映画最高!(Cinema + Psycho)

映画に関するあれやこれやについて綴っていきます。映画の感想をメインに、映画にまつわるエピソード、そしてワンポイント心理学を紹介していきたいと思います。

MOVIE OF THE YEAR 2023 -日本映画編-

2023年は劇場での鑑賞作品本数が298本でした。
惜しくも300本には届かずでしたが、数字だけ見ると改めて「どうやってそんなに観てるんだ???」と自問自答してしまいます。

毎年新年を迎えてから前の年の映画の総評をランキング形式で書いていたのですが、昨年まではnoteでやっていたものを今年より、こちら、はてなブログで書いていきたいと思います。

独自の映画のランキングをブログやSNSにあげている方々も拝見していて、トータルで10本を選んでいる方が多いような印象がありますが、個人的には日本映画と外国映画を分けるようにしています。
やはり日本映画は予算、公開規模、その他など実に多岐にわたっている部分もあり、それこそハリウッドの超大作などとそのまま比較するのが難しいというのもありますし、何しろサノスがコナン君に勝てない国なので、その特色は推して知るべしといったところでしょう。あとは10本選ぶという作業においても分けておいたほうがスムーズな気がするのと、単純に紹介できる本数が倍に増えるというのもあります。

長々と書いてしまいましたが、それでは早速、MOVIE OF THE YEAR 2023 -日本映画編-をお送りしたいと思います!


10位:ヴィレッジ

監督・脚本:藤井道人
出演:横浜流星黒木華、一ノ瀬ワタル、古田新太、他

「新聞記者」「ヤクザと家族 The Family」の藤井道人監督が、ゴミ処理場を誘致した地方の山村を舞台にしたサスペンスドラマ。田舎町に誘致されて建設されたゴミ処理場で働く優は、かつて父親が起こした事件のせいで息の詰まるような日々を過ごしていたが、あるとき幼なじみの美咲が東京から返ってくることになり・・・。

「新聞記者」がかなり話題先行となりましたが、藤井監督といえば「デイアンドナイト」や「ヤクザと家族 The Family」のようなクライム・サスペンスに人間ドラマを巧く織り交ぜた作品こそが真骨頂だと思っています。本作でもゴミ処理場を誘致した町の有力者とその家族、地元で村八分となり犯罪を犯した男の息子、東京から戻ってきた紅一点の幼なじみとキャラの描き方が秀逸です。キャストの中でも特筆すべきは主演の横浜流星で、序盤と終盤でまさに能の面を付け替えたかのように陰と陽の演技をスイッチしていて、どうしてもビジュアル先行だった評価を一新してくれた作品になりました。
日本の地方の町村の独特な閉鎖的な雰囲気を描きつつ、伝統芸能としての能の取り入れ方も良く、極めてクオリティーの高い一本だったのではないでしょうか?

 

 


9位:ロストケア

監督:前田哲
原作:葉真中顕
出演:松山ケンイチ長澤まさみ鈴鹿央士、柄本明、他

葉真中顕の同名小説の映画化。過酷な介護の現場を舞台としたサスペンス・ドラマ。訪問介護センターの所長が死亡した事件で、捜査の過程で斯波という介護士が浮上してくるが、彼の担当した地区の老人の死亡率が異常に高いことが明らかになり・・・。

介護現場での殺人事件と言えば、2016年に起きた津久井やまゆり園での殺人事件ですが、本作の原作が発表されたのは2013年で、まさに事件を予見していたかのようなタイミングでした。原作はどちらかと言うとミステリーに分類されるような描き方になっているものを、映画版では巧く人間ドラマとして描いています。何がモラルなのか、何が正義なのか、過酷な介護現場と法廷とを対比させつつ、今まさに日本が直面している問題を捉えています。キャストも軒並み素晴らしい。
同テーマで、まさに2016年の事件をモチーフにしている「月」もあって、そちらもインパクトはかなり大きいのですが、映画の娯楽性の面を考えて本作の方をピックアップしました。「月」もぜひあわせて観てほしいです。

 

 


8位:そして僕は途方に暮れる

監督:三浦大輔
出演:藤ヶ谷太輔前田敦子中尾明慶原田美枝子豊川悦司、他

三浦大輔監督が自身の舞台を映画化したドラマ。定職につかず自堕落な日々を過ごしていた裕一だったが、同棲中の恋人・里美と喧嘩になり、衝動的に家を飛び出してしまうが・・・。

本作もとにかくキャストが素晴らしい。藤ヶ谷太輔扮する主人公・裕一の立ち居振る舞いは自分の周りにいたら絶対に嫌だと思わせてくれるキャラクターに仕上がっています。人とのトラブルを避けるためにとにかく逃げる、逃げる、逃げる。どこまで逃げても本質的な問題は解決しないこと、それゆえいつかは逃げ場を失うこと、そしてそんな逆境においても手を差し伸べてくれる人はいることの素晴らしさ。
そして豊川悦司扮する裕一の父親はまさにこの親にしてこの子ありといったキャラクターで、逃避行の成れの果てに、それでも「面白くなってきやがったぜ」と言い張るある意味達観した行き方もまた一興。まさに混迷を極める令和の人生劇場のような作品でした。

 

 


7位:市子

監督:戸田彬弘
出演:杉咲花若葉竜也森永悠希宇野祥平中村ゆり、他

戸田彬弘監督が、自身の手がけた舞台「川辺市⼦のために」を映画化したサスペンス・ミステリー。義則は3年間同棲していた彼女・市子にプロポーズをする。その時は喜んでいた市子だが、翌日突然失踪してしまう・・・。

本作はとにかく構成の巧さが光る一本だったと思います。冒頭で市子が失踪するところが描かれ、後ろでは不穏なニュースが流れている。恋人の義則が彼女の行方を探す過程で、市子の過去を知っていくとともに、観ている側にも市子の昔の姿を回想として映していく。こういった流れで描かれているので、義則が市子の過去を知っていく過程をトレースできるようになっています。
また本作も背景にはある社会問題が描かれているのですが、ネタバレになるのでここでは割愛します。
ネタバレ抜きにしても語れる本作の魅力はなんといっても主演の杉咲花でしょう。等身大の女の子であり、なにかに怯える小動物のような雰囲気があったかと思えば、なにか影のある魔性のキャラクターでもありと変幻自在の表情や仕草を見せてくれます。2023年は「法廷遊戯」にも出演していてこちらの演技も一見の価値ありなので、杉咲花よくばりセットとして合わせてご鑑賞いただきたいと思います。


6位:金の国、水の国

監督:渡邉こと乃
声の出演:賀来賢人浜辺美波戸田恵子沢城みゆき、他

岩本ナオの同名コミックのアニメ映画化。敵対する2国の出身でひょんなことから偽りの夫婦を演じることにあった2人が両国の命運を賭けて奮闘する様を描く。

身分違いの恋、勘違いから始まる恋、対立する2つの国の出身者による禁断の恋、と本作をラブストーリーと捉えたとき、古典的で王道的な設定になっているのですが、特筆すべきは主人公の2人のビジュアルがごく平凡なキャラクターであることでしょう。とりわけヒロインのサーラは王女ではあるもののぽっちゃり体型で引っ込み思案な性格ですが、夫となるナランバヤルと出会ったことで前向きに変化していきます。一方のナランバヤルも貧乏な国の出で口だけが達者なお調子者とされていましたが、持ち前の聡明さ、機転の早さを発揮して、周囲の人々の考え方を変えていきます。こうした2人のやり取りがやがて両国の関係性にも影響を与えていくというもので、原作のコミックが1巻読み切りだとは思えないほどのボリュームです。単純なラブ・ストーリーではなく、行き過ぎたルッキズムへの批判、貧富の格差や資源に起因する外交問題など、現代の現実社会にも通じるテーマをも内包しているので、見ごたえも十分な作品でした。

 

 


5位:窓ぎわのトットちゃん

監督:八鍬新之介
原作:黒柳徹子
声の出演:大野りりあな、滝沢カレン小栗旬、杏、役所広司、他

黒柳徹子の自伝的小説「窓ぎわのトットちゃん」のアニメ映画。お転婆すぎて小学校を退学にさせられてしまうが、新しい転校先のトモエ学園では、ユニークな教育方針で、個性的なクラスメイトたちと楽しい日々を過ごしていた。そんな折、日本は戦争への道を歩み始めて・・・。

原作が出版されたのは1981年で、ギネスにも掲載されているほどの大ベストセラーでしたが、原作を読んだとき(といっても小学校の頃なので詳細な記憶はだいぶおぼろげ)の印象としては、とにかくトットちゃんこと黒柳徹子のぶっ飛んだキャラクターというのがあったけれど、映画版ではそれはもちろんトモエ学園や生徒全体に焦点が当たっている印象。おそらく当時では珍しいリトミック教育を実践していて、このあたりは多様性の叫ばれる現在に向けてのメッセージとして強調しているのかもしれません。
そして楽しい日々だけではなく日本が戦争へと突き進んでいく中で変化していく社会情勢も巧みに表現しています。
原作者の黒柳徹子さんは映像化は不可能だと思っていたこともあって長らくメディア化を望んでこなかったとのことですが、今回のアニメ化は最適解かもしれません。


4位:ケイコ 目を澄ませて

監督:三宅唱 
原作:小笠原恵子
出演:岸井ゆきの三浦友和仙道敦子、    松浦慎一郎、他

小笠原恵子の自伝的小説を「きみの鳥はうたえる」の三宅唱が映画化。
主演の岸井ゆきのが昨年の映画賞を総ナメといっても過言ではないほど絶賛された作品です。感音性難聴という障がいを抱えながらもボクシングの世界に身を投じる姿を文字通り体当たりの演技で見せてくれていますので、それも大いに納得できます。
ボクシング映画というよりは彼女自身の等身大の姿を映し出している印象で、聴覚に障がいがある故の生きづらさが伝わってきます。
通うボクシングジムも会員が減ってきてガランとした印象になっていくのですが、その中で唯一彼女がサンドバッグを殴る音だけが響き渡る。このシーンが象徴的で、言葉をほとんど発さない彼女の心を代弁しているかのよう。
熟成度の高いドラマとして印象に残る一本でした。
(2022年の作品ですが2023年に鑑賞したものとして含みました)

 

 

3位:リゾートバイト

監督:永江二朗
脚本:宮本武史
出演:伊原六花、藤原大祐、秋田汐梨、松浦祐也、他

 ネット掲示板で話題になった都市伝説「リゾートバイト」を、「きさらぎ駅」の永江二朗監督、宮本武史脚本で映画化。夏休みに離島の旅館の住み込みバイトにやってきた大学生たちが遭遇する恐怖を描く。
前作「きさらぎ駅」が映画化された際に、「今さら・・・?」と疑問に思いつつ映画館に足を運びました。ベースこそネット掲示板の元ネタに忠実でしたが、ポイント・オブ・ビュー(POV)で撮影したり、ループもののようにしたりと独自のイマジネーションの拡張が素晴らしかったという印象でした。
本作は元ネタは事前には知らなかったので映画を見たあとでチェックしましたが、序盤はそこそこオリジナルのネタに忠実になっております、序盤は。
ただ、演出としてはホラー映画のテンプレなどではなく、一番イメージが近いのは新海誠監督の「君の名は」です。ちょっと何言っているか分からないかもしれないが、これは見てもらったら分かります。
そして中盤から終盤にかけて、青春ドラマなのかファンタジーなのかよくわからない展開になりつつ、それでいて実は緻密に用意された伏線を回収して行って、まさかのあいつも登場して、そして最後の最後にはちゃんとホラーになるという、もうとにかく見てほしい!
劇中で梶原善が扮する住職が「持っていかれるぞ!」と忠告してくるシーンがありますが、持って行かれたの、こっちだわー!となること請け合いの作品でした。

 

2位:ゴジラ -1.0

監督:山崎貴
出演:神木隆之介浜辺美波山田裕貴吉岡秀隆佐々木蔵之介、他

「ALWAYS 三丁目の夕日」の山崎貴が監督・脚本・VFXを務めた「ゴジラ」70周年記念作品。
特攻兵でありながら任務を全うすることができずに失意のまま東京に戻ってきた敷島浩一。そこで偶然であった赤子を連れた女性・典子と一緒に暮らすことになり、機雷の撤去作業のため新生丸に乗り込むことになるが・・・。
 ゴジラは昭和版、平成版、ミレニアム版にさらにはハリウッドでも量産されていきますが、シリーズを追うごとにゴジラのモンスターとしての側面ばかりが強調される怪獣パニックアクションへと変貌を遂げていってしまいました。昭和版のゴジラではそもそもゴジラは人間の環境破壊や兵器開発に対するアンチテーゼであり、いわば地球や自然の代弁者とも言える存在でした。本作はその原点に立ち返っているような設定になっているのがまず好印象でした。
また舞台を戦後まもない時期に設定したこともあり、昭和版ゴジラへのリスペクトだけでなく、主人公・浩一のサバイバーズ・ギルトや他にも戦争を生き延びた人たちが再び命を賭けてゴジラと相まみえるのか、といったドラマの盛り上げ要素にもつながっています。
 もちろんそうしたドラマ部分だけでなく、ゴジラの迫力も十分。最初に出現する大戸島では至近距離で「ジュラシック・パーク」のような恐怖感の演出でインパクトを残したかと思いきや、その後はしばらく出てこない、この出し惜しみ感が、次に登場してきたときの畏怖や脅威の存在を強めています。そして日本映画として初めて米アカデミー賞の視覚効果賞にノミネートされるなど、技術面でハリウッドに評価されたというのもまさに本作の価値を決定づけていると言えるでしょう。

 


1位:交換ウソ日記

監督:竹村謙太郎
原作:櫻いいよ
出演:桜田ひより、高橋文哉、茅島みずき、曽田陵介、他

櫻いいよの同名小説を映画化。
周りの空気を読みすぎて自分の気持ちが伝えられない希美だったが、ある日の移動教室のときに、自分の机の中に「好きだ!」と書かれた手紙を見つける。その送り主が学校一のモテ男子、瀬戸山だと分かり、密かに慕っていた希美は戸惑いつつも返事を書くが・・・。

高校生の恋愛モノをスイーツ映画と自分ではカテゴライズしていて、おっさん心にもなくホルホル萌え萌えキュンキュンしながら鑑賞しているのですが、本作はそんなスイーツ映画の体をしておきながら、なかなかどうして深みのある名作になっています。
ウソから始まる恋愛というのはこのジャンルでは定番でもありますが、そこで共通の趣味を見つけて話が盛り上がっていく一方で、直接的にはコミュニケーションがうまく進まない(そもそも日記の相手だと思っていないので展開していかない)という構図で進んでいきます。その中でも徐々にヒロインの良さに気がついていくというのがなんとも素敵です。
そして二人の恋愛関係だけでなく友情や家族の話にも触れられていて、青春ドラマの要素としても十二分満たしています。
本作の魅力は交換日記、校内放送などややもすればオールドファッションなアイテムを用いて演出しているところにもあります。そのため若者だけでなく自分のようなおじさんでも十分に楽しめる作品となっています。
最後に!本作では主人公のギャップを演出するべく様々なロックの曲が出てくるのですが、その中にeastern youthの「ソンゲントジユウ」があるのもポイントが高いです。自分らしく生きることを歌った歌詞もさることながら、この曲が校内放送で、それも令和の時代の高校生に向けて流れることに感動してしまいました。

 

交換ウソ日記

 


以上、ベスト10形式でお送りしましたが、ベスト3は不動ですが、4位以下に関しては評価のタイミングなどで入れ替わるかもしれません。

こうしてみると村社会、介護、ヤングケアラーなどの社会問題を内包している作品を多く挙げた印象です。根幹にこうした社会問題を含むことでドラマとしての質を高めていた作品だったのではないでしょうか。
アニメ作品2本はどちらも表現技法で印象を残しつつも物語やキャラクターが心に残るものになっていました。

ベスト3は低予算異色ホラー、王道大作映画、スイーツ映画とバラエティーに富んだ形となりました。このあたり自分の雑食性が現れているかもしれません。


選外となった作品でも、印象的だったのは、ソリッド・シチュエーション・サスペンスとしてクオリティーが高かった「♯マンホール」藤井道人監督による韓国映画のリメイク「最後まで行く」是枝裕和監督、坂元裕二脚本で少年たち、家族、教師と複数の目線で少年の失踪事件を描いた「怪物」などがありました。

漫画原作で言えば、「ジョジョの奇妙な冒険」のスピンオフドラマの映画版となった岸辺露伴 ルーヴルへ行く」、ドラマ化もされた菅田将暉主演のミステリー「ミステリと言う勿れ」などもドラマ版と合わせて楽しめた作品だと思います。

シリーズ物だと中国ロケでスケール感が素晴らしい「キングダム 運命の炎」や舞台を関西に移した「翔んで埼玉 〜琵琶湖より愛をこめて〜」は安定の面白さでした。

TVドラマ版から7年の時を経て製作せれた「ゆとりですがなにか インターナショナル」も良い感じに時の流れを反映させたコメディーとして仕上がっていたと思います。

時代モノでは、北野武監督が豊臣秀吉に扮し、権謀術数乱れ飛ぶ戦国時代を独自の解釈で描いている「首」や、実在の事件をベースに部落出身者に対する差別と集団パニックを描いた「福田村事件」などが印象深いです。
アニメ作品では、鳥山明原作の「SAND LAND」や現在も絶賛ロングラン中の「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」は原作者の力もあって作品の出来も素晴らしかったです。

それ以外では、原田眞人監督が特殊詐欺の組織に身を投じた姉弟の姿を描いた「BAD LANDS」ビートたけし原作の恋愛小説の映画化「アナログ」LDH製作で3人のデートセラピストが顧客をもてなす1夜を描いた「MY (K)NIGHT マイ・ナイト」、最後に、ヤングケアラーの少女の姿を描いた「サーチライト -遊星散歩-」まで挙げておきたいと思います。


次回は外国映画編をお送りしたいと思います。