったかも。
この時点で未発表の作品賞と主演女優賞の受賞に追い風となるか?


主演女優賞(Actress)

シンシア・エリヴォ 『ウィキッド ふたりの魔女』
カルラ・ソフィア・ガスコン 『エミリア・ペレス』
○マイキー・マディソン 『ANORA アノーラ』
デミ・ムーア 『サブスタンス』
フェルナンダ・トーレス 『I’m Still Here(原題)』

受賞は『ANORA アノーラ』のマイキー・マディソン!!!
『ANORA アノーラ』の勢い止まらず!これはもう作品賞も確定の予感がします。
『ANORA アノーラ』は明日見に行く予定なので楽しみです。
デミ・ムーアも千載一遇のチャンスだっただけに残念。


作品賞(Best Picture)

◎『ANORA アノーラ』
○『ブルータリスト』
『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』
▲『教皇選挙』
デューン: 砂の惑星 パート2』
エミリア・ペレス』
『I'm Still Here(英題)』
『Nickel Boys(原題)』
『サブスタンス』
ウィキッド ふたりの魔女』

明らかに『ANORA アノーラ』の流れになっていましたね。
ショーン・ベイカーは4度目の登壇になるのかな。
レイティング指定の作品の受賞は1969年の『真夜中のカーボーイ』以来、実に56年ぶりの快挙です。
その制限をものともしない作品なのでしょう。
見るのが楽しみです。


第97回アカデミー賞雑感

全部門予想結果:
◎的中:13
○的中:9
ハズレ:1

でした。
完全にハズレだったのは短編アニメーション映画賞(Animated Short)候補のみなのでまあまあ的中した方でしょう。
ということはある程度下馬評通りの受賞結果になったということも言えます。
アカデミー賞会員も多国籍化、多様化が進んできたことで幅広く選ばれるようになったことの現れであれば良いのですがどうなのでしょう?

作品賞を受賞した『ANORA アノーラ』がノミネートされた8部門中5部門で受賞で、主演女優賞、脚本賞編集賞、監督賞、作品賞と主要部門での受賞も多いということで、今年はまさに『ANORA アノーラ』の年だったということでしょう。
対抗視されていた『ブルータリスト』が作曲賞、撮影賞、主演男優賞の3部門で、受賞数としては2番目というのも対抗としての面目躍如といったところでしょうか。

他は『デューン: 砂の惑星 パート2』『ウィキッド ふたりの魔女』『エミリア・ペレス』がそれぞれ2部門ずつという結果になりました。
技術系の『デューン: 砂の惑星 パート2』、デザイン・美術系の『ウィキッド ふたりの魔女』とキレイに色分けされた印象です。
エミリア・ペレス』はやはり主演女優のSNSでの発言が尾を引いてしまった可能性もありますね。
ともあれ1つの作品に賞が集中しないのが近年のアカデミー賞を象徴しているという気がします。

今年はNHK-BSで生放送だったこともあり授賞式をリアルタイムで鑑賞できたのですが、例年と比較してスリムな授賞式だった印象です(時間はやや長めだったようですが)。レッドカーペットの様子があまり映されなかったことも要因でしょうが、このあたりはロサンゼルスでの火災被害を受けてのものかもしれません。授賞式にロサンゼルスの消防士たちが登壇して、司会者も敬意を払っていたのは印象的でした。

歌曲賞ノミネートの楽曲披露がなかったのは少し残念でしたが、その分、オープニングで『ウィキッド ふたりの魔女』の主演2人の歌唱があり、途中では007トリビュートの歌唱もあって、演出としては良かったかと思います。
去年議論になってしまった人種差別的な行為も特になく、おしなべて平和な授賞式だったように思います。

今年はピンポイントで今月日本で公開する関連作品も多いので、興味を持たれた方はぜひ見に行ってください。ショーン・ベイカー監督が言っていたように、ぜひ映画館で!

どこよりも遅い! 第97回アカデミー賞 全部門受賞予想

今年も例によってギリギリになってしまいました。

ということでどこよりも遅いアカデミー賞全部門予想です。
今回は予想の時間も書く時間もあまりないのでやや簡易的になりますのでご了承ください。

 


作品賞(Best Picture)候補

◎『ANORA アノーラ』
○『ブルータリスト』
『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』
▲『教皇選挙』
デューン: 砂の惑星 パート2』
エミリア・ペレス』
『I'm Still Here(英題)』
『Nickel Boys(原題)』
『サブスタンス』
ウィキッド ふたりの魔女』

今年は全体として『ANORA アノーラ』と『ブルータリスト』の一騎打ちの様相ですね。
本命は『ANORA アノーラ』。アメリカ製作者組合賞(PGA)、アメリカ監督組合賞(DGA)を受賞し勢いがありますし、カンヌ映画祭でもパルム・ドール(最高賞)に輝いていることも今では追い風にこそなれ逆風とはならなさそうです。ただ、アメリカのストリッパーとロシアの御曹司の恋を描いた作品ということで題材的には推しづらく、レイティング指定の映画の受賞は1969年の『真夜中のカーボーイ』まで遡らなければならないところがどうかですね(ちなみに『真夜中のカーボーイ』は後にレイティング指定が解除されたそうです)。
対抗は『ブルータリスト』。ユダヤ人の建築家の半生というホロコースト作品で3時間超の超大作です。『ANORA アノーラ』とは対照的に賞受けしやすい題材ということで保守層がこちらの作品を支持する可能性も大いに考えられます。
3番手は『教皇選挙』。こちらは英国アカデミー賞の作品賞を受賞しています。ローマ教皇の選挙を題材にした作品で、ヨーロッパ人の票が集中する可能性はあります。


監督賞(Director)候補

ジャック・オディアール 『エミリア・ペレス』
ショーン・ベイカー 『ANORA アノーラ』
○ブラディ・コーベット 『ブルータリスト』
コラリー・ファルジャ 『サブスタンス』
ジェームズ・マンゴールド 『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』

『ANORA アノーラ』が作品賞を受賞するのであれば、ここも手堅くショーン・ベイカーが本命でしょう。ただ、『タンジェリン』以降の作品は批評家受けこそ良いものの『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』でもアカデミー賞ではノミネートすらされなかったことは気がかり。
そうなると対抗のブラディ・コーベットの目も。3時間超の作品をまとめ上げかつ予算もかなり抑えたということでその手腕は評価されてしかるべしでしょう。ただ、最近になって編集の際にAIの使用が取り上げられて物議を醸したこともあり、その点がマイナスでしょうか。


主演男優賞(Actor)候補

エイドリアン・ブロディ 『ブルータリスト』
ティモシー・シャラメ 『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』
コールマン・ドミンゴ 『シンシン/SING SING』
レイフ・ファインズ 『教皇選挙』 
セバスチャン・スタン 『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』

前哨戦で言えば『ブルータリスト』のエイドリアン・ブロディなのでしょうが、監督賞のところで書いたAI使用がハンガリー語のアクセントの調整のためだったということで、この点が気がかり。
そこで本命は『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』のティモシー・シャラメボブ・ディランを演じ、歌声も披露しているということで、実在の人物の演技は評価されやすいポイントです。2017年の『君の名前で僕を呼んで』以来のノミネートということで悲願の受賞があっても。
ちなみに現時点での最年少主演男優賞の受賞者がエイドリアン・ブロディの29歳343日で、もしティモシー・シャラメが受賞するとこれを更新することになります。その劇的さも後押ししそうな気がします。


主演女優賞(Actress)候補

シンシア・エリヴォ 『ウィキッド ふたりの魔女』
カルラ・ソフィア・ガスコン 『エミリア・ペレス』
○マイキー・マディソン 『ANORA アノーラ』
デミ・ムーア 『サブスタンス』
フェルナンダ・トーレス 『I’m Still Here(原題)』

カルラ・ソフィア・ガスコンがトランスジェンダー女性として初めてノミネートされたのですが、SNSでの差別的発言などが取り上げられ、純粋に評価しづらくなってしまったのが痛いところ。
となると本命は、『サブスタンス』のデミ・ムーア。若さと美しさに固執していく往年の女優を描いたスリラーということで、自身のキャリアをも象徴しているかのような役どころは評価しやすいでしょう。キー・ホイ・クァンブレンダン・フレイザーなどかつてスターダムに立っていた役者のカムバックというのも後押しポイントです。
対抗は『ANORA アノーラ』のマイキー・マディソン。タイトルロールを演じており作品の魅力=彼女の魅力という構図であれば受賞も頷けます。ただ作品自体の評価が高すぎると逆にこの部門では受賞が難しくなるかもしれません(ここを受賞すると作品賞の方が危ぶまれる可能性もありますが)。あとはキャリアを考えるとデミ・ムーアの方が優位かもしれません。


助演男優賞(Supporting Actor)候補

ユーリ・ボリソフ 『ANORA アノーラ』
キーラン・カルキン『リアル・ペイン~心の旅』
エドワード・ノートン 『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』
ガイ・ピアース 『ブルータリスト』
ジェレミー・ストロング 『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』 

ここは『リアル・ペイン~心の旅』のキーラン・カルキンで鉄板でしょう。
前哨戦を総ナメ状態でもありますし、祖母の足跡を巡るために参加したホロコーストツアーでトラブルを起こしつつも心にグッと来るエピソードを語っていて、作品の魅力そのものの美味しい役を演じきっているというのが評価しやすいポイントでしょう。


助演女優賞(Supporting Actress)候補

モニカ・バルバロ 『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』
フェリシティ・ジョーンズ 『ブルータリスト』
アリアナ・グランデ 『ウィキッド ふたりの魔女』
イザベラ・ロッセリーニ 『教皇選挙』
ゾーイ・サルダナ 『エミリア・ペレス』

エミリア・ペレス』のゾーイ・サルダナ本命。主演女優賞の欄で書いたように作品全体の評価を揺るがしかねない事態とも言えますが、マフィアのボスの性転換手術に助力する弁護士役で出演時間も主演といって良いほど長く、本作を支持する人が票を投じやすい部門でもあります。


脚本賞(Original Screenplay)候補

『セプテンバー5』 Tim Fehlbaum, Moritz Binder
○『ANORA アノーラ』 ショーン・ベイカー
『ブルータリスト』 ブラディ・コーベット、モナ・ファスヴォルド
◎『リアル・ペイン~心の旅』 ジェシー・アイゼンバーグ
『サブスタンス』 コラリー・ファルジャ

ここも大本命は『ANORA アノーラ』のショーン・ベイカーと思いますが、波乱があるとすれば『リアル・ペイン~心の旅』のジェシー・アイゼンバーグユダヤ人いとこ同士のホロコースト史跡を巡る旅を描いたロードムービーですが、エピソードの作り方、セリフ、展開が良く、本作の支持者はここに票を入れやすい印象があります。


脚色賞(Adapted Screenplay)候補

『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』ジェイ・コックス、ジェームズ・マンゴールド
◎『教皇選挙』 ピーター・ストローハン
○『エミリア・ペレス』 ジャック・オディアール
『シンシン/SING SING』 クリント・ベントレー、グレッグ・クウェダー、クラレンス・マクリン、ジョン“Divine G”ウィットフィールド
『NICKEL BOYS(原題)』 Ramell Ross、Joslyn Barnes

作品賞を争う『ANORA アノーラ』、『ブルータリスト』とも脚本賞部門だということを考えると、『教皇選挙』はこの部門を押さえておきたいところではないでしょうか。逆にここを逃すと作品賞の可能性も大いに減少してしまう気がします。


撮影賞(Cinematography) 候補

◎『ブルータリスト』 Lol Crawle
デューン: 砂の惑星 パート2』 Greig Fraser
エミリア・ペレス』 Paul Guilhaume(写真)
『Maria(原題)』Ed Lachman
○『ノスフェラトゥ』 Jarin Blaschke

地味に作品賞とのつながりが深い撮影賞。
ということで、作品賞の方でも対抗視されている『ブルータリスト』を本命に。
対抗は『ノスフェラトゥ』。モノクロのホラー映像が絶賛され、前哨戦でも『ブルータリスト』に匹敵するかそれ以上とも言える位置に。

とにかく怖い伝説の吸血鬼ホラー『ノスフェラトゥ』の最新版は、恐怖映像のお手本のようで、圧巻。


編集賞(Film Editing)候補

○『ANORA アノーラ』 ショーン・ベイカー
『ブルータリスト』Dávid Jancsó
◎『教皇選挙』 ニック・エマーソン
エミリア・ペレス』 Juliette Welfling
ウィキッド ふたりの魔女』 Myron Kerstein

ここも作品賞とのつながりが強い部門ですが、今年度のノミネートはすべて作品賞にもノミネートされています。
『ブルータリスト』はセリフのイントネーションでAIを使用したことが問題視されるならば、この部門こそが如実に影響を受けそうです。
となれば作品の力を考えると、『ANORA アノーラ』と『教皇選挙』。
本命は『教皇選挙』の方と予想します。ローマ教皇選挙にまつわるミステリーということで編集の重要度が高そうで、作品賞よりも受賞の可能性は高いと考えます。


美術賞(Production Design)候補

▲『ブルータリスト』 ジュディ・ベッカー、Patricia Cuccia
教皇選挙』 Suzie Davies, Cynthia Sleiter
デューン: 砂の惑星 パート2』  Shane Vieau, Patrice Vermette
○『ノスフェラトゥ』 Craig Lathrop, Beatrice Brentnerova
◎『ウィキッド ふたりの魔女』 Nathan Crowley, Lee Sandales

デザイン系の部門では強そうな『ウィキッド ふたりの魔女』を本命に。
魔法使いの世界をCGに頼らずに生み出した美術の力に期待します。
ただ本作はシリーズの第一作ということで割り引かれて考える向きがあるかもしれず、そうなると技術系部門で不気味な『ノスフェラトゥ』、作品の力を考えて『ブルータリスト』の目もあるでしょうか。


衣装デザイン賞(Costume Design)候補

『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』アリアンヌ・フィリップス 
教皇選挙』 Lisy Christl
グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』Janty Yates
○『ノスフェラトゥ』 Linda Muir
◎『ウィキッド ふたりの魔女』 Paul Tazewell 

ここも美術賞と同じ『ウィキッド ふたりの魔女』 と『ノスフェラトゥ』の一騎打ちと見ます。前哨戦で優位な『ウィキッド ふたりの魔女』 を本命に。


メイクアップ&ヘアスタイリング賞(Makeup and Hairstyling)候補

『A Different Man(原題)』
エミリア・ペレス』
ノスフェラトゥ(Nosfeartu)』
◎『サブスタンス』
○『ウィキッド ふたりの魔女』

ヒロインに若さと美を取り戻す、という設定をリアルにするためにはメイクアップは不可欠でしょう。であれば『サブスタンス』が本命でしょう。対抗は『ウィキッド ふたりの魔女』。去年の『哀れなるものたち』のようにデザイン系の部門を総ナメする勢いがあれば。


録音賞(Sound)候補

◎『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』
○『デューン: 砂の惑星 パート2』
エミリア・ペレス』
ウィキッド ふたりの魔女』
『野生の島のロズ』 

ここは戦争モノ、音楽モノが強い印象がある部門です。前哨戦では『デューン: 砂の惑星 パート2』ですが前作ですでに受賞済で、シリーズの2作目ということで敬遠されることを考慮して、『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』を本命とします。


視覚効果賞(Visual Effects) 候補

『エイリアン: ロムルス
○『BETTER MAN/ベター・マン』
◎『デューン: 砂の惑星 パート2』
猿の惑星: キングダム』
ウィキッド ふたりの魔女』

ここもシリーズだとどうなのか未知数ですが、『BETTER MAN/ベター・マン』以外はすべてシリーズの作品。そのハンデがないのであれば素直に『デューン: 砂の惑星 パート2』を本命にします。前作よりさらにスケール感のアップした映像は視覚効果によるものも大きいので、再び評価される可能性は大きいです。対抗は猿の擬人化でもより低予算で製作された『BETTER MAN/ベター・マン』。


作曲賞(Original Score)候補

◎『ブルータリスト』
教皇選挙』
『野生の島のロズ』
○『エミリア・ペレス』
ウィキッド ふたりの魔女』

音楽系部門のみならず『チャレンジャーズ』が完全にシャットアウトされているのはなぜかはわかりませんが、それであれば前哨戦2番手の『ブルータリスト』を素直に評価。対抗は作品内でも音楽の重要度が高そうな『エミリア・ペレス』。


歌曲賞(Original Song)候補

◎“El Mal” from 『エミリア・ペレス』
“The Journey” from 『The Six Triple Eight(原題)』
○“Like A Bird” from 『Sing Sing(原題)』
“Mi Camino” from 『エミリア・ペレス』
“Never Too Late” from 『Elton John: Never Too Late(原題)』

昨年の『バービー』をはじめ、『ラ・ラ・ランド』、『スラムドッグ$ミリオネア』など、複数曲がノミネートされた作品の主題歌が受賞するパターンが多い印象です(例外もありますが)。となると作品賞にもノミネートされている“El Mal” from 『エミリア・ペレス』が本命です。前哨戦からも同作品内の票割れもなさそう。件のスキャンダルが嫌われるようであれば“Like A Bird” from 『Sing Sing(原題)』逆転の可能性も。


国際長編映画賞(International Feature)候補

◎『I’m Still Here(英題)』(ブラジル)
『ガール・ウィズ・ニードル』(デンマーク
○『エミリア・ペレス』(フランス)
『聖なるイチジクの種』(ドイツ)
『Flow』(ラトビア

作品賞にもノミネートされている『I’m Still Here(英題)』と『エミリア・ペレス』の一騎打ちでしょう。本来ならば最多ノミネートでもあり前哨戦でも勢いのある『エミリア・ペレス』が本命なのですが、やはりタイトル・ロールを演じた主演女優の差別的発言というのは看過できないのではないでしょうか。となると『I’m Still Here(英題)』が浮上してきます。ウォルター・サレス監督は1998年の『セントラル・ステーション』以来となるノミネートでかつブラジル作品の初受賞になるなどメモリアルとしても十分可能性は高いです。


長編アニメーション映画賞(Animated Feature)候補

○『Flow』
インサイド・ヘッド2』
『Memoir of a Snail(原題)』
ウォレスとグルミット 仕返しなんてコワくない!』
◎『野生の島のロズ』

ドリームワークス渾身の作品か、ラトビアの新鋭か。
本命は『野生の島のロズ』にします。こちらはすでに鑑賞済ですが、「野生のロボット」を現代風にアレンジし、AIと動物たちの共生というテーマに昇華しています。作品としてのクオリティーも高く、BOXOFFICEでも大ヒットと欠点らしい欠点がありません。『Flow』は国際長編映画賞とのWノミネートは強力ですが、日本のジブリ作品を除いて英語圏以外の作品がなかなか受賞していないだけにやや不利か。


短編アニメーション映画賞(Animated Short)候補

『Beautiful Men(原題)』
『In the Shadow of the Cypress(原題)』
『あめだま』
○『Wander to Wonder(原題)』
◎『Yuck!(原題)』 

短編アニメ映画の賞レース前哨戦とも言えるアニー賞を受賞している『Wander to Wonder(原題)』が強力ですが、本命は『Yuck!(原題)』。思春期の少年少女の成長を表現豊かに描いた部分が評価されそう。

 

長編ドキュメンタリー賞(Documentary Feature)

『Black Box Diaries』
○『ノー・アザー・ランド 故郷は他にない』
『Porcelain War(原題)』
『Soundtrack to a Coup d’Etat(原題)』
◎『Sugarcane(原題)』

『ノー・アザー・ランド 故郷は他にない』は鑑賞済ですが、イスラエルパレスチナ問題を追った作品をユダヤ系の多いアカデミー賞が正面から向き合うかは疑問です。
下馬評的には『Porcelain War(原題)』になるのですが、こちらはウクライナを描いている作品で受賞すれば3年連続ロシア・ウクライナ問題になるのでそれはさすがになさそうな気がします。本命は『Sugarcane(原題)』。カナダの先住民問題を追った作品です。


短編ドキュメンタリー賞(Documentary Short)候補

『Death by Numbers(原題)』
◎『I Am Ready, Warden(原題)』
『Incident(原題)』
▲『Instruments of a Beating Heart(原題)』
○『The Only Girl in the Orchestra(原題)』

本命は死刑制度を取り上げた『I Am Ready, Warden(原題)』。死刑宣告を受けた男が被害者遺族と向き合うためにした決断を描く作品だそうです。
対抗は『The Only Girl in the Orchestra(原題)』。ニューヨーク・フィルハーモニー楽団初の女性団員の姿を捉えており、ウーマン・エンパワメントというテーマを考えると受賞してもおかしくありません。
3番手に予想した『Instruments of a Beating Heart(原題)』は日本の作品。小学生が楽器のオーディションに挑む様子を追った作品で、他の作品と比べてほのぼのしているのがかえって好印象になる可能性も。


短編実写映画賞(Live Action Short)候補

『A Lien(原題)』
『Anuja(原題)』
○『I’m Not a Robot(原題)』
『The Last Ranger(原題)』
◎『The Man Who Could Not Remain Silent(原題)』

本命は『The Man Who Could Not Remain Silent(原題)』。
イスラム教徒によるクロアチア人虐殺事件を描いた作品で、カンヌ映画祭の短編映画部門のパルム・ドールを受賞しているというのも強力な後押し。
対抗は『I’m Not a Robot(原題)』。
他の候補が社会派な作品が多い中で、パソコンにどうしても認識されない自分が本当に人間なのか疑問に持つという設定の妙が受ければ。

というわけで滑り込みでなんとか全部門予想してみました。
今年はNHK BSで授賞式が見られるので、楽しみですね。

MOVIE OF THE YEAR 2024 外国映画編

まただいぶ日が空いてしまいましたが、MOVIE OF THE YEAR 2024 外国映画編をお送りします。

ベスト10形式ですが、これまた観たタイミング、評価のタイミングなどでいくらでも変動するものだとは思っております。なので順番自体はあまり気に留めず見ていただくとよろしいかと。

それでは行きましょう!


10位:ぼくとパパ、約束の週末

監督:マルク・ローテムント
出演:    フロリアン・ダーヴィト・フィッツ、セシリオ・アンドレセン、アイリン・テツェル、他

自閉症と診断されたジェイソンを愛しつつも手を焼いていた父親ミルコ。あるときクラスメイトから好きなサッカーチームを聞かれたジェイソンは、自分がどのチームを応援するか決めるため、国内56チーム全てのスタジアムに行って、自分の目で見て判断したいと言い出す。ミルコは毎週末にミルコを連れて観戦に行くことを約束するが・・・。

本作の主人公は自閉症(診断名としては自閉症スペクトラム障害)ということで、映画全編を通して、自分のルーティーンを頑なに守る、他人に触れられるのを極端に嫌うなど、日常生活において支障となっている部分が描かれていて、自閉症児を持つ親や家族の気苦労が伝わってきます。ただ、その"こだわり"が、自分の好きなサッカーチームを決めるための父子2人の週末旅行につながっていきます。そしてこれが実話ベースだというのも衝撃でした。

基本は父子のロードムービーといった雰囲気もあるのですが、本作は変に夢物語に昇華しようとせず、自閉症というものを正しく伝えることにウェイトが置かれているというのも好印象です。それでいて、その過程でジェイソン自身も変化していくのが伝わってきてます。

そしてドイツのサッカーチームのスタジアムが多く出てくるので、サッカーファンとしても嬉しいものがあります。家族がそれぞれ応援しているチームが違っていて、両親とも自分がファンのチームの遠征のときだけジェイソンにも色目を使っているあたりもまた微笑ましい作品でした。

自閉症を作品の軸に据えつつもドラマとして、エンターテインメントとして完成度の高い作品だったと思います。自閉症を扱った作品としては、スウェーデンの「シンプル・シモン」もオススメです。

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9位:フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン

監督:グレッグ・バーランティ
出演:スカーレット・ヨハンソンチャニング・テイタムウディ・ハレルソン、他

アポロ計画がスタートして8年、国民の関心も薄れてきた頃に、PRマーケティングのエキスパートとして、ケリーがNASAに派遣される。彼女の大胆なPR戦略が功を奏し、アポロ11号の月面着陸計画は世界中の注目の的となる。政府関係者のモーは、計画が失敗した場合の"保険"として、ケリーにフェイク映像を作成するように命じるが・・・。

この嘘かホントか分からないラインの設定がまず見事で、それだけでも十分に面白い作品。
主演のスカーレット・ヨハンソンがいかにもなPRマーケターだし、対するチャニング・テイタムも堅物なNASAのスタッフというキャラクターが対照的になっています。

それでいて宇宙開発においてロシアに一歩先を行かれたアメリカの焦りなんかも垣間見えて少しシニカルなスパイスを加えつつも基本はコメディーベースになっているというのも作品に入りやすくなっています。
スカーレット・ヨハンソンの60年代ファッションを始め、当時の美術も見どころです。

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8位:フォールガイ

監督:デヴィッド・リーチ
出演:ライアン・ゴズリングエミリー・ブラント、ウィンストン・デューク、アーロン・テイラー=ジョンソン、他

撮影中のケガでスタントマンを引退していたコルトだったが、元カノのジョディの監督デビュー作でオファーを受けてスタントマンに復帰することになる。ところが映画の主演俳優のトムが行方不明になっていたため撮影はストップしていた。ジョディの頼みもあってコルトはトムの捜索に乗り出すことになるが・・・。

一人のスタントマンが失踪した主演俳優の捜索の過程で、ハリウッドの陰謀に巻き込まれていくという構成になっていて、物語の主たる軸がミステリーのようになっているのがまず意外で驚きでした。それでいて合間合間にド派手なアクションシーンもしっかり盛り込まれているのでよりエンターテインメント性の高い作品になっていると言えます。
また主人公がスタントマンという設定自体がうまく伏線にもなっていて、気楽に観られる作品でその実は深みもあるという点で良くできています。
小ネタやエピソード1つとっても面白く、個人的には主人公が元カノとシーンの打ち合わせをしていると見せかけて当時の色恋沙汰の話をしているところなんかは大ヒットでした。
今回挙げた10本の中で万人にオススメできるという点では本作が一番かもしれません。

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7位:落下の解剖学

監督:ジュスティーヌ・トリエ
出演:ザンドラ・ヒュラー、スワン・アルロー、ミロ・マシャド・グラネール、他

フランスの雪深い人里離れた山荘で一人の男性の死体が発見される。発見したのは視覚障がいのある息子ダニエルだった。当初は事故死と思われていたが、不自然な点が見つかり始め、ついには妻でベストセラー作家のサンドラが容疑者として起訴されるが・・・。

カンヌ映画祭パルム・ドール(最高賞)を受賞し、アカデミー賞作品賞にもノミネートされて話題になりました。
雪深い山荘でインタビューを受ける女性、その背後ではなぜか爆音で音楽が流れている・・・。なんとも意味ありげな冒頭からほどなく一人の男性の死体が見つかるという導入からして素晴らしかったです。
その後は事件の現場検証と起訴された妻サンドラの法廷でのやり取りが中心になるのですが、この裁判の過程で徐々に事実が明らかになっていく展開が観ているものを引き込みます。このあたり主演のサンドラの演技は各方面で絶賛されていて言わずもがななのですが、息子役のダニエル、そしてパルムドックを受賞した愛犬スパークの演技も見どころです。
それでいて家族のドラマ、人間の選択のドラマにうまく落とし込んでいるのも見事でした。鑑賞した直後よりもその後いろいろ咀嚼して考えて評価が高まっていったタイプの作品です。考察系映画が好きな方にはオススメです。

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6位:エイリアン ロムルス

監督:フェデ・アルバレス
出演:ケイリー・スピーニー、デヴィッド・ジョンソン、アーチー・ルノー、イザベラ・メルセド、他

孤児のレインは弟のアンディとともに重労働に明け暮れる日々で未来に希望を見出せずにいた。ある日、かつての恋人タイラーからある計画に誘われ、宇宙ステーション・ロムルスに向かう。しかしそこで待ち受けていたのは人間の体内で異常な速さで成長し進化するエイリアンだった・・・。

SFホラーの金字塔「エイリアン」の最新作。時系列的にはシリーズの1と2の間に位置づけられています。本作の監督フェデ・アルバレスと言えば「ドント・ブリーズ」が話題作ですが、本作でも若者の無軌道さによって未曾有の恐怖に巻き込まれるという設定が共通しています。
しかし本筋はしっかり「エイリアン」で、宇宙船内でのサバイバルホラーという様相はまさに「1」のそれですし、「エイリアン」ファンならば嬉しいあのキャラも登場します。そして終盤はアクション要素も強くなっていって、これは「2」を彷彿とさせます。
しっかりオマージュを捧げつつも、アンドロイドの設定や扱いが現代風になっていて、必要なところはしっかりアップグレードされている印象でした。
こういう作品はどうしても後付け感が強くなって乗り切れないことが多いのですが、本作は偉大すぎるシリーズの冠に恥じないクオリティーの作品になっていると思います。

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5位:破墓/パミョ

監督:チャン・ジェヒョン
出演:チェ・ミンシク、キム・ゴウン、ユ・ヘジン、イ・ドヒョン

風水師のサンドクと葬儀屋のヨングンは墓の改葬を生業としていた。ある日、墓の改葬の依頼主から、家族が代々謎の病気に悩まされていることを聞いた2人は、韓国のシャーマン"巫堂(ムーダン)"のファリムとその弟子ポンギルに要請し、改葬とお祓いを同時に行うことにするが、掘り出した墓には想像を絶する因縁があり・・・。

ポン・ジュノ監督の「パラサイト/半地下の家族」が世界的に注目されてこともありますが、それよりも前に韓国ホラーが世を席巻したことがありまして、アン・ヒョンギ監督の「ボイス」や「コックリさん」なんかが代表だったのですが、その流れを組んでナ・ホンジン監督の「哭声/コクソン」が出色の出来でした。田舎の村で起きた一家惨殺事件の背景に、キリスト教、祈祷、都市伝説が絶妙に絡み合った快作なのですが、本作はそこにさらに風水やイタコの要素も加わって、かつエンターテインメント性も高まっているのだから、これはもう韓国ホラー界のアベンジャーズと言われても過言ではありません。

まず何と言っても改葬とお祓いの儀式がたまりませんよね。
風水、祈祷の合わせ技でこのシーンを見るだけでも本作を見る甲斐があります。
終盤にかけて日本統治時代の都市伝説も相まって、さらにはだいぶトンデモ展開にはなっていきますがそこは御愛嬌。「破墓/パミョ」を見に行くことを「パミョる」と表現することすら流行ると信じて疑わなかった自分ですが、残念ながらそこまで話題にはならなかったようで、観ていない方も多いかと思われますので、ぜひご覧ください。この文章書きながら公式ページも見てみたんですが、小ネタや様々な解説も充実しているので、鑑賞後にはぜひ公式ページも見てみてください。

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4位:ロボット・ドリームズ

監督:パブロ・ベルヘル

ニューヨークのマンハッタンで孤独に暮らすドッグ。あるときテレビのCMで友だちロボットのことを知り、早速購入する。それ以来、どこへ行くにもロボットと一緒のドッグはこれまでにはない幸せな日々を過ごしていた。夏の終わり、ドッグはロボットとビーチで海水浴を楽しむが、ロボットが錆びて動けなくなってしまい、ビーチもシーズンオフで閉鎖されてしまう・・・。

スペインのパブロ・ベルヘル監督による初のアニメーション映画。
元々がグラフィック・ノベルだったとのことで、優しい線画のような印象を受けるのはオリジナルの影響でしょう。また、この世界では人間は全て動物化されているので、どんな場面でもどことなくユーモラスさを感じさせます。

ただその絵柄とは対象的に設定が実にリアルで、主人公のドッグは都会で生活しながらも孤独で、電気もつけていない部屋でなんとなくテレビを見ながらいつもの冷凍食品をチンして食べるだけの日々が映し出されます。
そんなドッグの転機となるのが、CMで見た友だちロボット。
ロボットを購入してからドッグの生活は180度変換し、自宅にこもりっきりの生活から、外へ出て人生を謳歌し始めます。ロボットと一緒に。

しかしそんな幸せの日々も、夏の終わりの海水浴で、ロボットが錆びて動けなくなってしまい、やむを得ずビーチに置き去りにしてしまったことで終わりを告げます。

ここからはロボットがドッグの元に再び戻って楽しい生活を取り戻す、という夢(まさにロボット・ドリームズ)がリフレインされていきます。本来ロボットは夢を見ない存在ではあるのですが、本作のロボットにそうした感情が芽生えていることを示しているのかもしれません。ロボットは人間以上に感情豊かでありながらもロボットなので表情は変わらないというのもなんだか切ないです。

このように、動物とロボットに置き換えていはいますが、孤独、友情、別れなど人ならば誰もが経験するであろうライフイベントを巧みに描いているのが本作の優れている点でしょう。セリフもナレーションもありませんがそれを感じさせないレベルでメッセージ性のある普遍の物語になっています。

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3位:哀れなるものたち

監督:ヨルゴス・ランティモス
出演:エマ・ストーンマーク・ラファロウィレム・デフォー、ラミー・ユセフ、他

偏屈だが天才的な外科医ゴドウィン・バクスターは、若い女性ベラの死体に赤ん坊の脳を移植して蘇生させる。ベラは急速に成長していき次第に自我に目覚めていく。そしてある日、弁護士のダンカンとともに未知なる世界を求めて旅立っていくが・・・。

アラスター・グレイの同名小説を「女王陛下のお気に入り」のヨルゴス・ランティモス監督により映画化された本作ですが、アカデミー賞では主演女優賞、美術賞、衣装デザイン賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞の4部門を受賞しています。
まず目を引くのは独特な世界観を演出するのに一役買っている美術でしょう。
現代とも過去とも、現実ともファンタジーともとれないような世界観になっていて、それだけで観るものの目を釘付けにします。

その世界観以上にぶっ飛んでいるのが設定と物語で、自殺を図った妊婦の胎児の脳をその妊婦に移植して蘇生させた存在がベラで、言わば体は大人、頭脳は子どもの逆コナン状態になっています。その彼女は普通の人の何倍もの速さで成長していくのですが、好奇心、性への目覚め、そして自我の目覚めとともに、内から外へ、外界へと目を向けてまだ見ぬ世界へと足を運ぶことになります。それでいて子ども特有のピュアさ、イノセンスさみたいなものも持ち合わせているのですが、その何とも難しいキャラをエマ・ストーンが完璧に演じきっていて、彼女を観るだけでも十分に価値のある作品です。

原作ではさらに女性の社会進出の問題、医療現場の問題なども描いていて、深みでいくと映画以上なのですが、映画は映画としてよくまとまっているし限られた上映時間の中でうまく収めた印象もあるので、これはこれとして評価できる作品です。原作はそれぞれの人物の手記という形で書かれているのも面白いので、映画をご覧になった方にはぜひ原作も読んでいただきたいところです。

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2位:花嫁はどこへ?

監督:キラン・ラオ 
出演:ニターンシー・ゴーエル 、プラティバー・ランター、スパルシュ・シュリーワースタウ、他

結婚式を終えた花婿のディーパクは、地元に帰るために乗っていた電車を降りる際に、別の花嫁と取り違えてしまう。間違えて連れてこられてしまった女性はジャヤという名前で、なにか訳ありの雰囲気が気になりながらも身元が分かるまでディーパクの家で預かることになる。一方、ディーパクの本当の花嫁プールは、ディーパクの住所も連絡先も分からず、降りた駅で途方に暮れていたのだが・・・。

インド映画もまた「ムトゥ 踊るマハラジャ」などの歌って踊っての長尺コテコテエンタメの時代、「きっと、うまくいく」のようなドラマ性の高い作品、そして一大旋風となった「RRR」のようなド派手エンタメ作品と、バジェットもスケールもインドらしい進化を遂げている印象ですが、本作はそんな流れとは別に、インドの社会世相を映し出す作品になっています。

インドでは結婚の際には女性側の家が嫁入り道具として高価な金品や自動車などを嫁に持たせて、結婚式などの費用も女性側の家が持つのが当たり前という社会です(現代だと都市部などではそのような風習はなくなっているかもしれませんが)。

そんな中、結婚式を終えて地元へ帰るディーパクは、自分の花嫁を取り違えてしまうのですが、花嫁はみんなベールを被っていて顔が見えず、さらには流行りなのか、それしかないのか、ベールの色やデザインまでそっくりなので、ディーパクが悪いとは一概に言えません。かくして取り違えられてしまった2人の花嫁、ジャヤとプールですが、この2人が実に対照的。ジャヤはそもそも結婚に前向きではなく独り立ちしたいと考えているのに対し、ディーパクの本当の花嫁のプールは、箱入り娘的なキャラクターでディーパクと結婚することに何の疑問を抱くでもなく、言ってしまえばこれまでのインドの女性のステレオタイプといったところでしょうか。この2人がそれぞれの状況で変化していく様が、コミカルかつもドラマチックに描かれているのが本作の魅力となっています。
最後にXでも書きましたし1つネタバレになってしまのですが言わせてください。
「お前がカッコいいのかよ!!!」

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1位:ソウルメイト

監督:ミン・ヨングン
出演:キム・ダミ、チョン・ソニ、ピョン・ウソク、チャン・ヘジン、他

ソウルから済州島に引っ越してきたミソは、小学校の転校初日から学校を抜け出す。そんな自由奔放な姿に惹かれたハウンは彼女を追いかけていく。この1件で親友となった二人は、性格や考え方、価値観、育ってきた環境は正反対だったが、唯一、絵を描くことが好きというのが共通していた。中学、高校とずっと一緒だった二人だが、ハウンにジヌという恋人ができ、ミソもソウルに行くことを決め・・・。

2016年の中国映画「ソウルメイト/七月と安生」の韓国リメイク作。
済州島、ソウルを舞台に、2人の少女/女性の友情を描いた作品です。

前半は2人の少女ミソとハウンのジュヴナイル友情モノとなっています。
この2人が実に対照的で、ミソは家庭環境に恵まれず半ば厄介払いの形で済州島に引っ越してきます。性格は自由奔放で、周りの目など気にせず我が道を行くタイプです。一方のハウンは両親に愛されて育ち、優しい性格ながらも引っ込み思案なところがあります。
この正反対な二人がお互いをうまく補完しつつ、自分とは違うところに憧れつつといった関係性でいるのがなんとも微笑ましいです。

この関係が、ハウンに恋人ができることで微妙に変化していきます。
この頃と前後してミソも済州島を離れソウルに行くことを決めます。

ハウンは地元の大学に通い、教師になって地元で働くという現実的で無難な生き方をしようとするのに対し、ミソは世界中を旅して回りたいという夢を実現する生き方をしようとしているのもまた対照的で、両者がお互いが目の前にはいないことでより相手への憧れが増幅しているような印象になっています。

その後のハウンとミソはどうなるのか、という展開でドラマが進行していき、この2人の関わり方、シンクロニシティが観ているものを物語に引き込んでくれます。
元ネタの「ソウルメイト/七月と安生」もあわせて鑑賞しましたが、本作の方が主演2人のキャストの瑞々しさ、そして絵画を中心的なモチーフにしたことで、映画的要素も膨らんだように思いますので、素晴らしいリメイクだったのではないでしょうか。

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以上、ベスト10として10本ピックアップしましたが、惜しくも選外となった作品について、2024年の総評とともに以下に記載します。

2024年は韓国映画の勢いが凄かった印象です。ベスト10内の2本はもちろんですが、    イ・ビョンホン主演の「コンクリートユートピアは、奇跡的に大災害から逃れた1棟のマンションを舞台に繰り広げられるサバイバル・サスペンスとなっていて、災害という特異な状況における人間関係の変容の恐ろしさを描いています。
「破墓/パミョ」にも出演しているユ・ヘジン主演の「マイ・スイート・ハニー」では冴えない中年男がシングルマザーと恋に落ちるラブコメディですが、いかにも映画的なロマンチックさとは一線を画す作りでそれがかえって印象的でした。
ポン・ジュノ監督の助監督だったユ・ジェソンの長編デビュー作の「スリープ」は、夫の夢遊病のような症状を皮切りに次々と起こる恐怖を描いています。
「密輸1970」は、1970年代の韓国を舞台に、巨額の密輸ビジネスに一役買ったのがなんと海女さんたち!という衝撃の設定のクライム・サスペンスとなっていました。
いずれも奇想天外な設定というのが共通点でしょうか。ちなみに2024年の韓国映画ではおそらく一二を争うであろう「ソウルの春」は見逃してしまっているのですが、それでもこの品揃えです。

ここ数年のアカデミー賞関連の作品もクオリティーの高い作品が揃っています。
「パストライブス/再会」は韓国系の男女の恋の行方を少年期、青年期、大人と12年ごとに描いているのですが、構図や導線などの使い方がすばらしく、映像で表現することの利点を活かしきった技巧的な作品だったと思います。
サイドウェイ」のアレクサンダー・ペイン監督、ポール・ジアマッティ主演で贈る「ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリデイ」は、全寮制の男子高校で、当直の教師と料理長の女性職員、そして家庭の事情で学校に残ることになった男子生徒の3者3様の姿と交流を描いています。
「関心領域」は、アウシュヴィッツ強制収容所の隣にある所長家族の暮らしを描き、漏れ聞こえてくる音声のみでホロコーストを表現した異色作となっています。

ドキュメンタリー映画では、北朝鮮からの脱出、いわゆる"脱北"を試みる家族とそのエージェントに密着した「ビヨンド・ユートピア 脱北」が衝撃でした。
ロシア軍が眼前に迫ってきているウクライナマリウポリの緊迫する状況を映し出したマリウポリ20日間」は、アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞している問題作です。
「私は憎まない」では、ガザ地区出身でイスラエルで医師をするアブラエーシュ博士とその家族を捉えています。いずれも政治色・国際問題を捉えた作品で、撮影機材の小型化、今やスマートフォンですら撮影可能になったということで、ドキュメンタリーの幅も格段に広がったのではないでしょうか。
一方、日系人ピアニスト・フジコ・ヘミングの晩年を映し出した「恋するピアニスト フジコ・ヘミングは音楽はもちろんのこと彼女自身の生き方にもクローズアップしていました。

大作の続編・関連作もまた好調でした。
「マッドマックス:フュリオサ」では、「マッドマックス 怒りのデス・ロード」でシャリーズ・セロンが演じたフュリオサ役にアニャ・テイラー=ジョイが扮し、フュリオサの出生から壮絶なサバイバルを経て愛するものを奪われた復讐に身を焦がしていく姿を描いていて、シリーズあの世界観も健在でした。
バッドボーイズ RIDE OR DIE」はウィル・スミスとマーティン・ローレンスの2人の型破りな刑事を主人公とするシリーズの第4弾ですが、バディ・アクションとしてだけでなく家族や友情のドラマとして一皮むけた印象があります。
ティム・バートン監督が自身の出世作(出世前作?)「ビートルジュース」の36年ぶりとなる続編を映画化したビートルジュース ビートルジュースは、すっかり大人になったリディアが娘のアストリッドを救うために、禁断のビートルジュースを呼び出すという当時の悪ノリそのまま、いやむしろ倍増しているかのような悪趣味エンターテインメントな作品に仕上がっています。
トム・ハーディ扮するエディが地球外生命体に寄生されヴェノムとして暗躍する姿を描いた「ヴェノム」シリーズの第3弾、「ヴェノム:ザ・ラスト・ダンス」は世界から追われる身となったエディたちの運命を描いていて、これまで以上に数多くの地球外生命体"シンビオート"が登場するのも嬉しいですが、VFXアクションはもちろんのこと感動的な要素もある作品になっています。
こちらも前作より24年ぶりとなるグラディエーターⅡ 英雄を呼ぶ声」では、ローマ帝国に村を滅ぼされ家族を殺され、自身も奴隷となった男が剣闘士"グラディエーター"として戦い抜き、壮絶な復讐へと身を投じる姿を描いています。

名匠の新作もいくつか。ウディ・アレン監督の新作サン・セバスチャンへ、ようこそ」サン・セバスチャン映画祭の開催地で、映画関係者の妻に同行した主人公の独りよがりな恋模様を描いています。
アキ・カウリスマキ監督の新作「枯れ葉」は、孤独なアル中の労働者の男が、スーパーをクビになった女性と恋におちる様を描いていて、監督らしい独特のオフビートな雰囲気にあふれています。
マイケル・マン監督の新作フェラーリは、フェラーリ創始者エンツォ・フェラーリの知られざるエピソードを描いています。

アニメ作品は個人的には低調だった気がします。
しいて上げるならインサイド・ヘッド2」でしょうか。前作からちょっと大人になったライリーの脳内のそれぞれの感情たちの巻き起こす騒動を描いていて、大傑作だった前作の良いテイストを残しつつしっかりとした続編になっている印象でした。

ホラー界では、落ち目の司会者が起死回生を狙って企画したのが生放送番組に悪魔を召喚するという「悪魔と夜ふかし」はなかなかのインパクトでした。黒ゲロも吐きます。
ホラー映画製造工場とでも言わんばかりにちょっと手を変えちょっと品を変えな新作をリリースし続けるブラムハウス作品では、少女が自分のイマジナリーフレンドによって引き込まれる恐怖を描いた「イマジナリー」が好印象でした。

異色作・問題作では、まずはリュック・ベッソン監督の「DOGMAN ドッグマン」。犬と心を通わせることができるという女装男ダグラスの壮絶な生い立ちを描いています。主演のケイレブ・ランドリー・ジョーンズが「ニトラム/NITRAM」に続いて圧巻です。
山田太一の小説「異人たちとの夏」を舞台をイギリスに置き換えた「異人たち」では主人公の孤独と家族への思いが生んだドラマを映し出しています。
トッド・ヘインズ監督の「メイ・ディセンバー ゆれる真実」は、実際の事件をヒントに、少年相手に不貞行為をした後にその少年と結婚したことで物議を醸した女性グレイシーと、彼女を題材とした映画に主演することになり、自らグレイシーに密着取材をする女優のエリザベスの姿を描いています。ジュリアン・ムーアナタリー・ポートマンの演技合戦が見応え十分です。
エクス・マキナ」「MEN 同じ顔の男たち」のアレックス・ガーランド監督による「シビル・ウォー アメリカ最後の日」ではアメリカが2つに分断され各地で市街戦が繰り広げられている様子を捉えようと奮闘するカメラマンたちのクルーを描いていますが、臨場感や緊迫感もさることながら、誰が味方で誰が敵かもわからないような環境に放り込まれる恐怖が全面に現れています。
「動物界」は動物に変異してしまう謎の病気が蔓延したフランスを舞台に、"新生物"として隔離されてしまった妻を探す主人公と、彼の息子で動物化の兆候が現れ始めた息子の姿を描いた異色サスペンスになっています。
この項の最後にドイツのファイト・ヘルマー監督がジョージアのロープウェイの添乗員をしている2人の女性の交流を主要なセリフを排して描いた「ゴンドラ」を上げておきます。

最後に、新時代を感じさせる作品群としては、「ヨーロッパ新世紀」では、ルーマニアの田舎町を舞台に、移民問題を複雑な入れ子構造で描いていて、ルーマニア語ハンガリー語、フランス語、ドイツ語、英語が飛び交う多言語映画(字幕も色分けされていました)というのも現代的な作品でした。
「ありふれた教室」では、正義感あふれる新任教師が学校内での盗難事件を独自に調査し始めたことで巻き起こる騒動を描いています。教育現場の問題、個人情報やプライバシーの問題などが色濃く映し出されています。
「ふたごのユーとミー 忘れられない夏」は、幼い頃から何でもシェアしてきた双子のユーとミーが、初めてシェアできない"初恋"に戸惑う姿を描いたタイ映画です。主演の    ティティヤー・ジラポーンシンが一人二役で双子を演じ分けているのも話題になりました。
「#スージー・サーチは、ポッドキャストで未解決事件の推理・考察をするも全く人気のなかったスージーが、人気者のクラスメイトの失踪事件を解決してしまったことで一気に話題になる・・・といういかにも現代的なテーマをうまく取り込んだミステリーになっています。
スラムドッグ$ミリオネア」などの出演で知られるデヴ・パテルか初監督&主演をこなした「モンキーマン」は地下格闘技で日銭を稼ぐ主人公の復讐劇を描いていますが、初監督作とは思えないほどの壮絶で完成度の高いアクションになっています。
最後に、パキスタン映画「ジョイランド わたしの願い」を紹介します。パキスタンの地方都市の大家族でバックダンサーの仕事に就いたことを言えずにいる夫のハイダルと、ハイダルが就職したことで生きがいのメイクの仕事を辞めるように家族から言われる妻のムムターズを中心に、依然として残る家父長制の問題と、そんな社会で描かれる多様性の芽生えはまさに新時代を迎えようとしている分水嶺となっているのではないでしょうか?


以上、MOVIE OF THE YEAR 2024 外国映画編でした。
更新頻度激減してしまいましたが、またポツポツ更新をしていく予定でおりますので、今後ともよろしくお願いします。