映画最高!(Cinema + Psycho)

映画に関するあれやこれやについて綴っていきます。映画の感想をメインに、映画にまつわるエピソード、そしてワンポイント心理学を紹介していきたいと思います。

第96回アカデミー賞発表! ―予想結果と雑感―

 

現地時間の3月10日(日)に第96回アカデミー賞が発表されました。
自分の予想結果とともに振り返っていきたいと思います。
記載は発表順に揃えました。受賞作は赤色、自分の予想が的中している場合は太字で示しています。

 

 

助演女優賞

エミリー・ブラント 『オッペンハイマー
ダニエル・ブルックス 『カラーパープル
ジョディ・フォスター  『ナイアド ~その決意は海を越える~』
アメリカ・フェレラ 『バービー』
◎ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ 『The Holdovers(原題)』

 

ここは大本命『The Holdovers(原題)』のダヴァイン・ジョイ・ランドルフが受賞しました。
前哨戦での圧倒的な強さ、ベトナム戦争で息子を亡くした母親という役どころ、実質3人の主演のうちの1人という点と死角がなかったというところでしょうか。
邦題も「ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ」と決まったようで、アレクサンダー・ペイン監督作品は「ダウンサイズ」以来となるので楽しみにしたいと思います。

ダウンサイズ (字幕版)

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  • マット デーモン
Amazon

 

短編アニメーション賞

◎『Letter to A Pig(原題)』
○『Ninety - Five Senses(原題)』
『Our Uniform(原題)』
『Pachyderme(原題)』
『War Is Over! Inspired by The Music of John & Yoko』

 

ここは、ジョン・レノンオノ・ヨーコの「Happy Xmas (War Is Over)」にインスパイアされて製作した『War Is Over! Inspired by The Music of John & Yoko』が受賞となりました。戦地の敵味方同士が、鳩にチェスの次の手を託して交流していく様を描いているということで、アニメーションの技術的な面よりも作品のテーマ性の方を評価されたという感じでしょうか。

 


長編アニメーション映画賞

『マイ・エレメント』
○『スパイダーマン アクロス・ザ・スパイダーバース』
『ニモーナ』
『Robot Dreams(原題)』
◎『君たちはどう生きるか

 

君たちはどう生きるか』が受賞しました!
宮崎駿監督は「千と千尋の神隠し」以来の2度目となる受賞です。
日本では公開まで映画の内容についての情報がかなり抑えられていたこともありますし、過去のエンターテインメント性の高い作品群と比べるとどうしてもスケールダウン感が否めないかと思ってしまっていたのですが、海外での評判はまた異なった視点からのものもあったのでしょう。

 


脚本賞

サミー・バーチ&アレックス・メカニク 『May December(原題)』
○デイヴィッド・ヘミンソン 『The Holdovers(原題)』
ブラッドリー・クーパージョシュ・シンガー 『マエストロ:その音楽と愛と』
セリーヌ・ソン 『パスト ライブス/再会』
◎ジュスティーヌ・トリエ&アルチュール・アラリ 『落下の解剖学』

 

本命予想の『落下の解剖学』が受賞しました。
夫の不可解な転落死をきっかけにした妻の裁判で夫婦の関係や妻の嗜好などが明らかになっていき、事件の真相の鍵を握る盲目の息子の心が揺れ動いていく・・・という作品ですが、大半が法廷での舌戦という会話劇となっているので、評価されやすいのはやはりこの部門かと思っていましたがその通りになりましたね。
ちなみにフランス映画がこの部門を受賞したのは1966年の「男と女」以来だそうで、この映画もカンヌ映画祭パルム・ドール(最高賞)を受賞しています。


脚色賞

○『オッペンハイマー
『関心領域』
『バービー』
『哀れなるものたち』
◎『American Fiction(原題)』 

 

ここは作品賞はじめ最多部門ノミネートの『オッペンハイマー』を抑えて、『American Fiction(原題)』が受賞となりました。
売れない黒人作家が逆ギレ気味にコンプライアンス完全無視の小説を書いたらそれが思いの外話題になって・・・というプロットだけで明らかに面白いと思える作品ですからね。
脚本賞、脚色賞の作品は時として作品賞受賞作品よりも"面白い"と思うことがありますので、本作のようにウィットとアイロニーに富んだ作品が受賞するというのも大いにうなずけます。
現在Amazon Prime Videoで鑑賞できますので、興味のある方はぜひ。

 


メイクアップ&ヘアスタイリング賞

オッペンハイマー
○『マエストロ:その音楽と愛と』
『Golda(原題)』
◎『哀れなるものたち』
『雪山の絆』

 

ここも本命の『哀れなるものたち』が受賞しました。
この部門とこのあとに発表される美術賞、衣装デザイン賞はセットで受賞することも多く関連の強い部門ですが、その中でも本作が一番受賞に近いと思ったのがこの部門です。
『マエストロ:その音楽と愛と』や『オッペンハイマー』は実在の人物に近づけるメイクアップということで過去を見ても受賞しやすい傾向があるのですが、それを抑えての受賞となりました。

『哀れなるものたち』については自分のブログで感想を書いていますので、興味のある方は、以下のリンク先の記事をご覧ください。

sputnik0107.hatenablog.jp

 


美術賞

オッペンハイマー
『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
『ナポレオン』
◎『バービー』
○『哀れなるものたち』

 

ここも『哀れなるものたち』が受賞しました。
公式サイトにもプロダクション・デザインの解説動画があるのですが、キャストの誰もがあの独特の世界に入り込めた要因として美術の素晴らしさを上げていたので、受賞も大いに納得できます。
『バービー』もあの世界観を構築していて素晴らしいと思ったのですが、結果的には相手が悪かったということでしょうか。


衣裳デザイン賞

オッペンハイマー
『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
『ナポレオン』
◎『バービー』
○『哀れなるものたち』

 

ここも『バービー』と『哀れなるものたち』の一騎打ち構図で、『哀れなるものたち』が受賞しました。
『バービー』の衣装はバラエティー豊かで、この美術系の3部門では最も受賞に近いと思っていたのですが、受賞を逃してしまいました。
『哀れなるものたち』もベラの個性的なドレスが目を惹くので受賞は妥当かもしれませんが、やはりアカデミー賞としての作品評価で『バービー』がやや軽視されてしまった部分はあるのかもしれませんね。


国際長編映画

『The Teachers' Lounge』(ドイツ)
○『Io Capitano』(イタリア)
『PERFECT DAYS』(日本)
『雪山の絆』(スペイン)
◎『関心領域』(イギリス) 

 

ここは本命『関心領域』が受賞となりました。やはり候補作の中で唯一作品賞にもノミネートされているというのも強かったですね。
アウシュヴィッツ強制収容所の隣で幸せに暮らす所長の家族という壁を隔てた2つのあまりにも対照的な日々を描くというのが、数多く製作されているホロコーストモノにおいても異色の存在と言えるでしょう。日本の映画館でも予告が流れ始めていますので公開が楽しみです。
『PERFECT DAYS』は残念でしたが、こちらも良い映画ですのでぜひ。


助演男優賞

スターリング・K・ブラウン 『American Fiction(原題)』
ロバート・デ・ニーロ 『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
◎ロバート・ダウニー・ジュニア 『オッペンハイマー
ライアン・ゴズリング 『バービー』
マーク・ラファロ 『哀れなるものたち』

 

ここも本命の『オッペンハイマー』のロバート・ダウニー・ジュニアが受賞しました。
こちらも実在の人物を演じていて、しかも主人公と対立する役どころとして非常に重要なものであること、そしてスキャンダルによるキャリアの低迷からカムバックしたという部分なども考えて盤石の受賞だったのかもしれません。
ライアン・ゴズリングも素晴らしかったと思うのですが、やはり『バービー』には逆風が吹いてしまっていたのかもしれません。


視覚効果賞

○『ザ・クリエイター/創造者 』
ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』
◎『ゴジラ-1.0』
ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』
『ナポレオン』

 

ゴジラ-1.0』!おめでとうございます!
プレゼンターのアーノルド・シュワルツェネッガーダニー・デヴィートの「ツインズ」コンビによって「ゴジラ!」と言われた瞬間の会場の盛り上がりはすごいものがありました。
予算規模的にはハリウッドの作品には遠く及ばないものながら極めてクオリティーの高いVFXを実現したということも大いに評価に影響したのでしょう。
アメリカでも邦画の実写映画部門で歴代興収1位になるなど、その勢いはとどまることを知りませんでしたね。
ちなみに監督がVFXも担当してこの部門を受賞した例は、1968年の「2001年 宇宙の旅」のスタンリー・キューブリック以来の2例目ということで、まさに歴史に残る快挙と言えるでしょう。

 


編集賞

◎『オッペンハイマー
『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
『落下の解剖学』
『哀れなるものたち』
『The Holdovers(原題)』

ここも本命の『オッペンハイマー』でした。
受賞したジェニファー・レイムは、ノア・バームバック監督の「フランシス・ハ」「ヤング・アダルト・ニューヨーク」、アカデミー賞でも話題になった「マンチェスター・バイ・ザ・シー」、そしてアリ・アスター監督の「ヘレディタリー/継承」と数々の名作、それもジャンルを超えた作品で活躍を見せています。クリストファー・ノーラン監督作も「TENET テネット」に続くタッグで見事受賞となりました。
これは作品賞に向けても追い風となるでしょう。

TENET テネット(字幕版)

TENET テネット(字幕版)

  • ジョン・デイビッド・ワシントン
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短編ドキュメンタリー賞

『The ABCs Of Book Bannning』
○『The Barber of Little Rock』
◎『Island in Between』
『The Last Repair Shop』
『Nai Nai and Wài Pó』

 

ここは『The Last Repair Shop』でした。
学生のために楽器を無償で修理する職人の姿を描いた作品ということで、未来の若者の夢を後押しする作品が受賞となりました。
現在ディズニープラスで視聴可能とのことです(自分は加入していないので見れませんが)。 La

長編ドキュメンタリー賞

『Bobi Wine : The People's President』
○『The Eternal Memory』
◎『Four Daughters』
『To Kill A Tiger
『20 Days in Mariupol』

 

ここは『20 Days in Mariupol』が受賞しました。
ウクライナマリウポリに滞在したジャーナリストの姿を追ったドキュメンタリーです。
昨年は先日亡くなったアレクセイ・ナワリヌイを捉えた「ナワリヌイ」が受賞した部門で、2年連続でロシア・ウクライナ情勢を対象とした作品が受賞したことになります。
世界的な関心が、そしてこの問題が2年経っても続いていることを痛感させられます。
NHKですでに放映済だったらしいのですが見逃してしまったので、この受賞で再放送をしてもらえたら良いですね。

 


撮影賞

◎『オッペンハイマー
『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
『マエストロ:その音楽と愛と』
『哀れなるものたち』
『伯爵』

 

ここも本命『オッペンハイマー』が受賞しました。
撮影担当のホイテ・ヴァン・ホイテマは、同じくクリストファー・ノーラン監督の「ダンケルク」以来のノミネートでこれが初受賞となります。
インターステラー」や「TENET テネット」、昨年の話題作「NOPE/ノープ」も担当しており、正直どのタイミングで受賞してもおかしくなかったと思うのですが、『オッペンハイマー』でついに実現しましたね。
編集賞、撮影賞も取ってこれは作品賞は確定か?と思わせる展開ですね。

 


短編映画賞

『The After(原題)』
『Invincible(原題)』
『Knight of Fortune(原題)』
『Red, White And Blue(原題)』
◎『ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語』

 

ここは知名度で抜きん出ている『ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語』が受賞しました。
ウェス・アンダーソン監督作品も実はこれが初受賞となります。
ギャンブルでイカサマをするために超能力を身につけようとする男の話で、これまた監督独特のイマジネーションが遺憾なく発揮されてそうです。
こちらはNetflixで見られるそうです(自分は未加入なので見られません・・・)。


音響賞

『ザ・クリエイター/創造者』
○『マエストロ:その音楽と愛と』
『関心領域』
◎『オッペンハイマー
ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』

 

ここは『関心領域』が受賞しました。
ホロコーストモノということで戦争映画なども強い部門ではありますが、『オッペンハイマー』とこれまた受賞しやすい音楽映画の『マエストロ:その音楽と愛と』を抑えての受賞というのは純粋にすごいですね。
昨年はドイツ映画の「西部戦線異状なし」が9部門ノミネートで4部門受賞と目立っており、ヨーロッパの映画が国際長編映画賞部門以外でも注目されるようになっているのかもしれません。
『マエストロ:その音楽と愛と』はここを逃すと無冠の可能性が・・・。

 

作曲賞

○ルドウィグ・ゴランソン 『オッペンハイマー
ジャースキン・フェンドリックス 『哀れなるものたち』
◎ロビー・ロバートソン 『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
ラウラ・キャップマン 『American Fiction(原題)』
ジョン・ウィリアムス 『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』 

 

ここは『オッペンハイマー』のルドウィグ・ゴランソンが受賞しました。
重厚なクラシックサウンドで過去の傾向では受賞しやすさもありますが、良くも悪くも無難という印象もありました。やはり作品の追い風に乗っているのかもしれません。
ルドウィグ・ゴランソンは「ブラックパンサー」で受賞しており弱冠39歳で2度目の受賞となりました。
『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』のロビー・ロバートソンは残念でしたが、その音楽は印象的でこちらもまた永遠に残るものとなるでしょう。

 


歌曲賞

“The Fire Inside” —『Flamin’Hot(原題)』
◎“I’m Just Ken” — 『バービー』 Music & Lyrics by: Mark Ronson, Andrew Wyatt
“It Never Away” —『American Symphony』
“Wahzhazhe(A Song For My People) —『キラーズ・オブ・ザ・フラワー・ムーン』
○“What Was I Made For?” — 『バービー』 Music & Lyrics by: Billie Eilish O’Connell, Finneas O’Connell

 

『バービー』 からノミネートされた2曲のうち主題歌となっている“What Was I Made For?” が受賞しました。
インパクトやキャストが自ら歌っている部分も考慮して“I’m Just Ken” の方を本命視していたのですが、主題歌の方でしたね。
ビリー・アイリッシュは「007 ノー・タイム・トゥ・ダイ」に続き2回目の受賞となりました。
『バービー』 が唯一この部門で爪痕を残してくれました。

 


主演男優賞

ブラッドリー・クーパー 『マエストロ:その音楽と愛と』
キリアン・マーフィー  『オッペンハイマー
コールマン・ドミンゴ 『ラスティン:ワシントンの「あの日」を作った男』
ポール・ジアマッティ 『The Holdovers(原題)』
ジェフリー・ライト 『American Fiction(原題)』

オッペンハイマー』のキリアン・マーフィーが受賞しました。
キャリアは豊富でもアカデミー賞はこれが初ノミネート。
ただそんな逆風をものともせず堂々の受賞となりました。
実在の人物を演じているというのはもちろんですが、やはり作品の勢いがあるんでしょう。
ポール・ジアマッティは残念でしたが、作品には大いに期待できそうなので楽しみにしています。

 


監督賞

ジュスティーヌ・トリエ 『落下の解剖学』
ヨルゴス・ランティモス 『哀れなるものたち』
クリストファー・ノーラン 『オッペンハイマー
マーティン・スコセッシ 『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
ジョナサン・グレイザー 『関心領域(原題:The Zone of Interest)』

監督賞も『オッペンハイマー』のクリストファー・ノーラン
まあこの流れでは当然の受賞といった感じでしょう。
監督賞としては「ダンケルク」に続く2回目のノミネートでの受賞ですが、ノミネートされていなかったときもことごとく不可解な印象を受けるものが多かったので、正直遅すぎる受賞といった気もします。
ここまで来たらさすがに作品賞を逃すことはないでしょう。

 


主演女優賞

◎リリー・グラッドストーン 『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
キャリー・マリガン 『マエストロ:その音楽と愛と』
▲ザンドラ・ヒュラー 『落下の解剖学』
アネット・ベニング  『ナイアド ~その決意は海を越える~』
エマ・ストーン 『哀れなるものたち』

 

『哀れなるものたち』のエマ・ストーンが受賞しました。
入水自殺をした母親の体にその胎児の脳を移植された女性という頭は子ども、体は大人という難役を文字通り体を張って演じています。
本作の印象=エマ・ストーンの存在・演技とでも言えるぐらいに作品の中心として引っ張って言っているので受賞も大いにうなずけます。
エマ・ストーンは「ラ・ラ・ランド」以来2度目の受賞で、これからのキャリアを考えてもさらなる大女優になっていく可能性が高いですね。
『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』のリリー・グラッドストーンは先住民オセージ族の毅然とした女性ということで評価されやすい要素は多かったと思うのですが、立ち位置的には助演という印象があることや、作品の勢いが今回に関してはそこまでなかったことが影響しているかもしれません。

 


作品賞

◎『オッペンハイマー
『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
『マエストロ:その音楽と愛と』
『パスト ライブス/再会』
『関心領域』
○『落下の解剖学』
『バービー』
『哀れなるものたち』
『American Fiction(原題)』
▲『The Holdovers(原題)』

 

この流れではすでに当確だったかもしれませんが、『オッペンハイマー』が堂々の受賞となりました。
この部門に直結しやすい監督賞、編集賞でしっかり受賞し、これまでクリストファー・ノーラン監督作品では評価されにくかった俳優部門でも2部門受賞とサプライズの要素は少なかったように思います。
『落下の解剖学』は作品としてのインパクトで及ばなかったかもしれません。
カンヌ映画祭パルム・ドール(最高賞)受賞作品でアカデミー賞作品賞を受賞したのは最近だと2020年の「パラサイト 半地下の家族」がありましたが、それ以前は1955年の「マーティ」まで遡ります。評価の基準なども違うのでしょうが、同時受賞は至難の業であることが伺えますね。

 


第96回アカデミー賞雑感

予想の結果は、
本命(◎)的中 ・・・ 13
対抗(○)的中 ・・・ 6
ハズレ ・・・ 4

でした。
まずまず的中しましたかね?
外れたのが、短編アニメーション賞、短編ドキュメンタリー賞、長編ドキュメンタリー賞、音響賞なので主要部門に限ってはほぼ完璧な予想でしたね(自画自賛)。

最多受賞は『オッペンハイマー』で13部門ノミネート中7部門での受賞でした。
他、複数受賞は、『哀れなるものたち』が4部門、『関心領域(原題:The Zone of Interest)』が2部門となりました。

まずは下馬評通り『オッペンハイマー』強しという結果ですね。
対して『バービー』の方は歌曲賞のみという結果に終わってしまいました。
昨年の夏に大ヒットし、『オッペンハイマー』と『バービー』を両方一気に鑑賞する"バーベンハイマー"という名前のついた現象にまで及んでいた両作が明暗を分けるといった形になってしまいました。
興行的に大ヒットした作品はアカデミー賞ではむしろ評価されない傾向も多く、『オッペンハイマー』のヒットが例外的であるとも言えますし、受賞の可能性が高いと目されていた美術賞、衣裳デザイン賞には『哀れなるものたち』という強敵がいたことがありますが、それを差し引いても、監督賞や主演女優賞にはノミネートされてしかるべきだったのでは?と思います。

バーベンハイマーに関して、一般ファンの作成したコラボ画像を公式SNSが「いいね」したことが物議を醸し、『オッペンハイマー』は一時公開が見送られ、『バービー』も一部映画ファンを除いてはそこまで話題にならずに終了してしまいました。
確かに日本は唯一の被爆国であり原爆の与える影響というものに非常に敏感ですし、それをいわゆるネットミームにされてしまったことに憤慨する気持ちがあるのは大いに理解できます。
ただ日本でもナチスヒトラーの演説に適当な日本語字幕をつけたものなど、世界からすればタブー視されているものをネットミーム化している現実があります。
個人のレベルでやっていたことが今やSNSで世界中に拡散されてしまう時代なだけに一人ひとりが意識していかなければならないことだと思いますが、公式アカウントがそれを拡散してしまうというのはいただけないですね。結果的に『バービー』は一つの大きなマーケットを失ったことになりますし、何よりややもすれば過剰なレベルでポリティカル・コレクトネスに配慮してきたハリウッドが自分たちと直接的に関わりないことについてはさほど関心がないということを示してしまったとも言えます。近年当たり前のように叫ばれてきた多様性を重視することを今一度見つめ直すよい機会になればと思います。
とはいえ、やはり自分は映画は自分で見てしっかり判断したいとも思っています。
オッペンハイマー』は3月末に公開されますが、映画の評価はそのときまでとっておきましょう。

授賞式はWOWOW独占放送のため自分は全部を追っては見ることはできなかったのですが、プレゼンターとしてインパクトがあったのはやはり衣装デザイン賞のときのジョン・シナですね。
アキラ100%ばりの全裸スタイルで登場して衣装の重要性を訴えるというのは、まさに世界の共通言語として通じるものがあります。
その一方で、助演男優賞のロバート・ダウニー・ジュニア、主演女優賞のエマ・ストーンの受賞の際に、プレゼンターがどちらもキー・ホイ・クァンミシェル・ヨーというアジア人ということで、その受賞のときの対応が問題視もされています。ロバート・ダウニー・ジュニアはキー・ホイ・クァンの方を見ずにオスカー像を片手で受け取っている点、エマ・ストーンもメインのプレゼンターであるミシェル・ヨーではなくジェニファー・ローレンスからオスカー像を受け取っている点で、いずれもアジア人を軽視、蔑視しているのではないかと指摘されています。
どちらも映像だけだと確かにそのように判断されてしまう可能性が大いにありますが、エマ・ストーンの方に関しては、ドレスが破れて慌てていたこと、ミシェル・ヨージェニファー・ローレンスの方を向いてオスカー像を促していること、そして何よりミシェル・ヨー自身のInstagramで「(エマ・ストーンの親友である)ジェニファー・ローレンスからオスカー像を渡してもらいたいと思ったこと」が綴られています。以下がミシェル・ヨーのオフィシャルInstagramでの投稿になります。

 

 

状況を正確に把握せずに過剰に差別だ偏見だと声高に叫ぶのは望ましくない傾向だと思います。ただ、ロバート・ダウニー・ジュニアの方はまだ本人もキー・ホイ・クァン側もこれといったコメントを出していないようで、特にロバート・ダウニー・ジュニアはようやく薬物トラブルに起因するスキャンダルから立ち直ってきたところなので、余計なイメージをつけない方が良いのではと思ってしまいます。
とはいえ、こうした疑惑が出てきた要因の一つに、今年はなぜかプレゼンターが複数名いたということもあるのではないかと思っています。ロバート・ダウニー・ジュニアもプレゼンターがキー・ホイ・クァンしかいなかったら目も合わせずに片手で受け取るなんてことするはずがないでしょうし、余計な演出が余計な疑惑を生んだようにも思いますね。

アメリカではリリー・グラッドストーンが主演女優賞を逃したことで、やはり人種差別の影響があるのではないかと揶揄されているようです。この件に関しては、主演女優賞のところにも書きましたが、エマ・ストーンと比較して決定的に違っている部分は役どころの立ち位置です。『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』はやはりレオナルド・ディカプリオが主演で、リリー・グラッドストーンは助演という印象が強いです。対して『哀れなるものたち』のエマ・ストーンは映画のイコンともなっていますし、まさにリーディングロールになっています。主演女優賞と考えたとき、そして2人の演技のレベルでの差を感じなかったとしたら、やはりエマ・ストーンが受賞したということには十分に納得できます。ちなみに主演か助演かはアカデミー賞側で判断しているのではなく作品の製作側の判断によるものだそうです。助演ならあるいは・・・?あとはやはり作品全体の評価として『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』の勢いがなかったこともあるかもしれません。主演のレオナルド・ディカプリオぐらいはノミネートされてしかるべきだったかと思いますし、作曲賞はチャンスありかと思っていたのですが、結果的には無冠で終わってしましたしね。

かつてホワイトウォッシュと批判されたアカデミー賞もここ数年は多様性を意識して人種を問わず賞の対象となっている印象がありましたが、やはりどうしてもこうした問題にまつわるトラブルが出てきてしまうのはなんとも残念ですね。
それでも、まさに自分たちのこと以外に関心を持たないことの問題を描いた『関心領域』が受賞したり、脚色賞では、人種問題やコンプライアンス、ポリコレを逆手に取って痛快な作品に仕上げた『American Fiction(原題)』が受賞したりしたところは良かったと思います。

そして最後に!今年はなんと言っても日本映画の快挙ですよ。
スタジオジブリ宮崎駿監督作『君たちはどう生きるか』が長編アニメーション賞、そして『ゴジラ-1.0』が視覚効果賞を受賞しました。
特に『ゴジラ-1.0』は日本映画がこの部門で受賞したのが初めてというのも快挙中の快挙と言えるでしょう。わずか35人のスタッフで作り上げたとは思えない精緻な表現、そしてデジタルとアナログの巧みな融合が評価されたようです。予算規模が他の作品の20分の1ほどで済んでいることも取り上げられていましたが、裏を返すとそれだけ日本映画のバジェットが少ないということも意味しています。結果的にはスタッフに支払われる給料も少なく抑えられている可能性があるということでこのあたりは日本映画界が今後改善していかなければ、改善されなければならない部分かと思います。ともあれ、今は受賞を素直に喜びましょう。作品関係者の皆様、おめでとうございます!

以上、第96回アカデミー賞の雑感でした。とりあえず未公開作品の公開を心待ちにしたいと思います。

第96回アカデミー賞 全部門受賞予想

映画ブログも復活させたことで、アカデミー賞予想もしていきたいと思います。

日本未公開だったり、配信のみの作品などもあって全ての作品をチェックしている訳ではありませんので、特に短編賞はトレーラーやあらすじだけで予想をしていますので、まあ当たるも八卦当たらぬも八卦というやつでしょうかね(予防線)。

ちなみに昨年の予想は、
本命的中(◎) ・・・ 12
的中(○、▲) ・・・ 9
ハズレ ・・・ 2

という結果でした。さて、今年はどうでしょうか?

 

 

作品賞候補

◎『オッペンハイマー
『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
『マエストロ:その音楽と愛と』
『パスト ライブス/再会』
『関心領域(原題:The Zone of Interest)』
○『落下の解剖学』
『バービー』
『哀れなるものたち』
『American Fiction(原題)』
▲『The Holdovers(原題)』

 

候補作10本のうち、自分がすでに鑑賞しているのは、『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』『落下の解剖学』『バービー』『哀れなるものたち』『American Fiction(原題)』の5本です。

本命は、『オッペンハイマー』。
クリストファー・ノーラン監督が原子爆弾の開発者ロバート・オッペンハイマーの姿を描いた作品です。
実在の人物を描いた硬派な作品というのはアカデミー賞を受賞しやすい傾向がありますし、ゴールデングローブ賞はじめ前哨戦の成績も良好です。
13部門の最多ノミネート、特に作品賞に直結する編集賞、脚色賞にもしっかりノミネートされているのは盤石と言ってよいでしょう。
しかもこのジャンルでアメリカでは3億ドル超のヒットを遂げていて、作品の質だけでなく興行収入の面でも評価されるに値する作品であると言えます。
日本では、バーベンハイマーのキャンペーンの一環で原子爆弾をネットミームにしてしまったことが問題視されて、一時は公開も危ぶまれていましたが、ようやく公開も決まったことですし逆風にはならないでしょう。

対抗は『落下の解剖学』。
カンヌ映画祭パルム・ドールを受賞した同作は、夫の不可解な転落死で容疑をかけられた妻が裁判の過程で夫婦関係だけでなく過去の確執や趣味嗜好まで明らかにされていくというサスペンスですが、映画の大半が法廷が舞台の会話劇で「オッペンハイマー」とは対照的な作品なだけに、「オッペンハイマー」を評価しない会員はこちらに投票する可能性があるかもしれません。
他部門でも監督賞、編集賞脚本賞、主演女優賞と重要な部門にしっかりノミネートされていますし、「オッペンハイマー」が逃すとしたら、本作が一番手になる可能性も考えられます。
気になる点としてはフランス映画なのに国際長編映画賞(2018年までは外国語映画賞)にノミネートされていないことでしょうか。
そもそも英語以外の言語を主体とする作品が作品賞を受賞した例はここ20年で「パラサイト 半地下の家族」しかありません(「アーティスト」も製作はフランスですが、実質サイレント映画ということで)。「パラサイト 半地下の家族」は国際長編映画賞もしっかり受賞していたので、それを考えると作品賞受賞までの勢いはないかもしれません。

3番手は『The Holdovers(原題)』。
アレクサンダー・ペイン監督によるヒューマンドラマです。
アカデミー賞の作品賞は、「コーダ あいのうた」のようにほのぼのとした佳作に賞が送られる傾向もたまにあるので、大作と批評家好みの作品の間で本作が戴冠する可能性もあるかもしれません。
ただ、編集賞脚本賞はノミネートされていますが、監督賞の候補からハズレているのも気がかりです。

それ以外の作品だと、『バービー』は2023年の最大ヒット作で誰もが知っているバービー人形を題材に男性優位社会をコミカルに批判しているというテーマもしっかりした作品ですが、監督賞、編集賞、そして主演女優賞もノミネートされていないことから、批評家受けという点では1歩下がってしまっている印象です。
『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』も「オッペンハイマー」に次ぐ10部門ノミネートですが、アメリカの負の歴史を描いた作品ということ、脚色賞にノミネートされていないことはネックになりそうです。
『哀れなるものたち』も有力視されていましたがヨルゴス・ランティモス監督の世界観が万人受けするタイプには見えずに票が集まりづらい印象があり、本作で大いに評価されるのが主演女優賞のエマ・ストーンではないかとも考えられます。
『マエストロ:その音楽と愛と』もレナード・バーンスタインの伝記ドラマということで実在の人物を描いていますが、それなら「オッペンハイマー」という印象があります。

ということで大本命『オッペンハイマー』がそのまま受賞するのではないかというのが予想になります。

 

監督賞候補

ジュスティーヌ・トリエ 『落下の解剖学』
ヨルゴス・ランティモス 『哀れなるものたち』
クリストファー・ノーラン 『オッペンハイマー
マーティン・スコセッシ 『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
ジョナサン・グレイザー 『関心領域(原題:The Zone of Interest)』

 

作品賞が『オッペンハイマー』であれば、監督賞もクリストファー・ノーランで揺るがないでしょう。
稀代のヒットメーカーが伝記ドラマでも3億超のヒットを遂げる作品に仕上げたということは大いに評価されるでしょう。過去に「ダンケルク」でノミネート済で実績も十分と言えます。
ただ、「ダークナイト」「インセプション」「インターステラー」「TENET」ともっと評価されていてもおかしくないという印象もあって、実はアカデミー会員にはそれほど好かれていないのではという邪推もできなくはないですが、作品の勢いそのままに受賞までこぎつけるでしょう。

 

TENET テネット(字幕版)

TENET テネット(字幕版)

  • ジョン・デイビッド・ワシントン
Amazon

 

主演女優賞候補

◎リリー・グラッドストーン 『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
キャリー・マリガン 『マエストロ:その音楽と愛と』
▲ザンドラ・ヒュラー 『落下の解剖学』
アネット・ベニング  『ナイアド ~その決意は海を越える~』
エマ・ストーン 『哀れなるものたち』

 

ここは前哨戦では一騎打ちといった様相でした。
本命は『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』のリリー・グラッドストーン
先住民のオセージ族として毅然とした態度を貫く女性を演じきったところは大いに評価されるでしょう。
またノミネート数こそ多い本作ですが実際に受賞できる可能性で考えると難しい部門が多く、ここを逃すと無冠に終わってしまう可能性も考えられるので、本作の支持者はここに票が集まるのではないかとも考えられます。とかく多様性がうたわれる時代で、アメリカン・インディアンの血を持つ彼女が受賞するというのは願ったり叶ったりな部分もあると言えます。
ネックと言えば、出演時間こそ長いですが実質助演という立ち位置な印象もあることでしょうか。

対抗は『哀れなるものたち』のエマ・ストーン
赤子の脳を移植された女性という難役を文字通り体当たりで演じきっています。
作品そのものを引っ張っているという点では、リリー・グラッドストーンよりも優位と言えるでしょう。
そして『哀れなるものたち』もノミネート数の割に受賞できそうな部門が少ない印象があるので、同作の支持者の票がこの部門に集中する可能性はあります。
ただ、「ラ・ラ・ランド」ですでに受賞済で助演女優賞も2度ノミネート経験もあり、今後も大いに活躍が期待できるだけに、フレッシュさという点でリリー・グラッドストーンに劣るかもしれません。

『落下の解剖学』のザンドラ・ヒュラーが3番手。
作品の評価の高さもありますが、それを支えているのはまさに本作の中心に位置している彼女です。
また、同じく作品賞にノミネートされている『関心領域(原題:The Zone of Interest)』にも出演しているとのことで、総合的に評価が高まっている可能性はあります。
ただ、本作を鑑賞して、彼女以上に演技という面では、息子役のミロ・マシャド・グラネール(と飼い犬役のメッシ)の方が印象的だったように思います。『落下の解剖学』のアカデミー会員の評価も未知数なだけに3番手とします。

 


主演男優賞候補

ブラッドリー・クーパー 『マエストロ:その音楽と愛と』
キリアン・マーフィー  『オッペンハイマー
コールマン・ドミンゴ 『ラスティン:ワシントンの「あの日」を作った男』
ポール・ジアマッティ 『The Holdovers(原題)』
ジェフリー・ライト 『American Fiction(原題)』

 

本命は『The Holdovers(原題)』のポール・ジアマッティ
アレクサンダー・ペイン監督作は「アバウト・シュミット」「ファミリー・ツリー」など人間にスポットを当てたドラマ作品なので、作品が評価されるときは常にキャストも評価されている印象です。名バイプレイヤーが「サイドウェイ」以来のコンビとなるアレクサンダー・ペイン監督の作品で受賞となればドラマ性も十分ではないでしょうか。
アカデミー賞では2005年に「シンデレラマン」で助演男優賞にノミネートされて以来の2回目のノミネート。嫌われ者の教師という役どころも追い風になるのではないでしょうか。

対抗は『オッペンハイマー』のキリアン・マーフィー。
こちらも作品の勢い、実在の人物を熱演など評価を後押しするポイントはたくさんあります。
ただし、クリストファー・ノーラン監督は、アレクサンダー・ペイン監督とは対照的にキャストがノミネートされにくい印象があります(例外は「ダークナイト」のヒース・レジャーぐらい)。またキリアン・マーフィーも初ノミネートということで、キャリアの部分も考えてポール・ジアマッティの方を有力と見ます。

ブラッドリー・クーパーも実在の人物を演じている、5度目のノミネートでこれまで受賞なしと実績、評価とも申し分ないのですが、作品の勢いという点で上記の2人に劣っている印象です。

 

助演女優賞候補

エミリー・ブラント 『オッペンハイマー
ダニエル・ブルックス 『カラーパープル
ジョディ・フォスター  『ナイアド ~その決意は海を越える~』
アメリカ・フェレラ 『バービー』
◎ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ 『The Holdovers(原題)』

 

ここは『The Holdovers(原題)』のダヴァイン・ジョイ・ランドルフで揺るがないでしょう。
前哨戦での圧倒的な強さ、ベトナム戦争で息子を亡くした母親という役どころ、実質3人の主演のうちの1人という点、どこをとっても死角が見当たりません。

個人的には『カラーパープル』のダニエル・ブルックスも映画を見た誰もが持っていかれる魅力的な役どころなので応援したいところですが、作品の勢いを考えても逆転はないでしょう。

オッペンハイマー』のエミリー・ブラントオッペンハイマーの妻役という実在の人物を演じていて有力候補ではありますが、クリストファー・ノーラン作品のキャスト評価という点でどうでしょうか。
作品の全体評価は「オッペンハイマー」、キャストは「The Holdovers」と考えると、やはりダヴァイン・ジョイ・ランドルフが受賞に最も近いでしょう。


助演男優賞候補

スターリング・K・ブラウン 『American Fiction(原題)』
ロバート・デ・ニーロ 『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
ロバート・ダウニー・Jr. 『オッペンハイマー
ライアン・ゴズリング 『バービー』
マーク・ラファロ 『哀れなるものたち』

 

オッペンハイマー』のキャストで最も受賞の可能性が高いのがこの部門のロバート・ダウニー・Jr.。
こちらも実在の人物を演じており、主人公とは対立する立場ということで映画の中でも重要な役どころと考えられます。
「チャーリー」でチャールズ・チャップリンに扮し主演男優賞にノミネートされるもスキャンダルでキャリアが低迷、そこからのカムバックを果たし、アイアンマンとして地球を救い、またオスカーの晴れ舞台に戻ってきたというのはいかにも好まれそうなストーリーで、昨年のブレンダン・フレイザーキー・ホイ・クァンに通じるものがあります。

対抗は『バービー』のライアン・ゴズリングか。
女性優位の「バービー」の世界から抜け出してアイデンティティーを追い求める姿は主演のバービーを食っているほどの印象はありました。
ただ、作品の評価を加味するとやはり前者には及ばない印象です。

 


脚本賞候補

サミー・バーチ&アレックス・メカニク 『May December(原題)』
○デイヴィッド・ヘミンソン 『The Holdovers(原題)』
ブラッドリー・クーパージョシュ・シンガー 『マエストロ:その音楽と愛と』
セリーヌ・ソン 『パスト ライブス/再会』
◎ジュスティーヌ・トリエ&アルチュール・アラリ 『落下の解剖学』

 

本命は、『落下の解剖学』。
会話劇が中心ということもあり、圧倒的なセリフの多さとそれが支えている物語ということで、本作で最も評価しやすいのはこの部門なのではないでしょうか。
この部門は作品賞とは別個に評価される印象があって、「プロミシング・ヤング・ウーマン」や「ゲット・アウト」のようにとにかくストーリーとしてのインパクトが強い作品が受賞するイメージがありますが、今年の候補を見るとそういった変化球のような作品はないように感じるので、『落下の解剖学』を本命とします。

対抗は、『The Holdovers(原題)』。
3人が疑似家族のような関係を築いていくというストーリーは支持されやすいと考えます。
前哨戦から『パスト ライブス/再会』が受賞しても何らおかしくなく、3つ巴といった様相かと思いますが、すでに見た作品の方が素直に評価しやすいというのが正直なところです。

 


脚色賞候補

○『オッペンハイマー
『関心領域』
『バービー』
『哀れなるものたち』
◎『American Fiction(原題)』 

 

ここは『American Fiction(原題)』を本命にします。
売れない黒人作家が逆ギレ気味にコンプライアンス完全無視の小説を書いたらそれが思いの外話題になる、という軽妙さもありながら皮肉も利いているということで、本作で最も評価されやすい、受賞しやすい部門ではないかと考えます。

対抗はやはり強いであろう『オッペンハイマー』。
作品の力が一枚抜けているのであればここもあっさり受賞があってもおかしくはないです。
他の候補作にも受賞の目がないわけではないので大混戦の部門と言えるでしょう。


編集賞候補

◎『オッペンハイマー
『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
『落下の解剖学』
『哀れなるものたち』
『The Holdovers(原題)』

 

観客は編集後の作品を目にするので、作品賞に直結しやすいとも言える部門です。
とはいえそのまま両方とも受賞となっているわけではないのが面白いところで、昨年こそ「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」が作品賞と同時受賞していますが、それ以前の同時受賞は2012年の「アルゴ」まで遡ります。

作品賞の作品を差し置いて受賞した例は、やはり編集にインパクトがある作品だったように思います。
とはいえ、今年はそこまで超絶の編集という印象の作品がなかったと思いますので素直に『オッペンハイマー』を本命とします。

 


美術賞候補

オッペンハイマー
『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
『ナポレオン』
◎『バービー』
○『哀れなるものたち』

 

本命は前哨戦でも圧倒的だった『バービー』。
やはりあの「バービー」の世界観を完璧に再現しているのは圧巻でしょう。
対抗は、やはり美術が作品のイメージを決定づけている『哀れなるものたち』。

 

音響賞候補

『ザ・クリエイター/創造者』
○『マエストロ:その音楽と愛と』
『関心領域』
◎『オッペンハイマー
ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』

 

この部門は、音楽系の映画、戦争映画などが強い印象です。
本命はやはり作品の力を考えて『オッペンハイマー』。
爆発シーンなども多く音響が重要になってきますし、クリストファー・ノーラン作品は「インセプション」「ダンケルク」でも受賞済で技術系の部門ではかなり信頼性が高いと思われます。
対抗は音楽系映画の『マエストロ:その音楽と愛と』。


撮影賞候補

◎『オッペンハイマー
『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
『マエストロ:その音楽と愛と』
『哀れなるものたち』
『伯爵』

 

この部門は、戦争映画、SF映画などのスペクタクル感の強い映画が受賞しやすい傾向があります。
であれば、本命『オッペンハイマー』で揺るがないでしょう。
映像のインパクトがすごいクリストファー・ノーラン作品を支えているのはこの部門のホイテ・ヴァン・ホイテマといっても過言ではありません。


視覚効果賞候補

○『ザ・クリエイター/創造者 』
ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』
◎『ゴジラ-1.0』
ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』
『ナポレオン』

 

ここは一騎打ちでしょう。
本命は、『ゴジラ-1.0』。
前哨戦でこそ一歩劣っている印象はありますが、ノミネート発表のときの歓声の大きさからして逆転の可能性は大いにあります。
スピルバーグはじめハリウッドでも著名な監督、映画製作者に影響を与えた「ゴジラ」の最新作が受賞となれば、会場中がスタンディング・オベーションすることは間違いないでしょう。
対抗は前哨戦で『ザ・クリエイター/創造者 』。こちらも素晴らしい作品ではありますが、ギャレス・エドワーズもまたゴジラの影響を受け、ハリウッドでもゴジラ作品を作っているので、それらの功績も考えるとやはり、『ゴジラ-1.0』の席巻を願ってやみません。

 


メイクアップ&ヘアスタイリング賞候補

オッペンハイマー
○『マエストロ:その音楽と愛と』
『Golda(原題)』
◎『哀れなるものたち』
『雪山の絆』

 

主演女優賞のエマ・ストーンが盤石ではないとしたら、『哀れなるものたち』が受賞しやすい部門はここではないでしょうか。ベラを生み出したゴドウィンの造形はまさにメイクアップの力によるところが大きいです。
対抗は『マエストロ:その音楽と愛と』。
レナード・バーンスタインをスクリーンに蘇らせたメイクが評価されるかが鍵となりますが、カズ・ヒロは個人名義としてはすでに2度受賞しており、今回も受賞すると3度目の快挙を達成することになります。


衣裳デザイン賞候補

オッペンハイマー
『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
『ナポレオン』
◎『バービー』
○『哀れなるものたち』

 

ここも『バービー』と『哀れなるものたち』の一騎打ちでしょう。
作品の力や人気度、衣装のバラエティーを考えるとやはり『バービー』の方が受賞に近いかもしれません。
『哀れなるものたち』のベラの衣装もかなり個性的でインパクトはあるのですが、基本の系統が似ていてバラエティーの部分で負けている印象です。


作曲賞候補

○ルドウィグ・ゴランソン 『オッペンハイマー
ジャースキン・フェンドリックス 『哀れなるものたち』
◎ロビー・ロバートソン 『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
ラウラ・キャップマン 『American Fiction(原題)』
ジョン・ウィリアムス 『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』 

 

ここは『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』のロビー・ロバートソンを本命に。
ザ・バンドのギタリストとして知られていますがマーティン・スコセッシ監督の映画音楽も度々担当してます。
そして昨年80歳で亡くなってしまい、映画のスコアとしては本作が最後の作品となります。
自身のルーツでもあるアメリカン・インディアンにまつわる作品で、楽曲も映画のイメージとマッチしており、受賞にふさわしいのではないかと言えます

とはいえ、チャドウィック・ボーズマンが逝去したときも受賞確実と言われながら逃した前例もあり、いわゆる追悼受賞みたいなものはないと考えたとき、やはり『オッペンハイマー』のルドウィグ・ゴランソンになるのではないでしょうか。こちらは重厚なクラシックサウンドになっています。「ブラックパンサー」ですでに受賞経験があることが吉と出るか凶と出るかでしょう。

 


歌曲賞

“The Fire Inside” —『Flamin’Hot(原題)』
◎“I’m Just Ken” — 『バービー』 Music & Lyrics by: Mark Ronson, Andrew Wyatt
“It Never Away” —『American Symphony』
“Wahzhazhe(A Song For My People) —『キラーズ・オブ・ザ・フラワー・ムーン』
○“What Was I Made For?” — 『バービー』 Music & Lyrics by: Billie Eilish O’Connell, Finneas O’Connell

 

ここは『バービー』の楽曲同士の一騎打ちが濃厚でしょう。
主題歌か挿入歌かということになるのですが、挿入歌の“I’m Just Ken”を本命にします。
作中でもっともインパクトのあった曲でしたし、ライアン・ゴズリングが自ら歌っているというのもポイントが高いのではないでしょうか。
主題歌もビリー・アイリッシュの良曲ですが、受賞歴もあるのでここはライアン・ゴズリングに花を添えるということで。

 


国際長編映画賞候補

『The Teachers' Lounge』(ドイツ)
○『Io Capitano』(イタリア)
『PERFECT DAYS』(日本)
『雪山の絆』(スペイン)
◎『関心領域』(イギリス) 

 

本命は候補作の中で唯一作品賞にもノミネートされている『関心領域』。
アウシュヴィッツ強制収容所の隣で幸せに暮らす所長の家族という壁を隔てた2つのあまりにも対照的な日々を描くということで、数あるホロコーストモノにおいても異色の作品でしょう。
ヨーロッパへ密入国を目指すセネガルの若者2人の過酷な道中を描く『Io Capitano』が対抗。
『PERFECT DAYS』も素晴らしい作品だけに応援したいところだけど、日常系の映画で受賞は難しいかもしれません。


長編アニメーション映画賞候補

『マイ・エレメント』
○『スパイダーマン アクロス・ザ・スパイダーバース』
『ニモーナ』
『Robot Dreams(原題)』
◎『君たちはどう生きるか

 

本命はスタジオジブリ宮崎駿監督のカムバック作品『君たちはどう生きるか』。
個人的には同監督作においてすごい好きな作品というわけではないのですが、日本よりも海外受けの方が良さそうな内容、時代背景、映像ですし、今回の候補作の中では飛び抜けたイマジネーションを誇る作品だと思います。
対抗は『スパイダーマン アクロス・ザ・スパイダーバース』。作品の力はありますが、やはりその衝撃は前作で知ってしまっているので、それ以上のインパクトはなかったかなという気がします。

 

短編アニメーション賞候補

◎『Letter to A Pig(原題)』
○『Ninety - Five Senses(原題)』
『Our Uniform(原題)』
『Pachyderme(原題)』
『War Is Over! Inspired by The Music of John & Yoko』

 

トレーラーを見た感じだと、手書き風の絵柄に命を吹き込んだ2作のインパクトが強い。
本命は、『Letter to A Pig(原題)』。ホロコーストの生き残りの老人から聞いた話を元にした少女の内なる冒険という内容で、各映画祭での受賞も多いというのも頷ける、テーマも表現も印象的な作品でした。
対抗は、『Ninety - Five Senses(原題)』。これまた手書き風の絵柄が印象的です。


長編ドキュメンタリー賞候補

『Bobi Wine : The People's President』
○『The Eternal Memory』
◎『Four Daughters』
『To Kill A Tiger
『20 Days in Mariupol』

 

ウガンダ独裁政権に挑む歌手、アルツハイマー病になった夫と支える妻、ISISに参加した娘の代わりを俳優が演じる疑似家族モノ、インドでのレイプ被害者の父、ロシアの侵攻を受けたマリウポリの実録モノと国際的な問題をテーマにした作品が多いですが、本命は『Four Daughters』。ISIS問題を題材に失われた家族の代わりを役者が演じるというノンフィクションとフィクションの融合のような作品で、インパクトならばダントツです。
対抗は『The Eternal Memory』。現代病として看過できないアルツハイマー病とその患者に寄り添う姿は万人の心を打つに違いないでしょう。


短編ドキュメンタリー賞候補

『The ABCs Of Book Bannning』
○『The Barber of Little Rock』
◎『Island in Between』
『The Last Repair Shop』
『Nai Nai and Wài Pó』

 

検閲、人種問題、中国台湾問題、無料の楽器修理、2人のおばあちゃんとこれまた捉えているものがバラエティーに富んでいます。
本命は中国台湾問題を捉えた『Island in Between』。台湾の観光地ながら中国本土からほど近い場所で中国本土との緊張高まる台湾の最前線でもある場所を、ときに叙情的に映し出しています。
対抗は黒人の理髪師の目線で人種問題を捉えている『The Barber of Little Rock』。


短編映画賞候補

『The After(原題)』
『Invincible(原題)』
『Knight of Fortune(原題)』
『Red, White And Blue(原題)』
◎『ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語』

 

ここは「チャーリーとチョコレート工場」の原作ロアルド・ダールの小説を元に「グランド・ブダペスト・ホテル」のウェス・アンダーソン監督が映画化した『ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語』でしょう。ベネディクト・カンバーバッチレイフ・ファインズ他出演陣も豪華すぎます。

 

 


ということで全部門予想をしてみました。
予想通りならば、『オッペンハイマー』が6部門受賞で最多となり、『バービー』が3部門、『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』、『The Holdovers(原題)』が2部門と以上の4作品が複数部門での受賞ということになります。
昨年の「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」こそ7部門受賞していますが、近年は1つの作品が10部門以上を独占するような総ナメ状態になることが少ないですし、昨今の多様性にも配慮した良い予想になったのではないでしょうか(自画自賛)。

現地日時で3月10日に授賞式が開催されます。
結果を、そして受賞作の公開を楽しみに待ちましょう!

 

映画「哀れなるものたち」感想 ―原作との比較で見えてくる"哀れなるもの"とは―

 

「哀れなるものたち」概要と感想

スコットランドの作家アラスター・グレイの同名小説の映画化。
偏屈な天才外科医のゴドウィン・バクスターは、ある日、入水自殺を図った女性の検屍を依頼される。
この女性が妊娠していることが分かり、ゴドウィンは胎児の脳を母親の体に移植して蘇生させる。ベラと名付けられたこの女性は急速に成長していくが、やがて外の世界を見たいという好奇心が強くなり・・・。

監督は、「ロブスター」「女王陛下のお気に入り」のヨルゴス・ランティモス
主要なキャストは、エマ・ストーンウィレム・デフォーマーク・ラファロ、ラミー・ユセフ、他。

自分のX(旧Twitter)に投稿した一言感想はこちら。

同監督の作品は、「ロブスター」「聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア」「女王陛下のお気に入り」と鑑賞していますが、特に「ロブスター」「聖なる鹿殺し」は独特な世界観や設定が映画ファンの間でも大いに話題でした。

本作は入水自殺を試みた女性が妊娠をしており、その検屍を依頼された外科医が、実験的に胎児の脳を母親の体に移植して蘇生を試みることが物語の発端となっています。これはまさに「フランケンシュタイン」の世界ですが、単純に死者を蘇生させようというのではなく、子どもの脳を母親に移植させるというところは特徴的です。
かくして誕生した頭は子ども、体は大人のベラの著しい成長過程を"観察"していくというのが基本的な構成になります。

この作品の原動力ともなっているのが、エマ・ストーン扮するベラの存在感でしょう。
ゴドウィンが医学生のマックスを連れて自宅にやってきたときに、初めて"生まれたばかり"のベラと遭遇します。ロボットのようなぎこちない動き、たどたどしい発話、そして食器を叩き割ったり癇癪を起こしたりとまさに子どもそのままです。
その後、彼女が最初に興味を持つのが性的な関心になります。本作がR18に指定されている要因もまさにそこにあるのですが、ヨルゴス・ランティモス監督の作品は全体的にこうした性的描写を取り入れる傾向が強いということもあるのですが、それ以上に子どもの知性あるいは理性で大人の体を持ってしまったことの弊害として描きたかったのかもしれませんね。
 その後、外界への興味(と性欲)が抑えきれずに、弁護士のダンカンと"駆け落ち"をして、熱烈ジャンプをしながらも、食欲、知識欲も芽生えていきます。パリに降り立つころには立ち居振る舞い、知識、教養とどの面を見ても立派な英国淑女になっていて、この変化を巧みに演じ分けているエマ・ストーンアカデミー賞主演女優賞の候補となるのは大いに頷けます。

 それからベラの、ひいてはこの映画の世界観を表現している美術も目を見張るものがあります。映画で具体的な年代の話が出ていたかは定かではないのですが、原作では19世紀後半に設定されています。映画でも確かに今から100年以上前のヨーロッパのようでもありながら、近未来のようにも見える絶妙な雰囲気を醸し出しています。
そして、撮影にもこだわりを感じるポイントが随所に存在しています。本作は最初はモノクロ映像でスタートしますが、ある瞬間からフルカラーに切り替わります。これはベラの好奇心がまさに爆発的に開花した瞬間を表しているかのようです。
カメラも時折、魚眼レンズのように四方が歪んだ形で映像を捉えます。これはまさに顕微鏡で対象物を覗いているような視点になっていて、ベラの成長を観察しているという印象を増幅させています。
 あとは音楽ですね。こちらもまた映像と同期するかのように歪んだ不協和音を奏でています。

ジャンルで言うといわゆるアート映画に分類されるであろう本作、さらには過激な性的描写のためにR18指定にもなっているということで非常に見る人を選ぶ作品になってしまってはいますが、1人の女性の成長物語として完成度の高い作品にはなっておりますし、ヨルゴス・ランティモス監督の代表作になることは間違いありませんので、ぜひご鑑賞ください!

 

 


「哀れなるものたち」原作と映画の違い(微ネタバレあり)

レビューに当たって原作本も読んでみましたので、原作と映画の違いについていくつかピックアップしてみたいと思います。なお、若干のネタバレが含まれる可能性がありますので、未見の方は読み飛ばしていただくことを推奨します。

まず原作は、作者のアラスター・グレイ郷土史研究家から、マックスの著書を原本とした作品を執筆、出版することを依頼されるという形で始まっていて、このマックスの著書が映画の本筋に該当する部分になっています。
原作ではさらにその後、マックスの著書に関して、ベラが自分の子孫に向けて、読まれるか読まれないかわからない前提で、その記述の真偽について書かれたものが続く、という形式になっています。このあたりは、タイトル(タイトルは原作者がつけたことになっている)でもある「哀れなるものたち」とは誰を指すのかに関わってきそうです。

自分が一番大きく違っていると思った点は、ベラがダンカンと駆け落ちする前の部分です。
原作では、その前にゴドウィンとベラが世界中を旅して回っているという記述があります。
なのでマックスと婚約する段階ですでにベラは知識や教養の面ではかなり成熟した状態になっています。映画では、ゴドウィンはベラを外界に触れさせることに慎重になっている印象でしたが、原作ではそのような印象がなく、むしろ積極的に好奇心を外側へ向けさせている印象すらあります。
映画におけるベラは、ゴドウィンに対しては創造主としての敬意ぐらいにとどまっている印象ですが、原作ではより深い愛情を直接的にも表現しています(原作には彼女自身の記述があることで明らかになっているとも言えますが)。

2点目は、上記とも関連するのですが、マックスとベラの接点です。
映画ではマックスがゴドウィンに声をかけられてからそのままずっとゴドウィン家に住み込みでベラの観察を手伝っているのですが、原作ではこの間にかなりの時間のインターバルがあります(この間にゴドウィンはベラを連れて海外旅行にも行っている)。

3点目は、フェリシティの存在です。
映画では、ベラが不在の間にゴドウィンとマックスは同様の実験体としてフェリシティを自宅で育て、観察をしています。原作にはフェリシティは登場していません。

4点目は、作品のスポットを当てられている範囲です。
映画では、とにかくベラの半生ということになるのですが、原作ではスコットランド、イギリス全体の医学界、はたまた国の未来についての憂慮などもあり、ゴドウィン、そしてベラがいかに先見の明を持っていたかが明らかになっています。

その他、細かな違いはたくさんあるのですが、今回主に取り上げてみたい違いだけ記述してみました。

 


比較することで明らかになる差異(微ネタバレあり)

実験でも観察でもそうですが、何らかの効果や影響を調べるためには、比較が必要になります。
本作ではこの比較がいくつかの場面で効果的に用いられています。

まずはゴドウィンがベラを創り出したのは、もちろん死者を蘇生させる医学的にはタブー視されるものへの挑戦などもあったかもしれませんが、それ以上に、社会の通念や価値観などを押し付けられないで育った人がいかに優れた人物になるかを証明したかったのではないでしょうか。
ゴドウィンは自分で子どもを作れない体質のため、かつて父親がしたように自分の子どもを実験対象にすることはできない。そんな中でベラ(ヴィクトリア)の検屍をすることになったのはまさに絶好の機会だったのでしょう。

そして映画オリジナルのフェリシティもまた、ベラとの比較対象となる存在です。
ベラが不在となってゴドウィンとマックスは新たにフェリシティという女性を実験対象とします。
彼女の出自などは詳しくは説明されなかったと思いますが、おそらくはベラと同様なのでしょう。
ただ明らかにベラほどの知性を感じさせない状態に留まっています。これにはゴドウィンやマックスの愛情のかけ方などに違いがあった可能性もありますが、それ以上に、やはりベラは自身の持っていた才覚や好奇心などによってあのような成長を遂げたのではないでしょうか。ベラを女性とか、実験対象とかではなく、一個人として優れた人物であることを示しているという印象を持ちました。

マックスとダンカン、アルフレッドもまた実に対照的です。
ルフレッドについてはネタバレになってしまうのですが、ベラの母親というか元の体はヴィクトリアという女性なのですが、その夫になります。アルフレッドの元から逃げ出して入水自殺を図ったということになっています(原作ではそのあたりのエピソードもしっかり書かれています)。

マックスはベラと婚約をするのですが、その直後にダンカンと駆け落ちをします。
マックスはベラを一人の女性として愛しているのに対し、ダンカンは最初は一時の遊び相手としか考えていません。
その後、パリで一文無しになってしまったベラは娼婦として働くのですが、ダンカンは自分が愛した人がそのような職業についたことを批判するのに対し、マックスは娼婦になったことで複数の男(ダンカンも含む)に抱かれたことに嫉妬をします。
ダンカンの中だけでもベラに対する捉え方が序盤と終盤でかなり違っているのもまさに彼女の変化の現れでしょう。
そしてアルフレッドはあくまでも彼女を自分の配偶者、と言えば聞こえは良さそうですが実質は所有物とみなしている印象です。アルフレッドの顛末も映画オリジナルですが、ここにもまた比較が描かれています。このように全体を通して比較対照を映し出すことで、この映画の実験的要素を強調しているとも言えます。


誰が「哀れなるものたち」なのか ―タイトルの意味についての考察―(ネタバレあり)

タイトルの「哀れなるものたち」は、原作においては原作者がマックスの著作物を出版する際につけたことになっていて、その理由としては、マックスの著作物内でベラがしきりに「哀れな・・・」と口にしているからとしています。つまりはベラの視点で捉えたものであることが分かります。
映画でも明らかな哀れなるものは、まずはダンカンでしょう。駆け落ちの初期の段階では自分が優位に立っていると思ったのがいつしか形勢逆転して、名誉もプライドも財産も失ってしまうのですから、まさに哀れな存在に映ったのでしょう。
そして、アルフレッドもまた哀れなるものです。映画ではあまり描かれていませんが、過去の栄光に囚われ、男尊女卑で昔ながらの家柄や慣習に固執しています。
原作だとさらにマックスもまた哀れなるものと捉えているような記述も出てきます。
確かにベラの急速な成長、進化を考えれば、あらゆる人が哀れなるものに見えてくるのかもしれません。
一方、別の視点でも捉えることができます。ベラは赤子の脳に母親の肉体という形で誕生しているので、マックスと出会った初期の頃はその成長が追いついていません。あたかも何らかの知的な障がいを持っているように映ります。またゴドウィンもその見た目から周囲に避けられたり怖がられたりする存在でした。傍から見れば哀れなるものたちはこの2人のようにも見えるのですが、それが最終的には崇高な存在となっていくので、映画の前半と後半で気持ちの良い逆転現象を見られるのも本作の醍醐味であると言えます。

また、poor thingsという原題から、哀れなるものたちの、"もの"が必ずしも人物ではない可能性もあります。日本語でも、"もの"は人物を指す"者"と、様々な物体などを指す"物"が含まれるので、この邦題も素晴らしいと思いますが、thingとなるとさらに幅広く、何らかのこと、事態、考え方なども含みます。
誰かというよりは本作全体を通じて出てくる旧態依然とした考え方、生き方、そういったもの全てに向けて、哀れなるものとしているのではないでしょうか。

 


ワンポイント心理学 ―発達心理学

心理学の分野で発達心理学というものがあります。これは人間(動物まで含むこともあります)の生まれてから死ぬまでの様々な心身の変化を対象とした心理学のことです。
身体的な発達で言えば、生後6ヶ月ぐらいからはいはいができるようになり、1歳になる頃までにつかまり立ちができるようなり、1歳半~2歳頃には歩けるようになります。
言語的な発達で言えば、1歳以前は、「あー」「うー」「ばぶー」などの意味をなさない発話のみで喃語(Babbling)と言われています。その後1歳半~2歳頃に、「パパ」「ママ」「ブーブー」などの意味のある言語の発話が出てきて、これらはいわゆる初語と呼ばれています。これが徐々に動詞なども組み合わさってきて2語文、3語文と形成されていきます。
認知的な発達はそれらと比較してかなり早く、生後一週間ほどで視覚刺激の区別をつけられると言われています。映画でも途中からカラーに変化しますが、色覚の発達は2、3ヶ月程度で赤、黄、緑などの代表色を識別できるようになり、4,5ヶ月たつとほぼ大人と変わらない色覚が身につくとも言われています。
もちろん本来であれば身体的な成長と心理的な成長は並行して進んでいくのですが、ベラの場合は身体的な成長はほぼ終了している状況で脳が1から成長していくというので、ゴドウィンならずともどのような成長過程を遂げるのかは興味深いところですね。

映画「ある閉ざされた雪の山荘で」感想 ―東野圭吾30年前の新境地―

 

「ある閉ざされた雪の山荘で」概要と感想

東野圭吾の同名小説の映画化。
7人の若手役者が次回作のオーディションのため、とある山荘に集められる。大雪で閉ざされた山荘で起こる連続殺人事件というのが次回作の設定で、事件を解決したものが次回作の主役だと告げられた7人は、訳がわからないままオーディション合宿がスタートするが、1人、また1人と姿を消していき・・・。

監督は、「荒川アンダー ザ ブリッジ THE MOVIE」「宇宙人のあいつ」の飯塚健
主要キャストは、重岡大毅間宮祥太朗中条あやみ岡山天音西野七瀬、堀田真由、戸塚純貴、他。

自分のX(旧Twitter)に投稿した一言感想はこちら。

東野圭吾と言えば、探偵ガリレオシリーズを始め、多くの作品が映画化、テレビドラマ化されておりますが、本作でおそらく23本目の映画化作品となります。原作は未読で、読んだ方の感想などをネットでチェックした程度です。
今回は新感覚ミステリーということで、"謎解き"、"全てが伏線"、"驚愕のラスト"などややもすれば誇張しすぎな謳い文句が並んでいることで、良い方面でも悪い方面でも期待をしていたのですが、正直、ミステリー作品としてはイマイチという印象でした。

1つ目の要因として、やはりミステリー作品としては、フーダニット(誰が犯行を行ったか)を軸にしてもらいたいという点です。犯人探しに重きを置いていない作品もたくさんありますし、それでも傑作と言われているものもあることは重々承知しているのですが、本作においては、次回作の主役を勝ち取るための条件ともされているので、やはり「犯人は誰か?」は主軸にしてほしかったという印象でした。

2つ目の要因として、本作の出来事がオーディションにおける演技なのか、それとも実際に起きている殺人なのか、というのがキーになっているのに、そのバランスの緊張感が全くないという点です。
このあたりはネタバレなしで解説するのは難しいのですが、仮に演技だとしても実際に事件が起きているのだとしても、事件を解決しようという動きを見せてほしいところなのですが、せいぜい動くのは語り部でもあり本作では一応の探偵役とも言える久我和幸(重岡大毅)ぐらいで、それでもビデオカメラを仕込んだり、消去法的にアリバイを確認したりする程度です。

3つ目は映画的、視覚的な演出としてのマイナス面です。このオーディションを計画したとされる演出家からのメッセージが、プロジェクション・マッピングよろしく山荘の壁に大々的に映し出され、建物内のどこにいても聞こえそうな音量でナレーションも入ります。正直これは予告編だからわかりやすく映し出しているのだと思っていたら本編にも出てきたのであっけにとられてしまいました。この演出も上記のバランスを考えるとマイナスだった気がします。それ以外にも"視覚的に"分かりやすすぎる表現が多すぎて、見ている側に思考や想像の余地を残していないのが残念でした。

とはいえ、映画として十分鑑賞に値する部分もたくさんあります。
まずはやはりキャストの魅力でしょう。
本作は、重岡大毅間宮祥太朗中条あやみと映画やテレビで活躍中の若手役者がずらりと出演しています。演じているのが役者で、舞台設定も山荘でのオーディションというパーソナルな空間になっていることで、演技というよりは素のキャラクターという雰囲気も感じ取れます。とりわけ中条あやみの美顔体操とかシャドーボクシングとか可愛らしさ満載になっています。自分の好きなキャストに入れ込むことができるのはこうしたアンサンブル作品ならではでしょう。

もう1点、本作を映画化して良かったと断言できる点としては、映画オリジナルのラストです。
原作自体、構成としてはこれまでにない、まさに新感覚のミステリーになっているのですが、映画ではさらに仕掛けを用意しています。原作を読んでいないのでどちらが良いかといった比較はできませんが、未見の方はぜひ映画の方もご覧いただけたらと思います。自分も原作を読んでみようと思っています。

東野圭吾作品と映画化について

先述したように東野圭吾作品は話題作が多いこともありとかく映像化も多い印象です。
本作の宣伝で、「作品の累計発行部数が1億部を突破!」とも書かれていますし、映画に絞ったところで本作で23作を数えるのですから、その人気も頷けるところです。

ただ、昨今の映像作品化における原作の問題が取り上げられていることもあって、奇しくもそのやり取りの中で東野圭吾氏の名前もおそらく不本意な形で出てきていることもあるので、同氏が映像化についてどのように考えているのかは気になるところですが、本作の公式サイトにもコメントを載せていますし、概ね(映像は別物と達観した捉え方をされている場合も含めて)好意的に捉えているのではないでしょうか。

自分も映画・原作どちらとも見ているものもあれば、どちらかのみというのもあるのですが、映画化された東野圭吾作品をいくつかピックアップしてみたいと思います。

 

「秘密」(1999)
滝田洋二郎監督、広末涼子小林薫主演のドラマ。
妻と娘がバス事故に遭い、妻は死亡してしまうが娘は一命を取り留める。しかしそれは娘の体に妻の魂を宿した状態だった。体は娘、心は妻という状態に戸惑いながらも生活をしていくが、ある日、娘の心が出てきて・・・。
東野圭吾出世作にして、初めて映画化された作品です。
ファンタジックなラブストーリーとして非常に良くできていました。
ちなみに「ある閉ざされた雪の山荘で」は1993年の作品で「秘密」よりも前だったんですね。

 

 

レイクサイド マーダーケース」 (2004)
青山真治監督、役所広司薬師丸ひろ子柄本明豊川悦司主演のサスペンス。
子どもの中学受験のための勉強合宿に集まった3組の家族。そのうちの一人俊介は妻・美菜子と別居中だったが渋々合宿に参加することに。その場に俊介の仕事仲間で不倫相手の英里子がやってくる。その夜、英里子が殺され、妻の美菜子は「自分が殺した。」と言うのだが・・・。
すでに殺人が行われ犯人も自供している中で、子どもの受験のために事件を隠蔽するかどうかという形で進行していく異色のミステリーで、当時稀代の青山監督の作品ということで話題にもなったが、謎要素の追加と衝撃のラストシーンで一気に珍作に。

 

「手紙」(2006)
生野慈朗監督、山田孝之玉山鉄二沢尻エリカ主演の感動ドラマ。
直貴はリサイクル工場で人目を避けるように働いていた。というのは、彼の兄・剛志が弟の大学進学の学費のために強盗殺人を犯してしまい現在も服役中だったからだ。兄からの手紙で素性がバレてしまった直貴は工場をやめ、夢だったお笑い芸人の道を目指すのだが・・・。
加害者家族に焦点を当てた作品として印象的だが、今にして思えば色々設定に無理があって、力技で感動ドラマに結びつけた感じはあります。

 

容疑者Xの献身」(2008)
監督西谷弘、福山雅治柴咲コウ堤真一松雪泰子主演のミステリー。
探偵ガリレオシリーズの一作で、TVドラマシリーズを経ての映画版第一弾。
身元不明の死体が上がり、容疑者として弁当屋をしながら子どもを育てていた花岡靖子が浮上する。しかし彼女には完璧なアリバイがあり警察の捜査は手詰まりとなってしまう。内海は物理学者の湯川に相談したところ、湯川は花岡の隣人にして、かつて湯川と並ぶほどの天才数学者だと言われていた石神に注意を向けるが・・・。
ミステリーとしての完成度、ドラマ性、全てにおいて群を抜いている作品。
目下東野圭吾作品で興行収入ナンバーワンというのも大いに頷けますね。

 

白夜行」(2010)
深川栄洋監督、堀北真希高良健吾主演のサスペンス。
容疑者死亡によって幕引きとなった事件の容疑者の娘・雪穂と被害者の息子・亮司。やがて大人になり美しく成長した雪穂だったが、彼女の周りでは不可解な事件が起こり・・・。
綾瀬はるか山田孝之主演で先にTVドラマ化もされているが、文庫本で800ページ超の大作なだけに映画はかなりダイジェスト感が強かった印象なので、ドラマ版の方が良かったですね。

 

祈りの幕が下りる時」(2017)
福澤克雄監督、阿部寛松嶋菜々子溝端淳平主演のミステリー。
日本橋署に赴任してきた"新参者"の刑事、加賀恭一郎の活躍を描いて話題となったTVドラマシリーズの映画化第二弾にして完結編。
東京の下町のアパートで女性の絞殺死体が発見される。アパートの家主は行方不明だったが、捜査線上に加賀の知り合いの舞台演出家・浅居博美が浮上してきて・・・。
東京の下町という舞台設定、2つの事件の交錯、そしてシリーズ通じて謎となっていた加賀のルーツの話も出てきて、まさに映画化作、完結作にふさわしい出来でした。
浅居博美役は松嶋菜々子なのですが、過去の博美役を桜田ひより→飯豊まりえ、と演じているので、やっぱ超きれいだな。

 

「マスカレード・ホテル」(2018)
鈴木雅之監督、木村拓哉長澤まさみ主演の群像劇。
連続殺人事件の舞台として予告された高級ホテルに潜入捜査をすることになった刑事と、彼の指導係となったホテルスタッフのヒロインを中心に、一癖も二癖もある客たちの中から犯人を探そうとする姿を描く。
オールキャストの豪華さもさることながら、木村拓哉の刑事としての立ち位置と長澤まさみのホテルスタッフとしての立ち位置のぶつかり合いが面白くも見応え十分。
続編の「マスカレード・ナイト」も映画化され、探偵ガリレオシリーズと双璧をなすとも言える人気作。

 

他にもあるんですけど、自分としては作品の完成度、評価はかなりマチマチですが、とにかくジャンルの幅広さ、そして今回のレビューの「ある閉ざされた雪の山荘で」もそうですが新境地へのチャレンジが感じられる作品が多いのが印象ですね。
確か「g@me」の原作「ゲームの名は誘拐」のあとがきだったと思うのですが、原作では「○○は流暢な英語を話し・・・」と書けば良いだけなのに、それを実践してみせる俳優さんがすごいというような内容
だったので、やはり映像化に関しては好意的に捉えられているのでしょう。
今後の作品にも期待したいところです。


ワンポイント心理学 ~現状維持バイアス

自分がよく行くレストランで定番のメニューがあるといつもそれを頼んでしまうことはありませんか?
人は、選択や意思決定の場面において、自分が未経験のものやしたことがないこと、全く新しいものなどを受け入れることを恐れ、いつもどおりの定番のものを選択したり、今の状況を継続したりする方を好む傾向のことを、現状維持バイアスと言います。
このような傾向が見られる要因としては、未知なもの、新規なものを選択することで、どういう結果を生じるか分からないというリスクが生じることが上げられます。もちろん思わぬ良い結果を生む可能性も大いにあるのですが、人はリスクを恐れる傾向があるため、少なくともどのような結果になるかが分かっている現状維持の選択を好むということになります。とりわけ安定志向の強いとされる日本人の多くは、この傾向に囚われがちです。

現状維持バイアスは、この傾向を知ってもなお、影響を受けやすく現状維持の方を好みやすいという頑強さを持っています。それゆえ克服するのは非常に難しいのですが、現在は非常に多くの他者の情報、感想、意見をインターネットを通じて入手しやすくなっていて、これを利用することで自分とは異なる視点で物事を捉えることが可能になります。たとえば上記のレストランの例でも、飲食店評価のサイトなどで様々なレビューを簡単に見ることが可能で、もしかしたら自分がよく行っているレストランの隠れた美味しいメニューを見つけることができるかもしれません。

映画の感想でも、東野圭吾作品に限っても自分の評価はすごく面白いものから微妙ものまで多岐に渡っていますが、見る人が変わればまた評価も一変するかもしれません。

当の東野圭吾氏はこれだけ果敢に他ジャンルにかつこれまでにない新境地を切り開こうと尽力されているので、こうした現状維持バイアスには囚われていないのかもしれません。
これは多様性の認識が求められている現代においては非常に重要なことだと思います。

自分もリスクを恐れず、これからも色々な映画を見ていく所存です!

映画「ゴールデンカムイ」感想― 人気原作の映画化におけるライトスタッフとは

 

ゴールデンカムイ」概要と感想

 

野田サトルの同名コミックの実写映画化。
明治初期の北海道を舞台に、元陸軍兵士で不死身と恐れられた杉元と、アイヌの少女アシㇼパが、それぞれの目的でアイヌ埋蔵金の争奪戦に身を投じていく。

監督は「HiGH&LOW」シリーズの久保茂昭
脚本は「ライアーゲーム」「キングダム」シリーズなどで知られる黒岩勉
主要キャストは、山崎賢人、山田杏奈、矢本悠馬玉木宏舘ひろし

自分のX(旧Twitter)に投稿した一言感想はこちら。

 

原作は累計2700万部を超える大ヒット作で、2014年に連載がスタートし、2022年に単行本31巻で完結しています。
自分は原作のファンで、展覧会、脱出ゲームにも行っています。
ですので原作ファンの目線という形での映画評価になりますが、結論から言えば、実写化としては大成功の部類に入るのではないでしょうか。

まずは全体の構成ですね。
物語の軸となる部分としては、杉元とアシㇼパ、鶴見中尉率いる陸軍第7師団、そして土方歳三の一派の三つ巴によるアイヌ埋蔵金争奪戦なので、映画化ともなるとこのエピソードばかりがピックアップされてしまうのではないかと思っていたのですが、そんなことはありませんでした。

1点目は、冒頭に出てくる日露戦争二百三高地における戦いのシーン。
これは杉元が"不死身の杉元"と呼ばれる所以にもなったエピソードにつながるのですが、映画化に当たっては短いシーンをフラッシュバックのように入れる程度にするのかと思っていたのですが、しっかりと描いていました。

2点目は、杉元がアシㇼパと共にアイヌの里を訪れるシーン。
ここではアシㇼパのルーツに触れるとともに杉元が彼女を血なまぐさい戦いの世界に連れて行くわけにはいかないと決別を考えるところなのですが、しっかり尺を取ってアイヌの他の人々のキャラクターや生活ぶりを描いている印象でした。

3点目は、食事のシーンです。
杉元とアシㇼパはアイヌの料理を食べるシーンが原作でもかなりたくさんあって、一時はグルメ漫画なのか?とすら思うほどだったのですが、それは映画でも健在でした。
チタタプは肉や魚のたたきに当たるアイヌ料理ですが、リスの脳みそなどいわゆるゲテモノ料理系のものもあって、そのシーンも再現していました。
アシㇼパも杉元の持っていた味噌をオソマ(ウンコ)といって敬遠していましたけどね。

こうしたメインストーリーとは別の部分にもしっかり焦点を当てていたのが好印象でした。

もちろんメインとなるアイヌ埋蔵金争奪戦も物語的には序盤部分ではありますがしっかり描かれています。導入の杉元とマキタスポーツ扮する後藤竹千代とのやり取りから網走監獄の脱獄囚の入れ墨に埋蔵金の隠し場所が示されていることが分かる導入からクマの襲撃、雪山や犬ぞりでのバトルとアクションシーンもしっかり盛り込まれていて、このあたりは原作を知らない人でも楽しめるのではないでしょうか。

そしてキャストも原作のイメージを損なわないどころか、より昇華させるようなキャラクターとして演じられています。
杉元役の山崎賢人はとかく漫画原作のキャラクターを演じることが多く、その度にいわれのない批判を受けている節もあり、本作でも同様でしたが、細マッチョな体型にビルドアップしているだけでなく、特に先述した二百三高地での戦闘シーンでは狂気を孕んだ凄みを見せつけてくれて、まさに不死身の杉元でした。
アシㇼパ役の山田杏奈も演じるには年齢が高すぎると言われていましたが、映画としてみて全く違和感はないどころか凛とした雰囲気はまさにアシㇼパそのものですし、何よりあの"変顔"もしっかり再現してくれたところが素晴らしいです。
そして、何と言っても鶴見中尉扮する玉木宏でしょう。原作者の野田先生も唯一リクエストしたキャストだったらしいですが、狂人的なキャラの多いゴールデンカムイでも1,2を争うレベルの鶴見中尉はともすれば漫画チックになりすぎる気がしますが、絶妙なバランスで表現してくれていたと思います。

原作にもかなり忠実で、何より映画製作陣の原作愛やリスペクトが感じられるというのが何よりこの映画の完成度の高さにつながっているのではないでしょうか?

映画をご覧になった方はぜひ原作を読んでほしいです。
そして原作ファンの方も安心して映画を見てみてください。

 

 


人気マンガ・小説の映画化の是非

自分が「ゴールデンカムイ」を鑑賞したのと前後するぐらいの時期に、「セクシー田中さん」の原作者・芦原妃名子さんが自ら命を絶つという悲劇的な事件が起きてしまいました。その背後には、同作品のTVドラマ化に当たって原作者が意図しない、望まない改変があったことが1つの要因とされています。

おそらく原作のファンにとって、自分の好きな作品がTVドラマや映画として映像化されることを手放しで大歓迎するという人はいないのではないかと思っております。
自分は映画が大好きなので映画になってくれること自体は嬉しいですが、やはり自分が好きなマンガや小説の映画化となると原作のイメージを損なうことを恐れてしまいます。
ちなみに自分はすでに原作を読んでいた場合を除いて、映画化が決定した場合は必ず映画→原作の順番で見るようにしています。

1ファンですらそのように思うので、作品を自分の子どものように大切なものだと考えている原作者からすればなおさらでしょう。

TVドラマや映画の製作サイドとしては、人気のマンガや小説が原作となっていることで、作品のイメージを視覚化しやすいだけでなく、物語の骨子がしっかりしている、原作の固定ファンによってある程度の評価が保証されるなどのメリットが多く、0から創作するよりもはるかに楽でリスクも少ないものとなっています。
かつ原作者に支払われる使用料も作品の興行収入から考えるとかなりかなり安価で、有名どころで言えば、興収50億円以上だった「テルマエ・ロマエ」の原作者のヤマザキマリさんが原作使用料が100万円だったことを仰っていましたし、今回の「セクシー田中さん」の件でもまた名前が取り上げられた佐藤秀峰さんは、映画化されたシリーズ4作品で200億近い興収となった「海猿」で200万円程度だったことを吐露しています。
もちろんメディアミックスによって原作の売れ行きが向上することも考えられますが、それ以上に相対的には少しのお金で原作を改変されてしまうことは原作者としてはデメリットが大きくなってしまいます。
「セクシー田中さん」はTVドラマなので映画よりも原作使用料が安いことが推測されますし、こうした思いがなおさら強かったのかもしれません。

 

海猿 完全版 1

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人気原作の映画化におけるライトスタッフ

自分は映画が好きで、映画も原作も両方好きな作品もあれば、残念ながらそうではない作品もあります。
ただ、原作>映画という作品はあっても、原作を超えた映画というのはぱっと思い当たるものがありません。そこで、人気の原作を元に映画化する場合にはどのような点が重要なのかを自分なりにまとめてみたいと思います。

1. 原作にある程度忠実であること

まずはやはりこれでしょう。今回の「セクシー田中さん」の問題でもやはり原作者の意図しない内容での改変があったことが一因でしょうし、原作者、原作のファンとも出来上がった作品に納得ができないとしたら、この点にあると言えます。
ただ個人的には原作を完全忠実に映像化するということまでは必要とは思っておりません。それならば映像化する意味も弱まってしまうと思っています。TVドラマや映画ならではの部分があっても良いと思いますが、それはあくまで原作を尊重できる範囲内でのことに限られます。
例外的だと思うのは、「DEATH NOTE」で、映画では2部構成で製作されていて、原作のL対キラ編を映画化しているのですが、映画オリジナルのラストになっていて、原作とは違いますがこれはこれで一見の価値ありだと思いました。

2. キャストが原作のイメージを極力壊さないこと

キャストもやはり重要です。メディアミックスとして(少なくとも興行的には)うまくいった例としては、最近では「るろうに剣心」シリーズ、「キングダム」シリーズなどが該当すると思いますが、いずれも原作のイメージから大きく離れないキャストになっています。
これまた例外的だと思うのは、「ちはやふる」の主人公・千早を演じた広瀬すずでしょうか。この作品では、他のキャストは比較的原作のイメージ通りなのですが、広瀬すずはそうではありませんでした。公開前のポスターを見たときも"広瀬すず感"が強すぎるのもあってイメージとはだいぶ違っていたのですが、映画として動いている映像を見たときに、動的な姿としてはまさに千早という印象でした。
また、原作からキャラクター、特に性別を変更した例もいくつかありますが、海堂尊原作の「チーム・バチスタの栄光」の映画版がまさにそれです。不定愁訴外来の田口先生と厚生省の破天荒な役人・白鳥のバディものでもある同シリーズで、田口先生は原作では男性ですが、映画版では竹内結子が女性キャラとして演じています。それで特に違和感を感じるわけでもなく、キャラクターとしてもあっていたように思います(TVドラマ版では伊藤淳史が演じていてそれはそれで適役だったとも思いますが)。
東野圭吾原作のガリレオシリーズでも、物理学者の湯川学のバディとなるキャラクターがTVドラマや映画では柴咲コウが演じる内海薫という女性の刑事になっていて、原作でバディだった草薙も出演はしますが薫の上役という形で一歩引いた立ち位置になっています。ちなみに内海薫は当初は原作にはいなかったのですが、映像化を経てシリーズの後半では原作にも登場するようになりました。
このように、映像化にあたって、より良くするためであろう改変がうまくいった例もあるのです。

 

3. 原作ダイジェストにならないこと

これは特に原作がマンガの場合、かつそのマンガが長期連載の作品の場合には、2時間の映画に収めようとするとどうしても無理が出てしまい、結果としてダイジェストのようになってしまうことが懸念されます。
原作のコミック単行本が全27巻ある荒川弘原作の「鋼の錬金術師」は映画では3部作で描こうとした結果、ストーリーの展開が早すぎて原作を読んでいない人には理解できない部分も出てきてしまうなどの問題もありました。
浦沢直樹原作の「20世紀少年」もキャストは概ね原作のイメージ通りで素晴らしかったのですが、通算で単行本23巻の原作をやはり映画で3部作構成としたため、駆け足感は否めませんでした。
対して、「キングダム」は原作と完全一致しているわけではありませんが、基本は忠実に映画化されている印象ですし、「るろうに剣心」シリーズは作品の中でも特定のエピソードに絞っての映画化をしていました。
そして「ゴールデンカムイ」も原作では1~3巻相当の内容を丁寧に描いているのが、原作ファンからしても大いに満足できる要因でしょう。
目下のところ心配なのは最後まで完結するのかですが・・・。

 

キングダム

キングダム

  • 山﨑賢人
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ワンポイント心理学 ~ゲイン・ロス効果~

人気原作の映画化作品を見るに当たって、見る側の注意すべき点としては、「過剰に期待しないこと」でしょう。
原作が好きすぎるとどうしてもハードルを高く設定してしまいますが、それゆえ実際に映画化されたものを見たときに、期待外れと感じてしまうことが多くなってしまいます。
個人的に映画をたくさん見ている方だと思いますが、それでもやはり原作を超える映画というのはぱっと思い当たるものがありません。
反対に、事前の期待がそれほどでなかった場合に、映画化されたものを見たら案外良かったという経験はたくさんあります。
例えば、2022年末に公開され昨年大ヒットとなった「THE FIRST SLUM DUNK」は、公開までに情報が少なかったこともあってか事前評価はあまり高くはありませんでしたが、蓋を開けて見れば評価は総じて高く、ロングラン大ヒットを遂げています。
ゴールデンカムイ」も公開前にキャストが発表されたりビジュアルイメージが先行公開された段階では決して評判はよくありませんでした。それでも試写から公開にかけて評判が向上していき、現在も絶賛公開中となっています。
心理学では、最初に好意的な評価だったものが否定的な評価になることで、相対的に否定的な評価が高まることをロス効果と呼び、それとは反対に最初は否定的な評価だったものが好意的な評価に転じることで、相対的に好意的な評価が高まることをゲイン効果と呼びます。両方をあわせてゲインロス効果と言い、安定した評価よりも評価の変化の方に敏感に反応しやすいことを示しています。元々は対人場面における評価で証明された効果ですが、様々な事象にも当てはまることが知られています。
ですので、人気原作の作品は、あまり過剰な期待はせずに映画を鑑賞することをオススメします。

MOVIE OF THE YEAR 2023 -外国映画編-

気がついたら2024年も1ヶ月以上経ってしまいましたが、引き続き、MOVIE OF THE YEAR 2023 -外国映画編-をお送りします!

 

10位:ヒンターラント
オーストリアルクセンブルク

 

監督:ステファン・ルツォヴィツキー
出演:ムラタン・ムスル、リヴ・リサ・フリース、マックス・フォン・デル・グローベン他

ヒトラーの贋札」のステファン・ルツォヴィツキー監督が、第一次大戦後のウィーンを舞台に描いたクライム・ミステリー。
第一次世界大戦が終わり、帰還兵としてウィーンに戻ってきたペーターだったが、敗戦によって変わり果てた国に居場所はなかった。そんな折、帰還兵ばかりを狙った連続殺人事件が発生し、ペーターは法医学博士のテレーザとともに捜査に乗り出すのだが・・・。

第一次大戦後ということで現在から100年ほど前という設定ですが、全編ブルーバックで撮影され、絵画のようなグラフィックを背景にあわせていることで、独特の世界観を演出するのに一役買っています。
事件の被害者の共通項は、帰還兵であるということで、自身も帰還兵である元刑事のペーターが事件の謎に挑むのですが、事件の真相が明らかになるにつれ、主人公の状況もはっきりしてきて、最終的に迫られる究極の選択、という展開も素晴らしい作品でした。

 

ヒンターラント

ヒンターラント

  • ムラタン・ムスル
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9位:死霊館のシスター 呪いの秘密
アメリカ)


監督:マイケル・チャベス
出演:タイッサ・ファーミガ、ジョナ・ブロケ、ストーム・リード、他

死霊館」のスピンオフ「死霊館のシスター」の続編。本編にも出てきたシスター・ヴァラクにスポットを当てたホラー。監督は「ラ・ヨローナ ~泣く女~」「死霊館 悪魔のせいなら、無罪。」のマイケル・チャベス
フランスでの神父の怪死事件を皮切りに、ヨーロッパ全土に広がった殺人事件の調査に派遣されたシスター・アイリーンらに待ち受ける恐怖を描く。

 ウォーレン夫妻が様々な霊的現象と対峙する「死霊館」シリーズは、実在の人物、実際にあった事件をベースとしているだけあって、ドキュメンタリーのように真に迫る怖さを持っている作品です。そのシリーズの「死霊館 エンフィールド事件」で初登場したのがシスター・ヴァラクで、自分が最初に同作品を見て思ったのが、「マリリン・マンソンやん!」でしたが、本作は、そのシスター・ヴァラクそのものにスポットを当てた「死霊館のシスター」の続編になります。
死霊館」シリーズと比較すると、シスター・ヴァラクとの対決がメインに来ているので、そういう意味ではバトル映画と言っても良いんじゃないでしょうか。
さらに、シスター・ヴァラクの登場シーンもただ怖がらせるだけじゃないこだわりを見せていて、これはもはやアート映画と言っても良いんじゃないでしょうか?
そして、もちろん普通に怖いので、ホラー映画としても十分に魅力的となっています。よくあるジャンプスケア的演出に頼ることなく、またホラーの常套手段的な展開からも微妙にずらしているところもあって、ホラー映画に見慣れた諸氏も満足させる完成度となっている一本です。

死霊館のシスター 呪いの秘密

死霊館のシスター 呪いの秘密

  • タイッサ・ファーミガ
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8位:デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム
(ドイツ・アメリカ)

監督:ブレット・モーゲン
出演:デビッド・ボウイ、他

くたばれ!ハリウッド」「ジェーン」のブレット・モーゲン監督によるデヴィッド・ボウイ財団初の公式認定ドキュメンタリー。
財団所有の未公開映像も含むアーカイブ映像から、デビッド・ボウイの生涯を綴っています。

デビッド・ボウイ財団の公式認定ということもあり、デビッド・ボウイに関連する映像を利用する自由度がかなり高くなった本作。とはいえ、本編全てがデビッド・ボウイ自身のコメンタリーや自身へのインタビューであったり、ライブや舞台、映画の映像、街でのオフショットなど、とにかくデビッド・ボウイ本人を捉えたものであって、第三者へのインタビューやコメントなどが一切ないのが特徴です。
グラム・ロック、ポップ・ロック、ダンス・ロックなど時代時代を経て音楽だけでなくビジュアルイメージも変化していく様をまさに追体験できる作りになっています。
そして、音楽以外でも、アメリカ、ドイツ、そして日本にも一時期滞在していて、その場所その場所で新しい文化、伝統を取り入れ、それを音楽を含めたアートワークへと昇華していく様は、彼のルーツを辿る旅とも言えます。死去する直前にリリースされたラスト・アルバム「ブラックスター★」と同様に、未来にまで残されて語り継がれていく1本です。

 


7位:キリング・オブ・ケネス・チェンバレン
アメリカ)

監督:デヴィッド・ミデル
製作:モーガン・フリーマン
出演:フランキー・フェイソン、スティーヴ・オコネル、他
声の出演:アニカ・ノニ・ローズ

2011年に実際に起こったケネス・チェンバレン事件の映画化。
双極性障害を患う黒人男性のケネス・チェンバレンは、医療用通報装置を誤作動させてしまい、状況確認のために警官がやってくる。困惑するチェンバレンだったが、警官に対する嫌悪感からドアを開けることを拒み続けた結果、警官たちもエスカレートしていき・・・。

実話が元になった作品は良くも悪くもドラマ性や盛り上がりに欠ける部分があったり、また事実を知っていれば結末も分かっていることが多いため想像の範疇に収まるものであったりすることもよくありますが、本作は決してそんなことありません。
最初の通報から最終的にケネス・チェンバレンが命を落とすことになるまでの約90分間、映画の上映時間も83分とそれとほぼ同一で、まさにリアルタイムで進行する物語となっています。

医療用通報装置の誤作動がきっかけで警官がやってくる。
警察に良い印象を抱いていないチェンバレンはドアを開けることを拒否する。
ドアを開けないことで武器を隠しているかも、誰かを監禁しているかも・・・。
と、アパートのドアを挟んで廊下と室内、それと窓の外の風景がちょっと映るぐらいの極めて限定的な環境で、状況だけがどんどんエスカレートしていきます。
見ている側はまさにこれを同時進行で体験する感覚なので、「もっと落ち着いて説明すればよいのに。」とか「駆けつけた家族の話を冷静に聞けばよかったのに。」「警察も保険会社や病院に確認すればよいのに。」とかを思い巡らせることになります。
それが見ている側にも緊迫感をもたらす要因となっており、それゆえ質の高いドラマになっています。
きっかけは勘違いや思い込み程度だったとしても、そこに偏見や差別の意識が加わってしまうことで、最悪の結果を導いてしまうというのは、まさに集団の負の影響で、「福田村事件」でも描かれていました。ちょっとしたボタンの掛け違いが生む悲劇のドラマがあまりにも痛切でした。

 


6位:長ぐつをはいたネコと9つの命
アメリカ)

監督:ジョエル・クロフォード
声の出演:アントニオ・バンデラスサルマ・ハエックオリヴィア・コールマン、    フローレンス・ピュー、他

ドリームワークス製作の人気アニメ「シュレック」に登場するキャラクター、長ぐつをはいたネコこと、プスの活躍を描いたシリーズ第2弾。
9つあると言われていた命が残り1つとなってしまったプスは、どんな願いでもかなうという"願い星"を探し求めて冒険の旅に出るが・・・。

前作「長ぐつをはいたネコ」では、声を担当しているアントニオ・バンデラスそのままにアニメ版の「マスク・オブ・ゾロ」といった雰囲気の軽妙なアクション・ミュージカルという様相でしたが、本作は死生観という重いテーマを取り入れているのが印象的です。残り1つの命になって死を恐れるようになったプスは普通の家ネコとしてひっそり生きていくことを決意するのですが、ここで多くのネコを保護している女性ママ・ルナの元に行くのですが、ここではプス以外のネコがいわゆる普通のネコとして描かれているのも面白いですね。
そしてそこで出会うワンコ・ペリットもまたインパクトのあるキャラです。
ネコのふりをしてママ・ルナの家に一緒に保護されていたのですが、彼の純粋さ、無邪気さがプスを幾度も救うことになります。
終盤は、再び冒険の旅に出るプスと、同じく"願い星"を狙うゴルディとクマ一家、ジャックと三つ巴の戦いになっていく展開で、アクション・アドベンチャーとしても盛り上がっていく構成になっています。
プスのさらなる冒険に期待せざるをえないのです。

 


5位:PERFECT DAYS
(日本・ドイツ)

監督:ヴィム・ヴェンダース
出演:役所広司柄本時生、中野有紗三浦友和石川さゆり、他

パリ、テキサス」「ベルリン・天使の詩」の名匠ヴィム・ヴェンダース監督が日本を舞台にしたドラマ。下町のアパートで一人暮らしをしている中年男性の平山。毎朝決まった時間に起床し、軽自動車でお気に入りのカセットテープを聞きながら、公衆トイレの清掃に赴く。仕事が終わるとなじみの銭湯、行きつけの居酒屋と巡り、読書をしながら床につく。そんな日々だったが姪っ子のニコが突然やってきて・・・。

ヴィム・ヴェンダース監督と言えば、「さすらい」や「パリ、テキサス」に代表されるようにロード・ムービーの名匠として知られていますが、一方で、小津安二郎に傾倒していたように日本に対しても特別な思い入れがあるとのことで、誕生したのが本作です。

描かれているのは、公衆トイレの清掃を仕事としている中年独身男性の日常。
ストーリーだけだと何が面白いのか?と疑問に思われるかと思いますが、このプロットからヴィム・ヴェンダース流の演出によって、心に残る作品に仕上がっています。

まず目を引くのが徹底したコントラスト。
主人公の平山が住んでいる下町のボロアパートと、すぐそばで見れる東京スカイツリー
下町の銭湯や場末の居酒屋と、ポップで斬新なデザイナーズトイレ。
東京のレトロな部分と近代的な部分の両面をこれでもかと見せてきます。
そんな両面性のある東京で暮らす平山は判を押したように几帳面にルーティーンを守った毎日を過ごしています。
決まった時間に起きて布団を畳み、缶コーヒーを買い、清掃用具を積んだ軽自動車でお気に入りのカセットテープを聞きながら出勤し、担当の公衆トイレを丁寧に清掃し、仕事の後はなじみの銭湯と行きつけの居酒屋、古本屋で買った本を読みながら眠りにつく。
こんなルーティーンの生活だからこそ、迷子だったり、木漏れ日だったり、トイレの清掃の際に見つけた○×ゲームだったり、誰も目もくれないホームレスだったり、日常のちょっとした変化に気がつきます。
姪っ子の突然の訪問にも事情を聞くでもなく追い返すでもなく静かに受け入れるのも、そうしたルーティーンに裏付けされた自分なりの生き方が徹底されているからでしょう。突然シフトが増やされたり、スナックのママの恋人の存在に動揺したりすることはあったとしても。
客観的に見れば、中年の独身男性で仕事はトイレ清掃、家はボロアパートととても憧れの生活とは言い難い日々を過ごしていますが、それでもこれが彼にとっての"PERFECT DAYS"なのでしょう。

音楽の話とかもしたいけど語りだしたらキリがなさそうなのでこのへんで。


4位:ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー :VOLUME3
アメリカ)

監督:ジェームズ・ガン
出演:クリス・プラットゾーイ・サルダナデイヴ・バウティスタ、他
声の出演:ヴィン・ディーゼルブラッドリー・クーパー

地球生まれのピーター・クイルが率いる銀河の落ちこぼれヒーローチーム「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー(GoG)」の活躍を描くSFXアクション。シリーズ第3弾にして、一応の完結編となっています。
ウォーロックの襲撃により重傷を負ったロケットを救うために、ハイ・エボリューショナリーの作り出した地球そっくりの星、カウンター・アースに向かうのだが・・・。

本作はチームメンバーのアライグマ(本人は認めていない)のロケットにスポットが当てられています。
冒頭の襲撃で意識不明状態となってしまうのですが、その脳内で過去の回想が映し出されます。ここで、何故ロケットがアライグマのなりをしているのか、GoGに加わって宇宙を股にかけた活躍をするようになるのかが分かります。正直ここのエピソードだけでも素晴らしい傑作になっています。
それから本作のテーマの一つにセカンド・チャンスというものもあります。
劇中で象徴的なには、ウォーロックですね。
冒頭のシーンでロケットを傷つけてしまいますが、その彼に手を差し伸べるのがまたロケットだというのも美しいです。
本作の監督ジェームズ・ガンも以前のSNSでの発言が元でシリーズの監督から降板が決定するもファンからの署名活動により復帰できたという経緯もあります。
さらに、アイデンティティーの再確認もまたテーマとなっています。
ロケットはもちろんですが、ピーターやドラックス、ガモーラ、ネビュラ、マンティスといった仲間たちもそれぞれの生き方、それぞれの道を見つけて行きます。
もちろんこれまでのシリーズでもあったメンバー同士の丁々発止の掛け合いだったり、それぞれの好きな音楽へのこだわりなども健在です。
そして最後に、グルートのセリフに対する監督の解説がなんとも泣けます。これはぜひご自分で確認していただきたい。

 


3位:イニシェリン島の精霊
(イギリス、アメリカ、アイルランド

監督、脚本:マーティン・マクドナー
出演:コリン・ファレルブレンダン・グリーソン、ケリー・コンドン、バリー・コーガン、他

スリー・ビルボード」のマーティン・マクドナー監督がデビュー作の「ヒットマンズ・レクイエム」に続いてコリン・ファレルブレンダン・グリーソンを主演に迎えたドラマ。
1923年、アイルランドにある孤島イニシェリン島。気が良いだけが取り柄の中年男パードリックは、年の離れた親友コルムを誘ってパブで飲むのが日課だった。ところが、ある日突然、コルムは友だちであることをやめて、もう口も利かない、と一方的に絶縁宣言をする。困惑するパードリックはコルムに掛け合うも、ついには「もし自分に話しかけたら自分の指を落とす」と脅され・・・。

小さな島で2人のおっさんが仲違いをする話。
雑にプロットだけ言ってしまうと本当にそれだけの映画なんですが、そんなプロットを見せられて、「誰が見たいんだ?誰が関心あるんだ?」と思われると思いますが、その時点でおそらくは監督、脚本のマーティン・マクドナーの術中にはまっていると言えるでしょう。

映画はコルムの"絶縁宣言"からスタートするので、2人がいかに仲良かったかなどの情報はありません。冒頭ではコルムの行動の理由を探すという展開になるのかと思うのですが、「パードリックの話が退屈で、馬鹿な話に付き合っているヒマはない」というなんとも釈然としない理由に落ち着きます。こんな些細な、劇中の(町で一番のバカと言われている)ドミニクの言葉を借りれば、「絶交なんて12歳の子どもかよ!」です。そんな些細な喧嘩がエスカレートしていって・・・というのが構図になるのですが、この単純かつ他人からすれば全く興味のそそらない関係性が、まさにアイルランド内戦のメタファーとなっています。

アイルランドは1922年にイギリスから自治を認められるのですが、イギリス国王を元首とすることや北アイルランドは依然としてイギリスの領土とされることで、政府軍と条約反対派での激しい争いが起こり・・・というのが俗に言うアイルランド内戦です。
せっかく(条件付きとはいえ)独立を果たしたはずの国で、今度は同じ国民同士で争うことになったのです。このあたりは政府軍の指揮者だったマイケル・コリンズリーアム・ニーソンが演じた「マイケル・コリンズ」でも描かれています。

当事者にしてみれば大きな関心ごとでも、傍から見れば他人事というのがまさに内戦に対するアイロニーとなっています。
本作はまさにアイルランド内戦の時期が舞台設定になっていますが、イニシェリン島はなんとも牧歌的で、戦争らしいものはたまに遠くで聞こえる銃砲の音ぐらいです。
劇中で、警察官が本島の方に死刑執行の立会人として呼ばれるエピソードがありますが、この警察官は政府軍か条約反対派かどちらの処刑なのかも知りません。それぐらいに無関心だったという裏付けでしょう。

そして本作は人の生き方についてもテーマとなっています。
コルムはおそらく60代ぐらいでパードリックより一回りぐらい年上という設定だと思われますが、自分の残りの人生がそれほど残されていないと考えたときに、自分の存在意義について自問自答したのではないでしょうか。
劇中でモーツァルトの音楽は死後も生き続けているが、人の優しさをずっと覚えている人はいないと語っていたのも、まさにその存在意義についてでしょう。
だからこそ、自分の生きた証を残すために、最後に音楽に没頭するために、パードリックと絶縁したのでしょう。
この人の優しさという特性を否定するコルムに対するパードリックの返しはひたむきで素晴らしいのでぜひ映画を見てほしいです。

とまあ、この映画も語りだしたら止まらないのでこのへんにしておきますが、いろいろと深読みや自分なりの解釈も可能な作品だと思いますので、ぜひ見て感想を言い合ってもらえたら良いなと思う作品でした。

 


2位:エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス
アメリカ)

監督、脚本:ダニエル・クワンダニエル・シャイナート
出演:ミシェル・ヨーキー・ホイ・クァン、ステファニー・スー、ジェイミー・リー・カーティス、他

スイス・アーミー・マン」のダニエル・クワンダニエル・シャイナート監督コンビによるマルチバース・アドベンチャー
アメリカで夫とコインランドリーを営む中国系移民のエブリン。国税局からの問題指摘や父親の介護、一人娘の反発などで疲弊していたが、ある日、夫に乗り移った別宇宙の夫からのメッセージで、エブリンこそが全宇宙の救世主であると知らされるのだが・・・。
ダニエル・ラドクリフを死体役にしてやりたい放題だった快作「スイス・アーミー・マン」でも比類ないイマジネーションを発揮していた"ダニエルズ"ことダニエル・クワンダニエル・シャイナート監督の新作は、ついには一つの宇宙では収まらずにマルチバースの世界へと飛び出しました。
マルチバースと言えば、アメコミでは当たり前のように描かれているのですが、パラドックスの問題など十分な説明がなされていない部分も多く、個人的にはあまり好きな設定ではなかったのですが、本作では、何らかの選択や決定して分岐したパラレルワールドであることがしっかりと説明されており、かつマルチバースを超えてシンクロするために"バースジャンプ"と呼ばれる普段その人が絶対にしないであろう行為や仕草などが必要というのもバカバカしくもあるけど説得力のある設定になっています。だからこそもっとも凡庸で、もしあのときああしていれば、という思いに満ちている現宇宙のエブリンこそが、最強の救世主になる素質を持っているというの腑に落ちます。
 パラレルワールドの描き方も秀逸で、基本はエブリンが中心になっていますが、マルチバースはバースジャンプの存在を把握しているアルファバースや、カンフーの達人、歌手、料理人、交通整理の人、はたまた指がソーセージになった人類、人形や石!といった極端な世界まで、人間の視覚では視認できないレベルで映し出しています。
 それでいて、この壮大なパラレルワールドが映し出されている舞台がコインランドリーと国税局であったり、全宇宙の人類の存亡に関わるエピソードが、その実は一家族の問題であったりと、マクロとミクロの視点の同居性もまた映画的で素晴らしいと思いました。
 そして何より、誰もがエブリンのように人生一度は「あのとき、ああすればよかった」という思いは持っているはずで、そのときどきの選択や決定であらゆる可能性を秘めていたということ、それは今後の選択や決定にも言えること、すなわち何でもない自分が何者にでもなれる可能性があるということを示唆してくれています。これこそ究極の人生讃歌ではありませんか!

 


1位:雄獅少年/ライオン少年
(中国)

監督:ソン・ハイポン
声の出演(日本語吹替え版):花江夏樹桜田ひより山寺宏一、他

中国で大ヒットしたアニメ映画。
出稼ぎをしている両親の帰りを待つ少年チュン。彼はある日、華麗な獅子舞バトルで屈強な男たちを倒した少女チュンと出会う。彼女から獅子頭を譲り受けた少年チュンは、仲間たちとともに獅子舞バトルの世界へ挑戦しようとするが・・・。

中国製のアニメ映画というとあまり馴染みがありませんでしたが、その潮目が変わった作品と言えば、2019年公開の「羅小黒戦記」ではないでしょうか。
この作品はそれまで外注されることの多かった中国製のアニメ映画で、原作からアニメーションまで中国人のクリエイターで製作されていることもありますが、アニメーションの技術、表現で日本や諸外国のアニメーション映画と遜色がないだけでなく、設定や物語に中国らしさを取り入れていて、日本でもロングランとなりました。

それを経ての本作は、3DCGアニメーション(中国ではこちらの方が主流らしいですが)ということで、また一つ驚かされました。

冒頭、少年チュンが自転車で中国の田園風景を疾走するところから始まり、黒獅子のチームメンバーに絡まれお年玉を奪われるも、そこにさっそうと赤獅子が現れ、獅子舞バトルが始まります。そこで縦横無尽に空間を立ち回る獅子舞バトルに少年チュンと同様魅せられていきます。

その後の物語としては、少年チュンは獅子舞バトルを目指すも冴えない仲間しかおらず右往左往していたところで、今は魚屋の店主をしているチアンがかつて獅子舞をやっていたことを知り、なんとか弟子入りを志願して、そこから獅子舞の猛特訓が始まる・・・

という基本の設定は、負け犬少年たちが夢を追いかけるという王道的なものになっていますが、その背景には中国でも深刻化している経済格差の問題が浮き彫りになっています。
主人公のチュンは両親が出稼ぎで大都市に行っているため寂しい思いをしており、師匠となるチアンも結婚して生活していくために一度は獅子舞を諦めています。

このように、中国の伝統文化の一つである獅子舞を物語のキーに持ってきつつ、背景にしっかりと社会問題も描きつつ、ストーリーとしては王道的なものであるという奇跡のバランスが成立している一作だったと思います。
それでいてアニメーション技術の向上による表現の豊かさも伝わってきて、今後ますます目が離せなくなる中国アニメの代表作となる一本としてオススメします。

 


日本映画編に引き続き、外国映画編もベスト10形式でお送りしました。
こちらは1~4位は不動で、5位以下はちょいちょい入れ替わりそうな気がします。

中国製アニメ、アカデミー賞受賞のマルチバースアクション、戯曲がベースのアイルランドの風刺劇と、過去にないぐらいバラエティーに富んだ選出となったかもしれません。

日本映画、外国映画の1位の両方に関わっているのが桜田ひよりさんということで、2023年最も活躍したで賞にも値しますねー!

 

 それ以外の作品では、アカデミー賞関連の作品も傑作揃いだったと思います。
スティーヴン・スピルバーグ監督の自伝的作品「フェイブルマンズ」カンヌ映画祭パルム・ドールも受賞した快作「逆転のトライアングル」、「ラ・ラ・ランド」のデイミアン・チャゼル監督による映画愛のこもった185分の大作「バビロン」、閉鎖的なコミュニティーで起きた男性からの虐待に対する女性たちの決意を描いた「ウーマン・トーキング 私たちの選択」などがありました。

 キャストで言うとブレンダン・フレイザーがカムバックを果たして主演男優賞を受賞した「ザ・ホエール」ケイト・ブランシェットが狂気の指揮者を演じきった
「TAR ター」も素晴らしかったです。

 大作系では、人気のTRPGを原作にした「ダンジョンズ&ドラゴンズ アウトローたちの誇り」は元ネタのゲームを知らずとも楽しめる快作になっていましたし、DCコミックスのヒーロー映画「ザ・フラッシュ」もビジュアルはもちろん物語もエモーショナルで見応え十分でした。
グランツーリスモも日本のTVゲームが原作で、ゲームシーンとレースシーンの見せ方が素晴らしかったです。
ジョン・ウィック コンセクエンス」では、ド派手アクションシリーズの最終作にふさわしくなんでもありのバトル・ロワイアル状態のアクションに熱狂させられました。
「ザ・クリエイター 創造者」ギャレス・エドワーズがAIが進化してシンギュラリティーを迎えた世界を描いています。
「ウォンカとチョコレート工場のはじまり」では「チャーリーとチョコレート工場」の前日譚としてウィリー・ウォンカ自身にスポットを当てた作品で、ミュージカル仕様で万人受けするタイプの作品だと思います。

    アジア系の作品では、インドで映画に魅せられた少年を通じて映画愛をスクリーンいっぱいに映し出した「エンドロールのつづき」、韓国人の高校生と脱北した天才数学者の交流を描いた「不思議の国の数学者」、スペイン映画のリメイクで、女性弁護士が殺人容疑をかけられた実業家を弁護する過程で真実が明らかになっていく「告白、あるいは完璧な弁護」認知症を患う老人が青年の力を借りて復讐を果たそうとする「復讐の記憶」などが印象的でした。

 アニメ作品では、ディズニーが火と水という相容れないエレメントの2人が起こす奇跡を描いた「マイ・エレメント」、体長2.5センチの巻き貝マルセルを主人公にしたストップモーションアニメ「マルセル 靴をはいた小さな貝」、チリ制作で実物大のセットに等身大の人形や絵画を用い、その制作過程もインスタレーションとして公開された異色作「オオカミの家」などがありました。

 ドキュメンタリーでは、映画音楽の作曲家として知られるエンニオ・モリコーネの作品を担当した映画とともに振り返るモリコーネ 映画が恋した音楽家、韓国で再開発により取り壊しの決まった団地で取り残された地域猫の保護活動を追った「猫たちのアパートメント」、そして消防士、スタントマン、ホームレスなど猫を飼っている様々な男性にスポットを当てた「猫と、とうさん」、2023年のドキュメンタリー界は猫いやーでした。(ΦωΦ)ノ

 ホラー系では、ラッセル・クロウ扮するお茶目なパワー型神父が悪魔祓いをする「ヴァチカンのエクソシストは局所的に日本では大きな話題となりました。
韓国の「オクス駅お化け」は、タイトルとポスターアートに惹かれて見ましたが、物語としても怖さとしても抜群の一本でした。

 社会派な問題作では、フランソワ・オゾン監督が安楽死の問題を描いた「すべてうまくいきますように」ダルデンヌ兄弟がアフリカから難民としてやってきた2人がベルギーで必死に生きていこうとする様を描いた「トリとロキタ」、母親の偏愛により35年もの間監禁されていた男が初めて外界に出て巻き起こす騒動を描いた「悪い子バビー」は実に30年の時を経て劇場初公開となったことも話題でした。そしてAIの進化により人口子宮を使ったポッド妊娠が可能になった近未来での夫婦のあり方を描いた「ポッド・ジェネレーション」などは印象的でした。


以上、2023年を彩った(と個人的には思っている)映画の紹介でした。

2024年も1ヶ月すでに経過してしまいましたが、またたくさんの映画を見てレビューをして行きたいと思っておりますので、よろしくお願いします!

 

 

MOVIE OF THE YEAR 2023 -日本映画編-

2023年は劇場での鑑賞作品本数が298本でした。
惜しくも300本には届かずでしたが、数字だけ見ると改めて「どうやってそんなに観てるんだ???」と自問自答してしまいます。

毎年新年を迎えてから前の年の映画の総評をランキング形式で書いていたのですが、昨年まではnoteでやっていたものを今年より、こちら、はてなブログで書いていきたいと思います。

独自の映画のランキングをブログやSNSにあげている方々も拝見していて、トータルで10本を選んでいる方が多いような印象がありますが、個人的には日本映画と外国映画を分けるようにしています。
やはり日本映画は予算、公開規模、その他など実に多岐にわたっている部分もあり、それこそハリウッドの超大作などとそのまま比較するのが難しいというのもありますし、何しろサノスがコナン君に勝てない国なので、その特色は推して知るべしといったところでしょう。あとは10本選ぶという作業においても分けておいたほうがスムーズな気がするのと、単純に紹介できる本数が倍に増えるというのもあります。

長々と書いてしまいましたが、それでは早速、MOVIE OF THE YEAR 2023 -日本映画編-をお送りしたいと思います!


10位:ヴィレッジ

監督・脚本:藤井道人
出演:横浜流星黒木華、一ノ瀬ワタル、古田新太、他

「新聞記者」「ヤクザと家族 The Family」の藤井道人監督が、ゴミ処理場を誘致した地方の山村を舞台にしたサスペンスドラマ。田舎町に誘致されて建設されたゴミ処理場で働く優は、かつて父親が起こした事件のせいで息の詰まるような日々を過ごしていたが、あるとき幼なじみの美咲が東京から返ってくることになり・・・。

「新聞記者」がかなり話題先行となりましたが、藤井監督といえば「デイアンドナイト」や「ヤクザと家族 The Family」のようなクライム・サスペンスに人間ドラマを巧く織り交ぜた作品こそが真骨頂だと思っています。本作でもゴミ処理場を誘致した町の有力者とその家族、地元で村八分となり犯罪を犯した男の息子、東京から戻ってきた紅一点の幼なじみとキャラの描き方が秀逸です。キャストの中でも特筆すべきは主演の横浜流星で、序盤と終盤でまさに能の面を付け替えたかのように陰と陽の演技をスイッチしていて、どうしてもビジュアル先行だった評価を一新してくれた作品になりました。
日本の地方の町村の独特な閉鎖的な雰囲気を描きつつ、伝統芸能としての能の取り入れ方も良く、極めてクオリティーの高い一本だったのではないでしょうか?

 

 


9位:ロストケア

監督:前田哲
原作:葉真中顕
出演:松山ケンイチ長澤まさみ鈴鹿央士、柄本明、他

葉真中顕の同名小説の映画化。過酷な介護の現場を舞台としたサスペンス・ドラマ。訪問介護センターの所長が死亡した事件で、捜査の過程で斯波という介護士が浮上してくるが、彼の担当した地区の老人の死亡率が異常に高いことが明らかになり・・・。

介護現場での殺人事件と言えば、2016年に起きた津久井やまゆり園での殺人事件ですが、本作の原作が発表されたのは2013年で、まさに事件を予見していたかのようなタイミングでした。原作はどちらかと言うとミステリーに分類されるような描き方になっているものを、映画版では巧く人間ドラマとして描いています。何がモラルなのか、何が正義なのか、過酷な介護現場と法廷とを対比させつつ、今まさに日本が直面している問題を捉えています。キャストも軒並み素晴らしい。
同テーマで、まさに2016年の事件をモチーフにしている「月」もあって、そちらもインパクトはかなり大きいのですが、映画の娯楽性の面を考えて本作の方をピックアップしました。「月」もぜひあわせて観てほしいです。

 

 


8位:そして僕は途方に暮れる

監督:三浦大輔
出演:藤ヶ谷太輔前田敦子中尾明慶原田美枝子豊川悦司、他

三浦大輔監督が自身の舞台を映画化したドラマ。定職につかず自堕落な日々を過ごしていた裕一だったが、同棲中の恋人・里美と喧嘩になり、衝動的に家を飛び出してしまうが・・・。

本作もとにかくキャストが素晴らしい。藤ヶ谷太輔扮する主人公・裕一の立ち居振る舞いは自分の周りにいたら絶対に嫌だと思わせてくれるキャラクターに仕上がっています。人とのトラブルを避けるためにとにかく逃げる、逃げる、逃げる。どこまで逃げても本質的な問題は解決しないこと、それゆえいつかは逃げ場を失うこと、そしてそんな逆境においても手を差し伸べてくれる人はいることの素晴らしさ。
そして豊川悦司扮する裕一の父親はまさにこの親にしてこの子ありといったキャラクターで、逃避行の成れの果てに、それでも「面白くなってきやがったぜ」と言い張るある意味達観した行き方もまた一興。まさに混迷を極める令和の人生劇場のような作品でした。

 

 


7位:市子

監督:戸田彬弘
出演:杉咲花若葉竜也森永悠希宇野祥平中村ゆり、他

戸田彬弘監督が、自身の手がけた舞台「川辺市⼦のために」を映画化したサスペンス・ミステリー。義則は3年間同棲していた彼女・市子にプロポーズをする。その時は喜んでいた市子だが、翌日突然失踪してしまう・・・。

本作はとにかく構成の巧さが光る一本だったと思います。冒頭で市子が失踪するところが描かれ、後ろでは不穏なニュースが流れている。恋人の義則が彼女の行方を探す過程で、市子の過去を知っていくとともに、観ている側にも市子の昔の姿を回想として映していく。こういった流れで描かれているので、義則が市子の過去を知っていく過程をトレースできるようになっています。
また本作も背景にはある社会問題が描かれているのですが、ネタバレになるのでここでは割愛します。
ネタバレ抜きにしても語れる本作の魅力はなんといっても主演の杉咲花でしょう。等身大の女の子であり、なにかに怯える小動物のような雰囲気があったかと思えば、なにか影のある魔性のキャラクターでもありと変幻自在の表情や仕草を見せてくれます。2023年は「法廷遊戯」にも出演していてこちらの演技も一見の価値ありなので、杉咲花よくばりセットとして合わせてご鑑賞いただきたいと思います。


6位:金の国、水の国

監督:渡邉こと乃
声の出演:賀来賢人浜辺美波戸田恵子沢城みゆき、他

岩本ナオの同名コミックのアニメ映画化。敵対する2国の出身でひょんなことから偽りの夫婦を演じることにあった2人が両国の命運を賭けて奮闘する様を描く。

身分違いの恋、勘違いから始まる恋、対立する2つの国の出身者による禁断の恋、と本作をラブストーリーと捉えたとき、古典的で王道的な設定になっているのですが、特筆すべきは主人公の2人のビジュアルがごく平凡なキャラクターであることでしょう。とりわけヒロインのサーラは王女ではあるもののぽっちゃり体型で引っ込み思案な性格ですが、夫となるナランバヤルと出会ったことで前向きに変化していきます。一方のナランバヤルも貧乏な国の出で口だけが達者なお調子者とされていましたが、持ち前の聡明さ、機転の早さを発揮して、周囲の人々の考え方を変えていきます。こうした2人のやり取りがやがて両国の関係性にも影響を与えていくというもので、原作のコミックが1巻読み切りだとは思えないほどのボリュームです。単純なラブ・ストーリーではなく、行き過ぎたルッキズムへの批判、貧富の格差や資源に起因する外交問題など、現代の現実社会にも通じるテーマをも内包しているので、見ごたえも十分な作品でした。

 

 


5位:窓ぎわのトットちゃん

監督:八鍬新之介
原作:黒柳徹子
声の出演:大野りりあな、滝沢カレン小栗旬、杏、役所広司、他

黒柳徹子の自伝的小説「窓ぎわのトットちゃん」のアニメ映画。お転婆すぎて小学校を退学にさせられてしまうが、新しい転校先のトモエ学園では、ユニークな教育方針で、個性的なクラスメイトたちと楽しい日々を過ごしていた。そんな折、日本は戦争への道を歩み始めて・・・。

原作が出版されたのは1981年で、ギネスにも掲載されているほどの大ベストセラーでしたが、原作を読んだとき(といっても小学校の頃なので詳細な記憶はだいぶおぼろげ)の印象としては、とにかくトットちゃんこと黒柳徹子のぶっ飛んだキャラクターというのがあったけれど、映画版ではそれはもちろんトモエ学園や生徒全体に焦点が当たっている印象。おそらく当時では珍しいリトミック教育を実践していて、このあたりは多様性の叫ばれる現在に向けてのメッセージとして強調しているのかもしれません。
そして楽しい日々だけではなく日本が戦争へと突き進んでいく中で変化していく社会情勢も巧みに表現しています。
原作者の黒柳徹子さんは映像化は不可能だと思っていたこともあって長らくメディア化を望んでこなかったとのことですが、今回のアニメ化は最適解かもしれません。


4位:ケイコ 目を澄ませて

監督:三宅唱 
原作:小笠原恵子
出演:岸井ゆきの三浦友和仙道敦子、    松浦慎一郎、他

小笠原恵子の自伝的小説を「きみの鳥はうたえる」の三宅唱が映画化。
主演の岸井ゆきのが昨年の映画賞を総ナメといっても過言ではないほど絶賛された作品です。感音性難聴という障がいを抱えながらもボクシングの世界に身を投じる姿を文字通り体当たりの演技で見せてくれていますので、それも大いに納得できます。
ボクシング映画というよりは彼女自身の等身大の姿を映し出している印象で、聴覚に障がいがある故の生きづらさが伝わってきます。
通うボクシングジムも会員が減ってきてガランとした印象になっていくのですが、その中で唯一彼女がサンドバッグを殴る音だけが響き渡る。このシーンが象徴的で、言葉をほとんど発さない彼女の心を代弁しているかのよう。
熟成度の高いドラマとして印象に残る一本でした。
(2022年の作品ですが2023年に鑑賞したものとして含みました)

 

 

3位:リゾートバイト

監督:永江二朗
脚本:宮本武史
出演:伊原六花、藤原大祐、秋田汐梨、松浦祐也、他

 ネット掲示板で話題になった都市伝説「リゾートバイト」を、「きさらぎ駅」の永江二朗監督、宮本武史脚本で映画化。夏休みに離島の旅館の住み込みバイトにやってきた大学生たちが遭遇する恐怖を描く。
前作「きさらぎ駅」が映画化された際に、「今さら・・・?」と疑問に思いつつ映画館に足を運びました。ベースこそネット掲示板の元ネタに忠実でしたが、ポイント・オブ・ビュー(POV)で撮影したり、ループもののようにしたりと独自のイマジネーションの拡張が素晴らしかったという印象でした。
本作は元ネタは事前には知らなかったので映画を見たあとでチェックしましたが、序盤はそこそこオリジナルのネタに忠実になっております、序盤は。
ただ、演出としてはホラー映画のテンプレなどではなく、一番イメージが近いのは新海誠監督の「君の名は」です。ちょっと何言っているか分からないかもしれないが、これは見てもらったら分かります。
そして中盤から終盤にかけて、青春ドラマなのかファンタジーなのかよくわからない展開になりつつ、それでいて実は緻密に用意された伏線を回収して行って、まさかのあいつも登場して、そして最後の最後にはちゃんとホラーになるという、もうとにかく見てほしい!
劇中で梶原善が扮する住職が「持っていかれるぞ!」と忠告してくるシーンがありますが、持って行かれたの、こっちだわー!となること請け合いの作品でした。

 

2位:ゴジラ -1.0

監督:山崎貴
出演:神木隆之介浜辺美波山田裕貴吉岡秀隆佐々木蔵之介、他

「ALWAYS 三丁目の夕日」の山崎貴が監督・脚本・VFXを務めた「ゴジラ」70周年記念作品。
特攻兵でありながら任務を全うすることができずに失意のまま東京に戻ってきた敷島浩一。そこで偶然であった赤子を連れた女性・典子と一緒に暮らすことになり、機雷の撤去作業のため新生丸に乗り込むことになるが・・・。
 ゴジラは昭和版、平成版、ミレニアム版にさらにはハリウッドでも量産されていきますが、シリーズを追うごとにゴジラのモンスターとしての側面ばかりが強調される怪獣パニックアクションへと変貌を遂げていってしまいました。昭和版のゴジラではそもそもゴジラは人間の環境破壊や兵器開発に対するアンチテーゼであり、いわば地球や自然の代弁者とも言える存在でした。本作はその原点に立ち返っているような設定になっているのがまず好印象でした。
また舞台を戦後まもない時期に設定したこともあり、昭和版ゴジラへのリスペクトだけでなく、主人公・浩一のサバイバーズ・ギルトや他にも戦争を生き延びた人たちが再び命を賭けてゴジラと相まみえるのか、といったドラマの盛り上げ要素にもつながっています。
 もちろんそうしたドラマ部分だけでなく、ゴジラの迫力も十分。最初に出現する大戸島では至近距離で「ジュラシック・パーク」のような恐怖感の演出でインパクトを残したかと思いきや、その後はしばらく出てこない、この出し惜しみ感が、次に登場してきたときの畏怖や脅威の存在を強めています。そして日本映画として初めて米アカデミー賞の視覚効果賞にノミネートされるなど、技術面でハリウッドに評価されたというのもまさに本作の価値を決定づけていると言えるでしょう。

 


1位:交換ウソ日記

監督:竹村謙太郎
原作:櫻いいよ
出演:桜田ひより、高橋文哉、茅島みずき、曽田陵介、他

櫻いいよの同名小説を映画化。
周りの空気を読みすぎて自分の気持ちが伝えられない希美だったが、ある日の移動教室のときに、自分の机の中に「好きだ!」と書かれた手紙を見つける。その送り主が学校一のモテ男子、瀬戸山だと分かり、密かに慕っていた希美は戸惑いつつも返事を書くが・・・。

高校生の恋愛モノをスイーツ映画と自分ではカテゴライズしていて、おっさん心にもなくホルホル萌え萌えキュンキュンしながら鑑賞しているのですが、本作はそんなスイーツ映画の体をしておきながら、なかなかどうして深みのある名作になっています。
ウソから始まる恋愛というのはこのジャンルでは定番でもありますが、そこで共通の趣味を見つけて話が盛り上がっていく一方で、直接的にはコミュニケーションがうまく進まない(そもそも日記の相手だと思っていないので展開していかない)という構図で進んでいきます。その中でも徐々にヒロインの良さに気がついていくというのがなんとも素敵です。
そして二人の恋愛関係だけでなく友情や家族の話にも触れられていて、青春ドラマの要素としても十二分満たしています。
本作の魅力は交換日記、校内放送などややもすればオールドファッションなアイテムを用いて演出しているところにもあります。そのため若者だけでなく自分のようなおじさんでも十分に楽しめる作品となっています。
最後に!本作では主人公のギャップを演出するべく様々なロックの曲が出てくるのですが、その中にeastern youthの「ソンゲントジユウ」があるのもポイントが高いです。自分らしく生きることを歌った歌詞もさることながら、この曲が校内放送で、それも令和の時代の高校生に向けて流れることに感動してしまいました。

 

交換ウソ日記

 


以上、ベスト10形式でお送りしましたが、ベスト3は不動ですが、4位以下に関しては評価のタイミングなどで入れ替わるかもしれません。

こうしてみると村社会、介護、ヤングケアラーなどの社会問題を内包している作品を多く挙げた印象です。根幹にこうした社会問題を含むことでドラマとしての質を高めていた作品だったのではないでしょうか。
アニメ作品2本はどちらも表現技法で印象を残しつつも物語やキャラクターが心に残るものになっていました。

ベスト3は低予算異色ホラー、王道大作映画、スイーツ映画とバラエティーに富んだ形となりました。このあたり自分の雑食性が現れているかもしれません。


選外となった作品でも、印象的だったのは、ソリッド・シチュエーション・サスペンスとしてクオリティーが高かった「♯マンホール」藤井道人監督による韓国映画のリメイク「最後まで行く」是枝裕和監督、坂元裕二脚本で少年たち、家族、教師と複数の目線で少年の失踪事件を描いた「怪物」などがありました。

漫画原作で言えば、「ジョジョの奇妙な冒険」のスピンオフドラマの映画版となった岸辺露伴 ルーヴルへ行く」、ドラマ化もされた菅田将暉主演のミステリー「ミステリと言う勿れ」などもドラマ版と合わせて楽しめた作品だと思います。

シリーズ物だと中国ロケでスケール感が素晴らしい「キングダム 運命の炎」や舞台を関西に移した「翔んで埼玉 〜琵琶湖より愛をこめて〜」は安定の面白さでした。

TVドラマ版から7年の時を経て製作せれた「ゆとりですがなにか インターナショナル」も良い感じに時の流れを反映させたコメディーとして仕上がっていたと思います。

時代モノでは、北野武監督が豊臣秀吉に扮し、権謀術数乱れ飛ぶ戦国時代を独自の解釈で描いている「首」や、実在の事件をベースに部落出身者に対する差別と集団パニックを描いた「福田村事件」などが印象深いです。
アニメ作品では、鳥山明原作の「SAND LAND」や現在も絶賛ロングラン中の「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」は原作者の力もあって作品の出来も素晴らしかったです。

それ以外では、原田眞人監督が特殊詐欺の組織に身を投じた姉弟の姿を描いた「BAD LANDS」ビートたけし原作の恋愛小説の映画化「アナログ」LDH製作で3人のデートセラピストが顧客をもてなす1夜を描いた「MY (K)NIGHT マイ・ナイト」、最後に、ヤングケアラーの少女の姿を描いた「サーチライト -遊星散歩-」まで挙げておきたいと思います。


次回は外国映画編をお送りしたいと思います。