現地時間の3月10日(日)に第96回アカデミー賞が発表されました。
自分の予想結果とともに振り返っていきたいと思います。
記載は発表順に揃えました。受賞作は赤色、自分の予想が的中している場合は太字で示しています。
- 助演女優賞
- 短編アニメーション賞
- 長編アニメーション映画賞
- 脚本賞
- 脚色賞
- メイクアップ&ヘアスタイリング賞
- 美術賞
- 衣裳デザイン賞
- 国際長編映画賞
- 助演男優賞
- 視覚効果賞
- 編集賞
- 短編ドキュメンタリー賞
- 長編ドキュメンタリー賞
- 撮影賞
- 短編映画賞
- 音響賞
- 作曲賞
- 歌曲賞
- 主演男優賞
- 監督賞
- 主演女優賞
- 作品賞
- 第96回アカデミー賞雑感
助演女優賞
エミリー・ブラント 『オッペンハイマー』
ダニエル・ブルックス 『カラーパープル』
ジョディ・フォスター 『ナイアド ~その決意は海を越える~』
アメリカ・フェレラ 『バービー』
◎ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ 『The Holdovers(原題)』
ここは大本命『The Holdovers(原題)』のダヴァイン・ジョイ・ランドルフが受賞しました。
前哨戦での圧倒的な強さ、ベトナム戦争で息子を亡くした母親という役どころ、実質3人の主演のうちの1人という点と死角がなかったというところでしょうか。
邦題も「ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ」と決まったようで、アレクサンダー・ペイン監督作品は「ダウンサイズ」以来となるので楽しみにしたいと思います。
短編アニメーション賞
◎『Letter to A Pig(原題)』
○『Ninety - Five Senses(原題)』
『Our Uniform(原題)』
『Pachyderme(原題)』
『War Is Over! Inspired by The Music of John & Yoko』
ここは、ジョン・レノン&オノ・ヨーコの「Happy Xmas (War Is Over)」にインスパイアされて製作した『War Is Over! Inspired by The Music of John & Yoko』が受賞となりました。戦地の敵味方同士が、鳩にチェスの次の手を託して交流していく様を描いているということで、アニメーションの技術的な面よりも作品のテーマ性の方を評価されたという感じでしょうか。
長編アニメーション映画賞
『マイ・エレメント』
○『スパイダーマン アクロス・ザ・スパイダーバース』
『ニモーナ』
『Robot Dreams(原題)』
◎『君たちはどう生きるか』
『君たちはどう生きるか』が受賞しました!
宮崎駿監督は「千と千尋の神隠し」以来の2度目となる受賞です。
日本では公開まで映画の内容についての情報がかなり抑えられていたこともありますし、過去のエンターテインメント性の高い作品群と比べるとどうしてもスケールダウン感が否めないかと思ってしまっていたのですが、海外での評判はまた異なった視点からのものもあったのでしょう。
脚本賞
サミー・バーチ&アレックス・メカニク 『May December(原題)』
○デイヴィッド・ヘミンソン 『The Holdovers(原題)』
ブラッドリー・クーパー&ジョシュ・シンガー 『マエストロ:その音楽と愛と』
セリーヌ・ソン 『パスト ライブス/再会』
◎ジュスティーヌ・トリエ&アルチュール・アラリ 『落下の解剖学』
本命予想の『落下の解剖学』が受賞しました。
夫の不可解な転落死をきっかけにした妻の裁判で夫婦の関係や妻の嗜好などが明らかになっていき、事件の真相の鍵を握る盲目の息子の心が揺れ動いていく・・・という作品ですが、大半が法廷での舌戦という会話劇となっているので、評価されやすいのはやはりこの部門かと思っていましたがその通りになりましたね。
ちなみにフランス映画がこの部門を受賞したのは1966年の「男と女」以来だそうで、この映画もカンヌ映画祭でパルム・ドール(最高賞)を受賞しています。
脚色賞
○『オッペンハイマー』
『関心領域』
『バービー』
『哀れなるものたち』
◎『American Fiction(原題)』
ここは作品賞はじめ最多部門ノミネートの『オッペンハイマー』を抑えて、『American Fiction(原題)』が受賞となりました。
売れない黒人作家が逆ギレ気味にコンプライアンス完全無視の小説を書いたらそれが思いの外話題になって・・・というプロットだけで明らかに面白いと思える作品ですからね。
脚本賞、脚色賞の作品は時として作品賞受賞作品よりも"面白い"と思うことがありますので、本作のようにウィットとアイロニーに富んだ作品が受賞するというのも大いにうなずけます。
現在Amazon Prime Videoで鑑賞できますので、興味のある方はぜひ。
メイクアップ&ヘアスタイリング賞
『オッペンハイマー』
○『マエストロ:その音楽と愛と』
『Golda(原題)』
◎『哀れなるものたち』
『雪山の絆』
ここも本命の『哀れなるものたち』が受賞しました。
この部門とこのあとに発表される美術賞、衣装デザイン賞はセットで受賞することも多く関連の強い部門ですが、その中でも本作が一番受賞に近いと思ったのがこの部門です。
『マエストロ:その音楽と愛と』や『オッペンハイマー』は実在の人物に近づけるメイクアップということで過去を見ても受賞しやすい傾向があるのですが、それを抑えての受賞となりました。
『哀れなるものたち』については自分のブログで感想を書いていますので、興味のある方は、以下のリンク先の記事をご覧ください。
美術賞
『オッペンハイマー』
『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
『ナポレオン』
◎『バービー』
○『哀れなるものたち』
ここも『哀れなるものたち』が受賞しました。
公式サイトにもプロダクション・デザインの解説動画があるのですが、キャストの誰もがあの独特の世界に入り込めた要因として美術の素晴らしさを上げていたので、受賞も大いに納得できます。
『バービー』もあの世界観を構築していて素晴らしいと思ったのですが、結果的には相手が悪かったということでしょうか。
衣裳デザイン賞
『オッペンハイマー』
『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
『ナポレオン』
◎『バービー』
○『哀れなるものたち』
ここも『バービー』と『哀れなるものたち』の一騎打ち構図で、『哀れなるものたち』が受賞しました。
『バービー』の衣装はバラエティー豊かで、この美術系の3部門では最も受賞に近いと思っていたのですが、受賞を逃してしまいました。
『哀れなるものたち』もベラの個性的なドレスが目を惹くので受賞は妥当かもしれませんが、やはりアカデミー賞としての作品評価で『バービー』がやや軽視されてしまった部分はあるのかもしれませんね。
国際長編映画賞
『The Teachers' Lounge』(ドイツ)
○『Io Capitano』(イタリア)
『PERFECT DAYS』(日本)
『雪山の絆』(スペイン)
◎『関心領域』(イギリス)
ここは本命『関心領域』が受賞となりました。やはり候補作の中で唯一作品賞にもノミネートされているというのも強かったですね。
アウシュヴィッツ強制収容所の隣で幸せに暮らす所長の家族という壁を隔てた2つのあまりにも対照的な日々を描くというのが、数多く製作されているホロコーストモノにおいても異色の存在と言えるでしょう。日本の映画館でも予告が流れ始めていますので公開が楽しみです。
『PERFECT DAYS』は残念でしたが、こちらも良い映画ですのでぜひ。
助演男優賞
スターリング・K・ブラウン 『American Fiction(原題)』
ロバート・デ・ニーロ 『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
◎ロバート・ダウニー・ジュニア 『オッペンハイマー』
ライアン・ゴズリング 『バービー』
マーク・ラファロ 『哀れなるものたち』
ここも本命の『オッペンハイマー』のロバート・ダウニー・ジュニアが受賞しました。
こちらも実在の人物を演じていて、しかも主人公と対立する役どころとして非常に重要なものであること、そしてスキャンダルによるキャリアの低迷からカムバックしたという部分なども考えて盤石の受賞だったのかもしれません。
ライアン・ゴズリングも素晴らしかったと思うのですが、やはり『バービー』には逆風が吹いてしまっていたのかもしれません。
視覚効果賞
○『ザ・クリエイター/創造者 』
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』
◎『ゴジラ-1.0』
『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』
『ナポレオン』
『ゴジラ-1.0』!おめでとうございます!
プレゼンターのアーノルド・シュワルツェネッガーとダニー・デヴィートの「ツインズ」コンビによって「ゴジラ!」と言われた瞬間の会場の盛り上がりはすごいものがありました。
予算規模的にはハリウッドの作品には遠く及ばないものながら極めてクオリティーの高いVFXを実現したということも大いに評価に影響したのでしょう。
アメリカでも邦画の実写映画部門で歴代興収1位になるなど、その勢いはとどまることを知りませんでしたね。
ちなみに監督がVFXも担当してこの部門を受賞した例は、1968年の「2001年 宇宙の旅」のスタンリー・キューブリック以来の2例目ということで、まさに歴史に残る快挙と言えるでしょう。
編集賞
◎『オッペンハイマー』
『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
『落下の解剖学』
『哀れなるものたち』
『The Holdovers(原題)』
ここも本命の『オッペンハイマー』でした。
受賞したジェニファー・レイムは、ノア・バームバック監督の「フランシス・ハ」「ヤング・アダルト・ニューヨーク」、アカデミー賞でも話題になった「マンチェスター・バイ・ザ・シー」、そしてアリ・アスター監督の「ヘレディタリー/継承」と数々の名作、それもジャンルを超えた作品で活躍を見せています。クリストファー・ノーラン監督作も「TENET テネット」に続くタッグで見事受賞となりました。
これは作品賞に向けても追い風となるでしょう。
短編ドキュメンタリー賞
『The ABCs Of Book Bannning』
○『The Barber of Little Rock』
◎『Island in Between』
『The Last Repair Shop』
『Nai Nai and Wài Pó』
ここは『The Last Repair Shop』でした。
学生のために楽器を無償で修理する職人の姿を描いた作品ということで、未来の若者の夢を後押しする作品が受賞となりました。
現在ディズニープラスで視聴可能とのことです(自分は加入していないので見れませんが)。 La
長編ドキュメンタリー賞
『Bobi Wine : The People's President』
○『The Eternal Memory』
◎『Four Daughters』
『To Kill A Tiger』
『20 Days in Mariupol』
ここは『20 Days in Mariupol』が受賞しました。
ウクライナのマリウポリに滞在したジャーナリストの姿を追ったドキュメンタリーです。
昨年は先日亡くなったアレクセイ・ナワリヌイを捉えた「ナワリヌイ」が受賞した部門で、2年連続でロシア・ウクライナ情勢を対象とした作品が受賞したことになります。
世界的な関心が、そしてこの問題が2年経っても続いていることを痛感させられます。
NHKですでに放映済だったらしいのですが見逃してしまったので、この受賞で再放送をしてもらえたら良いですね。
撮影賞
◎『オッペンハイマー』
『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
『マエストロ:その音楽と愛と』
『哀れなるものたち』
『伯爵』
ここも本命『オッペンハイマー』が受賞しました。
撮影担当のホイテ・ヴァン・ホイテマは、同じくクリストファー・ノーラン監督の「ダンケルク」以来のノミネートでこれが初受賞となります。
「インターステラー」や「TENET テネット」、昨年の話題作「NOPE/ノープ」も担当しており、正直どのタイミングで受賞してもおかしくなかったと思うのですが、『オッペンハイマー』でついに実現しましたね。
編集賞、撮影賞も取ってこれは作品賞は確定か?と思わせる展開ですね。
短編映画賞
『The After(原題)』
『Invincible(原題)』
『Knight of Fortune(原題)』
『Red, White And Blue(原題)』
◎『ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語』
ここは知名度で抜きん出ている『ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語』が受賞しました。
ウェス・アンダーソン監督作品も実はこれが初受賞となります。
ギャンブルでイカサマをするために超能力を身につけようとする男の話で、これまた監督独特のイマジネーションが遺憾なく発揮されてそうです。
こちらはNetflixで見られるそうです(自分は未加入なので見られません・・・)。
音響賞
『ザ・クリエイター/創造者』
○『マエストロ:その音楽と愛と』
『関心領域』
◎『オッペンハイマー』
『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』
ここは『関心領域』が受賞しました。
ホロコーストモノということで戦争映画なども強い部門ではありますが、『オッペンハイマー』とこれまた受賞しやすい音楽映画の『マエストロ:その音楽と愛と』を抑えての受賞というのは純粋にすごいですね。
昨年はドイツ映画の「西部戦線異状なし」が9部門ノミネートで4部門受賞と目立っており、ヨーロッパの映画が国際長編映画賞部門以外でも注目されるようになっているのかもしれません。
『マエストロ:その音楽と愛と』はここを逃すと無冠の可能性が・・・。
作曲賞
○ルドウィグ・ゴランソン 『オッペンハイマー』
ジャースキン・フェンドリックス 『哀れなるものたち』
◎ロビー・ロバートソン 『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
ラウラ・キャップマン 『American Fiction(原題)』
ジョン・ウィリアムス 『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』
ここは『オッペンハイマー』のルドウィグ・ゴランソンが受賞しました。
重厚なクラシックサウンドで過去の傾向では受賞しやすさもありますが、良くも悪くも無難という印象もありました。やはり作品の追い風に乗っているのかもしれません。
ルドウィグ・ゴランソンは「ブラックパンサー」で受賞しており弱冠39歳で2度目の受賞となりました。
『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』のロビー・ロバートソンは残念でしたが、その音楽は印象的でこちらもまた永遠に残るものとなるでしょう。
歌曲賞
“The Fire Inside” —『Flamin’Hot(原題)』
◎“I’m Just Ken” — 『バービー』 Music & Lyrics by: Mark Ronson, Andrew Wyatt
“It Never Away” —『American Symphony』
“Wahzhazhe(A Song For My People) —『キラーズ・オブ・ザ・フラワー・ムーン』
○“What Was I Made For?” — 『バービー』 Music & Lyrics by: Billie Eilish O’Connell, Finneas O’Connell
『バービー』 からノミネートされた2曲のうち主題歌となっている“What Was I Made For?” が受賞しました。
インパクトやキャストが自ら歌っている部分も考慮して“I’m Just Ken” の方を本命視していたのですが、主題歌の方でしたね。
ビリー・アイリッシュは「007 ノー・タイム・トゥ・ダイ」に続き2回目の受賞となりました。
『バービー』 が唯一この部門で爪痕を残してくれました。
主演男優賞
ブラッドリー・クーパー 『マエストロ:その音楽と愛と』
○キリアン・マーフィー 『オッペンハイマー』
コールマン・ドミンゴ 『ラスティン:ワシントンの「あの日」を作った男』
◎ポール・ジアマッティ 『The Holdovers(原題)』
ジェフリー・ライト 『American Fiction(原題)』
『オッペンハイマー』のキリアン・マーフィーが受賞しました。
キャリアは豊富でもアカデミー賞はこれが初ノミネート。
ただそんな逆風をものともせず堂々の受賞となりました。
実在の人物を演じているというのはもちろんですが、やはり作品の勢いがあるんでしょう。
ポール・ジアマッティは残念でしたが、作品には大いに期待できそうなので楽しみにしています。
監督賞
ジュスティーヌ・トリエ 『落下の解剖学』
ヨルゴス・ランティモス 『哀れなるものたち』
◎クリストファー・ノーラン 『オッペンハイマー』
マーティン・スコセッシ 『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
ジョナサン・グレイザー 『関心領域(原題:The Zone of Interest)』
監督賞も『オッペンハイマー』のクリストファー・ノーラン。
まあこの流れでは当然の受賞といった感じでしょう。
監督賞としては「ダンケルク」に続く2回目のノミネートでの受賞ですが、ノミネートされていなかったときもことごとく不可解な印象を受けるものが多かったので、正直遅すぎる受賞といった気もします。
ここまで来たらさすがに作品賞を逃すことはないでしょう。
主演女優賞
◎リリー・グラッドストーン 『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
キャリー・マリガン 『マエストロ:その音楽と愛と』
▲ザンドラ・ヒュラー 『落下の解剖学』
アネット・ベニング 『ナイアド ~その決意は海を越える~』
○エマ・ストーン 『哀れなるものたち』
『哀れなるものたち』のエマ・ストーンが受賞しました。
入水自殺をした母親の体にその胎児の脳を移植された女性という頭は子ども、体は大人という難役を文字通り体を張って演じています。
本作の印象=エマ・ストーンの存在・演技とでも言えるぐらいに作品の中心として引っ張って言っているので受賞も大いにうなずけます。
エマ・ストーンは「ラ・ラ・ランド」以来2度目の受賞で、これからのキャリアを考えてもさらなる大女優になっていく可能性が高いですね。
『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』のリリー・グラッドストーンは先住民オセージ族の毅然とした女性ということで評価されやすい要素は多かったと思うのですが、立ち位置的には助演という印象があることや、作品の勢いが今回に関してはそこまでなかったことが影響しているかもしれません。
作品賞
◎『オッペンハイマー』
『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
『マエストロ:その音楽と愛と』
『パスト ライブス/再会』
『関心領域』
○『落下の解剖学』
『バービー』
『哀れなるものたち』
『American Fiction(原題)』
▲『The Holdovers(原題)』
この流れではすでに当確だったかもしれませんが、『オッペンハイマー』が堂々の受賞となりました。
この部門に直結しやすい監督賞、編集賞でしっかり受賞し、これまでクリストファー・ノーラン監督作品では評価されにくかった俳優部門でも2部門受賞とサプライズの要素は少なかったように思います。
『落下の解剖学』は作品としてのインパクトで及ばなかったかもしれません。
カンヌ映画祭のパルム・ドール(最高賞)受賞作品でアカデミー賞作品賞を受賞したのは最近だと2020年の「パラサイト 半地下の家族」がありましたが、それ以前は1955年の「マーティ」まで遡ります。評価の基準なども違うのでしょうが、同時受賞は至難の業であることが伺えますね。
第96回アカデミー賞雑感
予想の結果は、
本命(◎)的中 ・・・ 13
対抗(○)的中 ・・・ 6
ハズレ ・・・ 4
でした。
まずまず的中しましたかね?
外れたのが、短編アニメーション賞、短編ドキュメンタリー賞、長編ドキュメンタリー賞、音響賞なので主要部門に限ってはほぼ完璧な予想でしたね(自画自賛)。
最多受賞は『オッペンハイマー』で13部門ノミネート中7部門での受賞でした。
他、複数受賞は、『哀れなるものたち』が4部門、『関心領域(原題:The Zone of Interest)』が2部門となりました。
まずは下馬評通り『オッペンハイマー』強しという結果ですね。
対して『バービー』の方は歌曲賞のみという結果に終わってしまいました。
昨年の夏に大ヒットし、『オッペンハイマー』と『バービー』を両方一気に鑑賞する"バーベンハイマー"という名前のついた現象にまで及んでいた両作が明暗を分けるといった形になってしまいました。
興行的に大ヒットした作品はアカデミー賞ではむしろ評価されない傾向も多く、『オッペンハイマー』のヒットが例外的であるとも言えますし、受賞の可能性が高いと目されていた美術賞、衣裳デザイン賞には『哀れなるものたち』という強敵がいたことがありますが、それを差し引いても、監督賞や主演女優賞にはノミネートされてしかるべきだったのでは?と思います。
バーベンハイマーに関して、一般ファンの作成したコラボ画像を公式SNSが「いいね」したことが物議を醸し、『オッペンハイマー』は一時公開が見送られ、『バービー』も一部映画ファンを除いてはそこまで話題にならずに終了してしまいました。
確かに日本は唯一の被爆国であり原爆の与える影響というものに非常に敏感ですし、それをいわゆるネットミームにされてしまったことに憤慨する気持ちがあるのは大いに理解できます。
ただ日本でもナチスのヒトラーの演説に適当な日本語字幕をつけたものなど、世界からすればタブー視されているものをネットミーム化している現実があります。
個人のレベルでやっていたことが今やSNSで世界中に拡散されてしまう時代なだけに一人ひとりが意識していかなければならないことだと思いますが、公式アカウントがそれを拡散してしまうというのはいただけないですね。結果的に『バービー』は一つの大きなマーケットを失ったことになりますし、何よりややもすれば過剰なレベルでポリティカル・コレクトネスに配慮してきたハリウッドが自分たちと直接的に関わりないことについてはさほど関心がないということを示してしまったとも言えます。近年当たり前のように叫ばれてきた多様性を重視することを今一度見つめ直すよい機会になればと思います。
とはいえ、やはり自分は映画は自分で見てしっかり判断したいとも思っています。
『オッペンハイマー』は3月末に公開されますが、映画の評価はそのときまでとっておきましょう。
授賞式はWOWOW独占放送のため自分は全部を追っては見ることはできなかったのですが、プレゼンターとしてインパクトがあったのはやはり衣装デザイン賞のときのジョン・シナですね。
アキラ100%ばりの全裸スタイルで登場して衣装の重要性を訴えるというのは、まさに世界の共通言語として通じるものがあります。
その一方で、助演男優賞のロバート・ダウニー・ジュニア、主演女優賞のエマ・ストーンの受賞の際に、プレゼンターがどちらもキー・ホイ・クァンとミシェル・ヨーというアジア人ということで、その受賞のときの対応が問題視もされています。ロバート・ダウニー・ジュニアはキー・ホイ・クァンの方を見ずにオスカー像を片手で受け取っている点、エマ・ストーンもメインのプレゼンターであるミシェル・ヨーではなくジェニファー・ローレンスからオスカー像を受け取っている点で、いずれもアジア人を軽視、蔑視しているのではないかと指摘されています。
どちらも映像だけだと確かにそのように判断されてしまう可能性が大いにありますが、エマ・ストーンの方に関しては、ドレスが破れて慌てていたこと、ミシェル・ヨーがジェニファー・ローレンスの方を向いてオスカー像を促していること、そして何よりミシェル・ヨー自身のInstagramで「(エマ・ストーンの親友である)ジェニファー・ローレンスからオスカー像を渡してもらいたいと思ったこと」が綴られています。以下がミシェル・ヨーのオフィシャルInstagramでの投稿になります。
状況を正確に把握せずに過剰に差別だ偏見だと声高に叫ぶのは望ましくない傾向だと思います。ただ、ロバート・ダウニー・ジュニアの方はまだ本人もキー・ホイ・クァン側もこれといったコメントを出していないようで、特にロバート・ダウニー・ジュニアはようやく薬物トラブルに起因するスキャンダルから立ち直ってきたところなので、余計なイメージをつけない方が良いのではと思ってしまいます。
とはいえ、こうした疑惑が出てきた要因の一つに、今年はなぜかプレゼンターが複数名いたということもあるのではないかと思っています。ロバート・ダウニー・ジュニアもプレゼンターがキー・ホイ・クァンしかいなかったら目も合わせずに片手で受け取るなんてことするはずがないでしょうし、余計な演出が余計な疑惑を生んだようにも思いますね。
アメリカではリリー・グラッドストーンが主演女優賞を逃したことで、やはり人種差別の影響があるのではないかと揶揄されているようです。この件に関しては、主演女優賞のところにも書きましたが、エマ・ストーンと比較して決定的に違っている部分は役どころの立ち位置です。『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』はやはりレオナルド・ディカプリオが主演で、リリー・グラッドストーンは助演という印象が強いです。対して『哀れなるものたち』のエマ・ストーンは映画のイコンともなっていますし、まさにリーディングロールになっています。主演女優賞と考えたとき、そして2人の演技のレベルでの差を感じなかったとしたら、やはりエマ・ストーンが受賞したということには十分に納得できます。ちなみに主演か助演かはアカデミー賞側で判断しているのではなく作品の製作側の判断によるものだそうです。助演ならあるいは・・・?あとはやはり作品全体の評価として『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』の勢いがなかったこともあるかもしれません。主演のレオナルド・ディカプリオぐらいはノミネートされてしかるべきだったかと思いますし、作曲賞はチャンスありかと思っていたのですが、結果的には無冠で終わってしましたしね。
かつてホワイトウォッシュと批判されたアカデミー賞もここ数年は多様性を意識して人種を問わず賞の対象となっている印象がありましたが、やはりどうしてもこうした問題にまつわるトラブルが出てきてしまうのはなんとも残念ですね。
それでも、まさに自分たちのこと以外に関心を持たないことの問題を描いた『関心領域』が受賞したり、脚色賞では、人種問題やコンプライアンス、ポリコレを逆手に取って痛快な作品に仕上げた『American Fiction(原題)』が受賞したりしたところは良かったと思います。
そして最後に!今年はなんと言っても日本映画の快挙ですよ。
スタジオジブリの宮崎駿監督作『君たちはどう生きるか』が長編アニメーション賞、そして『ゴジラ-1.0』が視覚効果賞を受賞しました。
特に『ゴジラ-1.0』は日本映画がこの部門で受賞したのが初めてというのも快挙中の快挙と言えるでしょう。わずか35人のスタッフで作り上げたとは思えない精緻な表現、そしてデジタルとアナログの巧みな融合が評価されたようです。予算規模が他の作品の20分の1ほどで済んでいることも取り上げられていましたが、裏を返すとそれだけ日本映画のバジェットが少ないということも意味しています。結果的にはスタッフに支払われる給料も少なく抑えられている可能性があるということでこのあたりは日本映画界が今後改善していかなければ、改善されなければならない部分かと思います。ともあれ、今は受賞を素直に喜びましょう。作品関係者の皆様、おめでとうございます!
以上、第96回アカデミー賞の雑感でした。とりあえず未公開作品の公開を心待ちにしたいと思います。